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第二話 ねむりがみ
に
しおりを挟む車に乗り込むなり、青葉は大きなため息をついた。
「穂波の奴……」
当の穂波は、近くのホテルに泊まっているという、依頼主の所に行ってしまった。
最初から、青葉が引き受けるとわかっていたのだろう。
「青葉も大変ね」
小町は同情したように、苦笑していた。
「依頼主さんは、明日来るのね?」
「そうらしいな」
青葉はエンジンをかけながら、またため息をついた。
「ねえ、穂波さんは幽霊なら何とかなるって言ってたじゃない? 青葉も、幽霊退治できたりするの?」
車が走り出してしばらくして、小町が尋ねる。
「ん? せやな。退治したことはまだないけど、見えるし話もできるけんな」
「神様と幽霊って、似たようなものなの?」
小町はバックミラーから見える、守り神たちに目をやった。
「ああ、ええと」
たしかにこの外見では、ほぼ幽霊――おばけだ。
「違うは違う。けど、たしかに存在としては近いな。実体を持たんと、力を持つ。しかも、神さんってのは人間の霊がなる場合もあるんや」
「御霊のこと?」
御霊とは、恨みを残して死んだ人物が崇められ、神になったものだ。祟りを鎮めるため、祀るのだという。
「それも一例や。あと、祖霊って知っとる?」
「ううん」
「祖霊は、ご先祖様の霊や。これも、神扱いして祀る場合もあるん。大体、カザヒさんとミナツチさんも元は自然霊やったらしいけん」
自然霊、という言葉に小町は首を傾げた。
「火の粉、風の渦、水の雫、土の恵に昔の人は神秘を見出した。そこで、呼んだ」
それを霊と――。
意思を持ち、人間を超えた存在であると知覚した。
「そして双神の祖先がそれを神として祀り、霊は神となった」
「……素敵ね」
小町は窓から見える空を仰ぎ、呟いた。
「いわゆる、神社の神さまとは違うのよね?」
小町はふと疑問に思ったらしく、青葉に尋ねる。
「ちゃうよ。独特の民間信仰やと思って。神道とは、色々違うところがあるけんな。双つ神は、その名の通り〝二〟という数字が大事なんや。神道やと、幸魂、荒魂、和魂、奇魂の四つで分けるやろ。でも、カザヒさんとミナツチさんには和魂と荒魂しかないんや。穏やかな守り神としての面と、荒々しい荒神の面やな」
「……そうなのね。荒魂もあるんだ」
小町は、信じられないようで、後部座席で浮かんでいる神々を振り返っていた。
翌日、穂波が連れてきたのは中年の女性と男性。そして、男性の腕に抱えられた十歳ほどの少女だった。
「はじめまして、巫女様」
青葉と小町を前にして、女性――少女の母は頭を下げた。父親の方もそれにならう。
二人の傍らに横たわる少女を見やり、青葉は眉をひそめた。
眠り続ける少女。彼女は、祟りに遭った日から目覚めないのだという。
「はじめまして。俺が双神の巫女、双神青葉です。どうぞ座ってください」
青葉が挨拶を返し、正座すると、二人は少しびっくりしたように顔を見合わせ、座布団の上に座った。
「男の方だったんですね」
「え?」
母親の台詞で、青葉は斜め前に座る穂波を睨み付けた。
「言っとらんかったん?」
「あちゃー、忘れてた!」
穂波は、舌を出しただけで、悪びれた様子もなかった。
「〝双神の巫女〟は、これ一つで固有名詞って思ってもろたら……。だけん、俺は男でも〝双神の巫女〟って名乗るんです」
青葉が説明すると、二人は納得したように頷いた。
「あの……そちらの方は? てっきり、こちらの方が巫女だと」
と、父親が小町の方を見やって尋ねる。
「すみません、私はただの青葉の幼馴染みです。でも、私も神の姿を見ることができるので何かお力添えできるかと思い、同席させてもらっています」
しっかりとした小町の受け答えに、二人は納得したようだった。
「詳しい事情を、教えてもらえますか」
「はい、巫女様」
青葉が促すと、少女の母親は深呼吸してから、語り出した。
「私どもは、片田舎から関西に出てきました。その故郷の村は過疎が進み、廃村にならざるをえなかったのです。三ヶ月ほど前、故郷が恋しくなって娘の美羽も連れてその廃村に行ってみました。美羽は初めて見る風景に、心奪われているようでした。そして、ふと目を離した隙に、山に入っていってしまったのです。私達が山の中で見付けた時にはもう、美羽は懇々と眠っておりました。以来、目を開くことはありません」
ため息をついて、父親が続けた。
「しかし不思議なことに、眠ったまま食事は取ります。御手洗いにも、目を閉じたまま行くのです。病院に行ってもお手上げだと言われ、様々な霊能者に頼りましたが――誰も解決してくれず、全て無駄に終わりました。そして友人の紹介で、穂波さんに話を聞いてもらうことができたのです」
話が終わると、穂波が引き継いだ。
「状況的に、これは何かの祟りやと思うねん。俺も試行錯誤してみたけど、さっぱりや。かなり力が強いから、多分神さんやろ」
「せやろな」
青葉も、同意する。
「神さんたち、どう思う?」
カザヒとミナツチに意見を仰ぐと、カザヒが答えた。
『わしも、そうや思う。でも、食事は取るとかいうとこ気になるな。まあ、土地神の祟りで間違いないとは思う』
ふわふわと、カザヒは少女の上を飛び回った。
『憑いとるな。でも、一部や』
『本体は、まだ祠やな』
ミナツチが意見を付け加えたところで、青葉は首を縦に振った。
「一度、その故郷ってとこに行ってみたいと思うんで……場所を教えてくれますか」
「はい」
そして美羽の両親が口にした地名は、存外にここから近かった。
「隣の県やん……」
呟き、青葉は美羽の両親に、目的地までの道のりを聞いた。
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