「無加護」で孤児な私は追い出されたのでのんびりスローライフ生活!…のはずが精霊王に甘く溺愛されてます!?

白井

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日が昇らない内に山を下り、リリアはエレスの力を借りてブライアンの家の屋根に待機する。
花精霊祭は全国の仕立て屋が一年で一番忙しいと言っても過言ではない時期だ。

当日の朝も、店中煌々と明かりが焚かれていた。
ずっと作業をしているのだろう。
屋根の上から村を見ると、道にこそ人通りはないが所々同じように明かりが灯されている家が見える。
ブライアン曰く、同じように祭で売る細工物を作っていたり準備をしているのだそうだ。

「じゃあ、ちょっとした騒ぎを起こしてくるよ」

フォティアが姿を消した数瞬後、やにわにブライアンの店の様子が騒がしくなった。

「今ね」

エレスに抱えられ、窓を使って店の中の仕切りが多い場所に潜り込む。
ブライアンが言うにはここは店の中で服を着替える場所、更衣室らしい。
誰かが来ても見つからないようにすぐさまカーテンをしっかりと閉じる。
フォティアは店の入り口の反対側の方で事を起こしてくれたようで、周囲には誰もいなかった。

「乙女、呼吸を忘れているぞ。落ち着いて息を吐いて、そうだ、いい子だ」

「すーっはーっ……。忍び込むなんてドキドキする事始めてだからついうっかり……ってなんでエレスまで入ってきてるのよ!」

「何故と言われても、乙女の側に在るのは当然の事だ」

「今から着替えるんですからね!? とにかく出て行……くのはだめね。姿を消してからカーテンの外側で待っていてくれないかしら」

「……まあ、すぐ横であれば構わないが」

不服と不思議がない交ぜになったような顔だが一応は了承し、エレスの姿が消えてふわりとカーテンが揺れた。
入れ替わりのように、ブライアンの声がする。

「リリア、今大丈夫か? ドレス持ってきた」

「ええ。ここよ」

カーテンから顔を出すと目の前にブライアンがいた。
その手にはたっぷりとレースが使われた布が見える。確かに、いつもの麻や木綿ではなく村の女の子が晴れの日に着ているような布地だ。

「もしかして、それが? すっごく高そうだわ。大丈夫なの?」

リリアが普段着ているものは着古し終わって後は雑巾にするか、という具合のぺらぺらのワンピースだ。
目の前のドレスの値段は全く見当もつかないが、村でもドレスはお下がりを繕いなおしたりする事が主で新しく仕立てる事は稀に思う。

「いいから先に気がえろ。早く出るぞ」

ぐいぐいと押し付けるようにリリアにドレスを渡し、外からカーテンを閉める。

「一人で着られるかしら。こんなちゃんとしたドレスは着た事がないわよ」

「コルセットは前編みタイプだ。後は全部リボンで留めるタイプだし平気だろ」

以前マチルダの着替えを手伝っていた時はあちこち留めたり締め上げたりと大変だった。
こんなものを一人で着られるのかリリアは不安だったが彼はそこも配慮しておいてくれたようだ。

「まあ……。すごいわね。これ」

薄い桃色のモスリンのドレスは控え目にデコルテを出し、スラッシュの入ったパフスリーブからは柔らかな布が覗いている。
やや高めのウエストからはふわりと広がるように布が展開され、その上からレースの布地がひらひらと揺れていた。
正直かなり気合の入ったドレスだ。

自分なんかにいいのだろうか、とリリアはつい尻込みしてしまう。
そんなリリアの気持ちを読んだのかブライアンはフォローするように口を開く。

「別に新品ってわけじゃねえよ。こんな田舎ですら型落ちしたドレスを、練習がてら王都風に仕立て直しただけだ。人気が出れば近くの村や町注文も入るだろうしな」

「すごいわね! あなたの仕立て技術は素晴らしいわ。きっと皆気に入るわよ」

リリアも孤児院では皆の服を繕っていた。
だから多少は分かるつもりだ。
少し破れた場所を縫うのでさえ、綺麗にしようと思えば大変な作業である事が。
さらにこんなに綺麗なドレスにする事はどんなに大変だっただろうか。

「技術は、ね」

リリアは裁縫技術は認めてくれたが、それ以外は全く心を開いてはいなかった。
だがそれも自業自得だと今のブライアンには分かる。

ドレスくらいでは償いにもならないだろうが、贖罪を積み重ねていくしかない。
そう考えた時にリリアの入っていた更衣室のカーテンが開かれた。

「あの、ブライアン。着たわよ。おかしなところはないかしら」
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