出雲の駄菓子屋日誌

にぎた

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後編

5 鞄

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「それで? どうなったんですか?」

 雄一は「早く続きを聞かせておくれ」と、男に向かって催促した。まるでテレビのコマーシャルを待てないように。一言も喋らずに大作の話を聞いていた真太郎と柏木とは違い、彼はあれやこれやといちいち反応した。

「収穫祭の後に式を挙げようと、愛子とは約束したのです」

 大作の左手薬指に指輪がしてあることに、雄一は初めて気が付いた。

「まず、坂田に挨拶をしに伺ったのです。収穫祭前での打ち合わせもしたかったこともあり、ついでに愛子との関係のご報告もといった軽い気持ちだったのですが……。まず愛子を坂田に紹介し、車を呼んで先に愛子を帰らせました」

 事件が起きたのはその時でした。

「打ち合わせのために用意した書類や資料が入ったカバンが、盗難にあってしまったのです。荷物は坂田の玄関で例のカバン持ちに預けたのですが、どれほど探しても出てこないのです」

 それからカバンを探す毎日が始まりました。

「なにせ中には祭りの資料の他に、先日準備した大金に関わる書類も入っておりましたから」
「犯人はそのカバン持ちではなくて?」

 いいえ、と大作は力なく首を振る。

「彼はずっと屋敷に居ましたし、大金を借りるという話は、私と坂田を含め、ごく一部の人間にしかわからないよう秘密にしておりました」

 役場の人間ではないただのカバン持ちが、そんな話を知るわけもない。

「じゃあ誰が……」
「警察は犯人を愛子だと、決めつけたのです」

 大作の声が震えている。

「大金のことは内密に。もちろん愛子にも、家の女中たちにも誰にも言っておりません」

 濡れ衣。雄一の頭にはすぐ浮かび上がったその言葉は、大作の口からは出なかった。

「彼女が書類の入ったカバンを持って歩いている目撃情報が入ってきたのです。呼んだ車の運転手も、愛子の家の女中でさえ、彼女がそのカバンを持っていたと証言しているのです。カバンを無くしたその日。祭りの打ち合わせのために、先に帰らせたその日に」

 声が出ない。男の話の中では、愛子がそのようなことをする人間だと、とても思えなかったから。

「愛子さんが、そのカバンを持って帰ったのなら、家にあるのでは?」

 真太郎が雄一の代わりに訪ねた。しかし、これにも大作はゆっくりと首を横に振った。

「カバンはありましたが、中身はありませんでした……。警察たちもきっとどこかに隠したのだと決めつけ、愛子を監禁したのです」
「なら、いったいどこに……」と雄一。
「昌子です」

 すべては彼女が仕組んだことなのです。



 

 
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