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「おはよう、団長さん」

「……あぁ、おはよう。ルーシー」

 ……何この人。会って二日目で呼び捨て?急に何なのよ。馴れ馴れしわね。

「どうした?」

「別に」

 昨日との態度の違いを考えていた私は黙り込んでいたみたいね。どうしたと言われても貴方のせいよ。脈、血圧異常無しと。

「腕と腹部の傷を見るからに服を脱いで頂戴」

「腹部?」

「内臓破裂よ。それも覚えていないの?」

 腹部の傷を自覚していない事に驚いて尋ねると、片手を顎に添えて目を閉じ少し考える仕草をした。……睫毛長いわ……羨ましい。って今は仕事に集中、集中。

「……いや、何か大きな塊が飛んできて当たったが……岩の様だったが……何か違和感が……」

「違和感?」

「あぁ、違和感……そうだ、音がしなかった」

 団長さんが言うには岩が離れた所から飛んできているなら、風を切る音が聞こえたはずだと言う。確かに何も聞こえないのは逆に不自然ね。それも書類に書いてと……あっ!

「そうそう、午後からのリハビリなんだけど」

「何か?」

「家の弟の相手をして欲しいの」

 驚く団長さんに夕べ弟から聞いた話を伝えると、大きく頷いて了承してくれた。第三者の視点は大事らしい。

「まだ幼いのに確りした弟だな」

「そうね。苦労した分、同い年より大人かもね……それじゃあ、昼食後にまた来るわ」

 団長さんの部屋を後にして他の患者の部屋を見回りする。今日で退院の人やお見舞いの家族に挨拶しながら診察処置室に向かった。さぁて、今日もお仕事頑張りますか!

「ルーシー、待ってたぞ」

「院長、おはようございます」

 私の診察処置室の前で待ち構えていたのは院長。慌てた様子で私に駆け寄ると来客を告げた。来客?今から診察なのに?そう思って不満を告げると団長さんの関係者だから私が行かないと困るらしい。それは、それは。騎士団の関係者って事は貴族様?あー嫌だわ。考えただけで憂鬱だわ。

 ため息を吐きながら向かったのは貴族が来た時に使う貴賓室。頑丈なドアを前に気合いを入れた。

「失礼します。ルーシー、参りました」

「入ってくれ」

 ドアをノックして名前を言えば中から入室の許可が降りる。中から聞こえた男性の声は昨日の部下とは違う声だった。
 静かにドアを開けて中に入ると、国王陛下と昨日の部下さん。そして、顔の腫れた少年が居た。……ナニこのカオス。今すぐ帰りたいわ。そう思っても帰る訳にはいかず、断りを入れてから向かいの椅子に座ると急に国王陛下が頭を下げた。

「この度は団長の命を救って頂き感謝する」

「いえ、仕事ですのでお気になさらずに」

「いや、今回の件は息子が悪い」

 陛下から聞いた説明では好奇心で森に行ったが怖くなって彼を置いて行ったらしい。このクソガキ。また嘘を重ねて誤魔化す気ね。

「私の所見では魔物ではなく、人間にしかも不意打ちで襲撃された傷でしたが?」

「なんと言う事だ……他にも何かあるかね?」

「あります。内臓破裂する程の大きな岩が飛んできた様ですが、団長さんが言うには風を切る音がしなかったと」

「……音がしなかった……」

「はい、この事から相手は複数で襲撃したと考えるのが適当かと」

 うむっと言った陛下がクソガキを睨む。私に視線を向けていた時の優しさは消え、見ているだけで震える様な威厳と厳しさを感じた。

「貴様はまだ事の重大さを気付かず嘘を並べるか」

「ち、父上……違い!違うんです!!」

 陛下の視線を正面から受けたクソガキは震えて涙目になりなが必死に言い訳を並べた。

一つ、団長が王子である自分の言うことを聞かないのが悪い。
二つ、団長が城に来れない様にしたかっただけで、こんな大騒ぎになると思わなかった。
三つ、平民の私の診察は大袈裟で嘘をついている可能性がある。


「……上級治療師の私の診断を誤診と言うの?」

「じ、上級って平民がそんな魔力を持つ分けないじゃないか!嘘つきめ!金が欲しくて大袈裟に言ってるだけだろう!!」

 あーダメだ。我慢出来ない。怒りに魔力が溢れだし部屋の温度が下がり始める。ダメよ、ダメ。陛下を巻き込んじゃうわ。抑え……られないわね……
 ユラユラと魔力が体から溢れだし髪と瞳の色がブラウンからルビーに変わり始める。その変化に部屋に居た全員が息を飲んだ。

「ひっ!ば、化け物!!」

 王子の一言でブツッと頭の中の何が切れた音がした次の瞬間には、王子の胸ぐらを掴んで持ち上げていた。

「私はね、貴族が大嫌いなの。私達の両親を魔道馬車で跳ねて殺した貴族が大嫌い……でもね、患者は関係ないし全力で治療するわ……貴方みたいなクソガキでも……治療はするわ。治療はね」

 溢れ出した魔力で私の髪と瞳の色が全て真っ赤に変わると、王子は恐怖で失禁した。ポタポタと足元に水溜まりが出来ていたけど、腹の虫が治まらない。こんな傲慢なクソガキが将来、国のトップだなんて最悪ね。

「事故を起こした貴族がいるのか?」

 陛下からの質問を無視する訳にもいかず、王子を床に投げると陛下を真っ直ぐに見詰め返して答えた。

「……おります。もう……五年前でしょうか。私の目の前で両親は亡くなりました」


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