わしらはかみさま

水村鳴花

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第二話 ねむりがみ

いち

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 青葉は大きなあくびをしながら、居間に顔を出した。青葉の両親は、既に食卓に着いている。

「おはよう、青葉」

 母が青葉に気付き、微笑む。

「おはよう」

「おう。今日、小町ちゃんと買い物行くんやってな」

 父が振り返って青葉に尋ねた。

「うん。滞在伸ばすけん、色々必要な物が増えたんやと」

 当の小町は、まだ起きてきていないようだ。

『買い物楽しみじゃのう』

 カザヒが嬉しそうに言ってきたので、青葉は眉をひそめた。

「……来る気なん?」

『当たり前じゃ!』

 えっへん、とカザヒは威張る。一方、ミナツチは興味がなさそうに、ぼんやりしている。

 この辺りは店など、ほとんどない。だから近くの町へ出なければならないのだが……。

 守り神が町に付いて来るのは、避けたかった。

「ひょっと、他の人に見えたらどうするん? 留守番しとき」

『嫌じゃ!』

 青葉の命令にも、カザヒは聞く様子がない。霊力が上がったものの、まだ言霊は言うことを聞かせられるほどではないようだ。

「連れてったり。かわいそうやないか」

「親父、そういう問題ちゃうんよ」

 父の同情に、青葉は呆れるしかない。

「連れていってあげましょうよ」

 背後から加勢してきたのは、起きてきたばかりの小町だ。

 彼女に言われては仕方ない、と、結局青葉が折れた。



 車を小一時間走らせ、二人と二柱はショッピングモールに辿り着いた。

 小町が服を選んでくると言ったので、青葉はベンチに座って双つ神と待つことにした。

『人いっぱいじゃのう』

 カザヒは好奇心いっぱいに飛び回っているが、ミナツチはおとなしく、青葉の隣に座っていた。実に、対照的な神々である。

 しばらくぼうっとしていた青葉は、こちらに向かって走ってくる小町と男を見て、ぎょっとした。

「小町、どしたん?」

「変な人が!」

 小町が指差した人物を見て、青葉はあんぐり口を開けた。

 赤茶色の長い髪に、同じ色の目。そして、自分に少し似た面差し――。

穂波ほなみ!」

 その呼びかけに対し、小町は息を呑み、青葉に尋ねた。

「――知り合い?」

「イトコや」

『穂波、久しぶりじゃ!』

『んだんだ』

 守り神たちが、穂波にまとわりつく。

「うぃっす、神さん。元気やった?」

 普通に挨拶している穂波を見て、小町はますます戸惑っていた。

 その様子を察し、青葉は少し笑ってから説明した。

「穂波も、ちょっと霊力があるん。しかも、双神の血を引いとるけんな。昔から、見えとってん」

「そ、そうなの。あの人いきなり、私に陰があるから水晶買えって言ってきたのよ」

「……ろくなことせん奴やな」

 青葉は立ち上がって、穂波に指を突き付けた。

「怪しい商売は、やめとけって言うたやろ!」

「おお、青葉。久しぶりやーん」

「話聞き!」

「会いたかったでー」

 どうも、話を聞く気がないらしい。

「……わざわざ大阪から、何しに来たん? まだお盆には早いやろ」

「それが、お前に頼みたいことがあってなあ。いやあ、偶然この姉ちゃん見付けたんは運命やな」

 穂波は、小町に向かって片目をつむってみせた。



 ひとまずカフェに移動してから、穂波は改めて自己紹介をした。

「どもども。俺は、双神穂波っちゅうもんや。青葉のイトコで、年は青葉より一つ上。よろしゅうな。ちなみに、大阪生まれの大阪育ちで大阪在住なんで、バリバリの大阪人やから。ちなみに髪と目の色は、天然やで」

「は、はあ」

 小町は、すっかり圧倒された様子で頭を下げた。

「穂波は、昔から夏休みには帰省してきとったんや。小町、会ったことないっけ?」

 青葉の説明に、小町はしばし首を傾げた。

「……あ、そういえば。髪の赤い男の子と、一緒に遊んだような」

「俺は覚えとるで。引っ越した言うて、青葉がめっちゃ落ちこんでたからな」

 穂波は、意地悪そうに笑った。

「そうなんですか?」

「せやせや。あの落ち込みようと言ったら……」

「やめ」

 青葉は、穂波の耳を引っ張った。

「何すんねん!」

「余計なこと言わんように。で、俺に頼みたいことって何なん?」

「おっと、肝心なこと言うの忘れとったわ。実はな、青葉。お前に、祟り神を退治してもらいたいねん」

 あまりにさらりと言われたとんでもない頼みに、思わず青葉と小町は立ち上がりかけた。

『相変わらず無茶苦茶な奴じゃなあ』

『んだ』

 カザヒとミナツチは予想していたのか、至って涼しい顔をしている。

 穂波は笑って、続けた。

「俺、霊力あるやん? だから、ちょくちょくそういう依頼が入るようになってきてな」

「霊力で商売したらいかんて、ばあちゃんが言うてたやろ」

 青葉の渋い顔も気にせず、穂波は肩をすくめる。

「頼まれついでに、お礼もらっとるだけやで。……俺でも、幽霊とかやったら何とかなるねんけど、さすがに神は手に負えへんねん。っちゅうことで、巫女様に頼みにきたいうわけ」

「俺はカザヒさんとミナツチさんの巫女やけん、あいにく他の神様は管轄外や」

「まあ、そう言わんと!」

 と、穂波は自分の手元にあったチョコレートパフェを青葉の方にずいっと押しやった。

「要らん! 大体、こんなんで俺が釣れる思うんかいな」

「えー、ほんま頼むわ。依頼主、めっちゃ困ってるんや。せめて、会うだけ会ってくれ!」

 ぱん、と音を立てて穂波は青葉を拝んだ。

 青葉は呆れた表情を浮かべながらも、双つ神に視線を向ける。

「どう思う?」

『まあ、協力してやってもええよ』

『んだ』

「甘いなあ」

 ため息をついた後、青葉は頷いた。

「わかった。でも、俺や神さんでもどうにもならんかもしれんよ」

「ありがとさーん!」

 承諾の返事を耳にし、穂波は嬉しそうに手をすり合わせたのだった。

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