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幕間 Piece《悠斗side》
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しおりを挟むどじったな……瀬菜になんて言い訳しよう……。
骨折とかしたら看病してくれるかな……。
折角集めていた瀬菜の画像、大丈夫かな?
あのエッチな瀬菜とかもう見れなくなっちゃう。
あっ、けど怪我した理由言えないじゃん! 絶対怒られる‼
瀬菜、怒ると怖いからな……。
無事で済んだとしても揉めそうだな。
また大ッ嫌いって言われるかな……。
あの言葉、結構ショックなんだよな……。
そんな心配をしているうちに、スマホが階下に叩きつけられ大きな音を立てバウンドしていた。それと同時に自分も床に叩きつけられ、頭をガツンと何度か殴られたような衝撃に受け身すら取れなかった。
頭に水気を感じ、スーッとなにかが抜けていく。鉄の匂いが鼻先に纏い、液体の生温いものを感じていると、目を開けていることも叶わなかった。
◇ ◇ ◇
──壊れてしまえ……。
今思うと、それは呪いのような呪文だったのかもしれない。
俺はあの日追い掛けた。大切な瀬菜がいっぱい詰まった思い出のデータを……。落ちるとは思っていなかったのだ。意外と自分は運動神経もいいほうだ。踏ん張れると高を括ったのがいけなかった。それで瀬菜の記憶を失っていたら、データどころの話ではない。
高崎先輩は、瀬菜を襲って退学になった先輩と付き合っていた。俺と瀬菜のせいで、幸せが壊されたと逆恨みからの行動だったようだ。
それが最初から分かっていれば、もう少し違う対応ができたかもしれないが、まさかあんなことになるとは思ってもいなかった。
咄嗟に動いてしまった自分の身体は、瀬菜が大好き過ぎて素直で笑えてくる。
そんなことで自分に怪我をさせ、心臓が潰れるほど心配を掛け記憶まで失くし、辛い思いをいっぱいさせて……バカ悠斗!
そんな風に怒りながら言う瀬菜の姿が想像できる。
付き合う前に大嫌いと言われたときも、かなりショックだった。同じように心配して言われたとしても、やはり瀬菜の「大嫌い」には破壊力がある。
なぜ記憶まで抜けてしまったのかは正直謎だが、瀬菜に怒られて嫌われたくないと、臆病が招いたものなのかもしれない。
それに瀬菜の前では、少しでも格好つけていたい。こんな間抜けな事実を伝えるには、まだ自分の余裕が不足している。
だから今は内緒。
昔こんなことがあったねと、笑いながら話せるそのときが来るまで……。
今はただ、自分で撒いてしまった瀬菜の心の傷を、じっくりと癒さなければならない。瀬菜の胸に空いてしまった空白。一つひとつ心を込めて埋めていこう。溢れる愛情を注いで。
転々と広がるぽっかりと空いた黒い穴。ビー玉のような雫が零れ落ち黒い穴を埋めていく。その雫のピースから華やかな色が溢れ、キラキラと眩しいほどの光を照らす。
記憶と共になくしたピースが埋まったとき、その光は俺を導くように背中を押す。継ぎ目をなくしたバズルには、愛しい人の笑顔が溢れ、それはそれは綺麗な一枚の絵になった。
隣に視線を移すと、パズルよりも美しい笑顔がそこにはあった──。
❥ 幕間【閉幕】──二年生編へ── ❥
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