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第一章[日常]
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チリリリチリリリ
「もう朝ですか…」
目覚まし時計の音で起きた私は、けたたましく鳴り響くそれに手を伸ばし音を止める。止めたはずの音がまだ頭に鳴り響くことを少しばかり不快に思いながら、今しがた見た夢を思い出す。
「随分と…昔の夢を見てしまいましたね…」
カーテンから漏れ出た光が、私の頬を照らす。それは朝を告げると同時に、私の起床時間を意味していた。
「そろそろ起きないとですね。」
重い身体を起こし布団から出る。まだ少しぼやけた目を擦りながらドアを開けると、キッチンからジュウジュウと何かを焼く音と共に、香ばしい匂いが伝わってくる。その音で食欲を掻き立てられた私は、歯を磨くのも早々に階段を駆け下りリビングへと向かう。
「おはようございます、雪。」
「おはよう、姉さん。」
今挨拶を返してきたのは、私の双子の弟の雨宮雪。そして私は、その姉の雨宮綺雪。
「今日は何を作ってくれたのですか?」
「起きるのが少し遅くなったから、ハムエッグとサラダにトーストだよ。もっとちゃんと作りたかったんだけど、ごめんな…」
雪はばつが悪そうな顔をしながら言う。
「貴方が謝ることではないですよ。作ってもらってるのですから、それだけでも幸せです。」
私がそう言うと、雪は少し嬉しそうな顔をした。
「そっか…晩御飯はちゃんと作るから。」
「はい、楽しみにしていますね!」
私は雪にそう返すと共に三人分のフォークを持って席に着こうとし、今は家にいない人のことを思い出す。
「そういえば、香奈姉さんはいつ帰ってくるのですか?」
フォークを戻しながら、雪に尋ねる。
香奈とは私たちの保護者のことだ。数年前に火事で両親を亡くした私たちのことを育ててくれている。
当時二十二歳の香奈姉さんが、何故親戚でも知り合いでもない私たちを孤児院で拾ってくれたのか、いつだったか聞いたことがある。そしたら当の本人は
「ずっと一人で寂しかったから。」
と言っていた。香奈姉さんらしいというかなんというか…
「あとは、二人が孤児院で抱きしめあって寝てるのが見えて、その姉弟愛に心を奪われたと言いますか。」
なんて、少し恥ずかしくなることも言っていたが、どんな理由であれ私たちを助けてくれたのは変わらないので、別にかまわない。
因みに香奈姉さんは洋服会社の常務だ。とても腕がいいと社内でも評判らしい。その腕を買われて今はアメリカに単身赴任している。
「来月には帰ってくるらしいよ」
雪はそう言いながら机の上に朝食を並べていく。
「そうですか。では、雪は今日何時に帰ってくるんですか?」
私は少し不満げな声で尋ねる。
雪は、高校生ながらにメジャーデビューをしている世界的にも有名な歌手だ。バラエティにも引っ張りだこなのだが、ほとんど出演はしていない。
「今日は曲の収録だけだから、二十時くらいには帰ってくるよ。」
「わかりました…」
私は少し不服に思っているのを声に滲ませ、そう言いながら雪の作ってくれた朝食を食べ始めた。
二十分ほど経ち食事を終えた私は、食器を雪のいる台所へ持っていく。
「ごちそうさまでした。とてもおいしかったですよ。」
「お粗末様。じゃあ俺はもう行くけど、姉さんはどうする?」
雪はお皿を洗いながらそう言った。それを聞いた私は
「一緒に行きたいので、少し待っていてください。 すぐ着替えてきますから!」
と階段を駆け上がりながら言う。それを聞いた雪は微笑みながら「はいはい」と少し呆れたような困ったような声で返してきた。
ーーー
ーー
ー
「えっと、制服はっと。」
私はとてつもない速さで、着替えと学校の用意を済ませる。
(今日は入学式ですしね、雪を見た女子生徒がきゃーきゃーと騒ぎたてる姿が目に浮かびます)
そんなことを思いながら準備を進めていく。その時に一枚の写真が目に入る。
それは所々に焼けた跡があり、写真の大人の顔の部分が消えていた。この写真は雪と私、そして私達の生みの親である両親とで初めて家族全員で一緒に撮った写真だ。両親が亡くなりもう十年も経ってしまったので、顔もうまく思い出すことができない。けれど、私達のことを第一に考えてくれ、とても優しく、私達の大好きな人達だった…
「…ふぅ…ダメですね…私がこんなでは」
流れ落ちる涙を拭き取る
「ありがとうございます…あの時私達を守ってくれて…」
そう言い私は気持ちを切り替えて階段を下りた。
「もう朝ですか…」
目覚まし時計の音で起きた私は、けたたましく鳴り響くそれに手を伸ばし音を止める。止めたはずの音がまだ頭に鳴り響くことを少しばかり不快に思いながら、今しがた見た夢を思い出す。
「随分と…昔の夢を見てしまいましたね…」
カーテンから漏れ出た光が、私の頬を照らす。それは朝を告げると同時に、私の起床時間を意味していた。
「そろそろ起きないとですね。」
重い身体を起こし布団から出る。まだ少しぼやけた目を擦りながらドアを開けると、キッチンからジュウジュウと何かを焼く音と共に、香ばしい匂いが伝わってくる。その音で食欲を掻き立てられた私は、歯を磨くのも早々に階段を駆け下りリビングへと向かう。
「おはようございます、雪。」
「おはよう、姉さん。」
今挨拶を返してきたのは、私の双子の弟の雨宮雪。そして私は、その姉の雨宮綺雪。
「今日は何を作ってくれたのですか?」
「起きるのが少し遅くなったから、ハムエッグとサラダにトーストだよ。もっとちゃんと作りたかったんだけど、ごめんな…」
雪はばつが悪そうな顔をしながら言う。
「貴方が謝ることではないですよ。作ってもらってるのですから、それだけでも幸せです。」
私がそう言うと、雪は少し嬉しそうな顔をした。
「そっか…晩御飯はちゃんと作るから。」
「はい、楽しみにしていますね!」
私は雪にそう返すと共に三人分のフォークを持って席に着こうとし、今は家にいない人のことを思い出す。
「そういえば、香奈姉さんはいつ帰ってくるのですか?」
フォークを戻しながら、雪に尋ねる。
香奈とは私たちの保護者のことだ。数年前に火事で両親を亡くした私たちのことを育ててくれている。
当時二十二歳の香奈姉さんが、何故親戚でも知り合いでもない私たちを孤児院で拾ってくれたのか、いつだったか聞いたことがある。そしたら当の本人は
「ずっと一人で寂しかったから。」
と言っていた。香奈姉さんらしいというかなんというか…
「あとは、二人が孤児院で抱きしめあって寝てるのが見えて、その姉弟愛に心を奪われたと言いますか。」
なんて、少し恥ずかしくなることも言っていたが、どんな理由であれ私たちを助けてくれたのは変わらないので、別にかまわない。
因みに香奈姉さんは洋服会社の常務だ。とても腕がいいと社内でも評判らしい。その腕を買われて今はアメリカに単身赴任している。
「来月には帰ってくるらしいよ」
雪はそう言いながら机の上に朝食を並べていく。
「そうですか。では、雪は今日何時に帰ってくるんですか?」
私は少し不満げな声で尋ねる。
雪は、高校生ながらにメジャーデビューをしている世界的にも有名な歌手だ。バラエティにも引っ張りだこなのだが、ほとんど出演はしていない。
「今日は曲の収録だけだから、二十時くらいには帰ってくるよ。」
「わかりました…」
私は少し不服に思っているのを声に滲ませ、そう言いながら雪の作ってくれた朝食を食べ始めた。
二十分ほど経ち食事を終えた私は、食器を雪のいる台所へ持っていく。
「ごちそうさまでした。とてもおいしかったですよ。」
「お粗末様。じゃあ俺はもう行くけど、姉さんはどうする?」
雪はお皿を洗いながらそう言った。それを聞いた私は
「一緒に行きたいので、少し待っていてください。 すぐ着替えてきますから!」
と階段を駆け上がりながら言う。それを聞いた雪は微笑みながら「はいはい」と少し呆れたような困ったような声で返してきた。
ーーー
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ー
「えっと、制服はっと。」
私はとてつもない速さで、着替えと学校の用意を済ませる。
(今日は入学式ですしね、雪を見た女子生徒がきゃーきゃーと騒ぎたてる姿が目に浮かびます)
そんなことを思いながら準備を進めていく。その時に一枚の写真が目に入る。
それは所々に焼けた跡があり、写真の大人の顔の部分が消えていた。この写真は雪と私、そして私達の生みの親である両親とで初めて家族全員で一緒に撮った写真だ。両親が亡くなりもう十年も経ってしまったので、顔もうまく思い出すことができない。けれど、私達のことを第一に考えてくれ、とても優しく、私達の大好きな人達だった…
「…ふぅ…ダメですね…私がこんなでは」
流れ落ちる涙を拭き取る
「ありがとうございます…あの時私達を守ってくれて…」
そう言い私は気持ちを切り替えて階段を下りた。
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