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「当時、十三歳の私は適性検査で治療師と結果が出たので、ここで研修を始めた初日でした」

 何時までも立っている訳にもいかず、深呼吸をして溢れだした魔力を抑え込んで椅子に座り直した。事故現場を思い出して震える手を握り締め、出来るだけ感情的にならない様に話した。

「両親が帰りに迎えに来て家族全員で歩いていた時です。脇道から突然飛び出してきた魔道馬車に跳ねられました。兄妹は両親が庇い無事でしたが……両親は……」

「すまぬ。辛いことを聞いた」

「いえ、知らぬなら仕方の無いことです。犯人は貴族で罰金だけだったと聞いています」

「慰謝料等は支払いは?」

「いいえ、そういった支払いは一度もございません」

 一度、言葉を切った私は陛下に改めて視線を向けると、はっきりと言う事にした。

「私達から両親を奪った貴族が嫌いです。命を粗末にする人はもっと嫌いです。そこの王子の様に簡単に人を傷つける人は二度と目の前に現れないで欲しいわ」

「貴様!治療師だからって」

 ドン!

 大きな音と共にクソガキの身体が大きく吹き飛んだ。陛下の拳が腹に命中したらしい。腹部を抑えて踞った。

「本当に愚息が申し訳なかった。お前は一歩間違えば団長は死んでいた。その事を理解しているのか!」

「は?剣で切ったぐらいで?」

「岩を飛ばしたのも貴方でしょう?」

「岩?私は知らない。剣で切った後で護衛の者と一緒に逃げた」

 目を丸くしながら答えるクソガキは嘘をついている様には見えなかった。……これはまだ何かあるのかしら?場所が場所だけに慎重にならざる得ないけど……誰かが森に何かしたのなら、魔物が溢れる……冗談じゃないわ!

「本当に王子が知らないのでしたら団長さんの命が狙われたか、もしくは森に何かを仕掛けたかのどちらかになります」

「森が目的なら危険だ。サージス、急ぎ騎士団を向かわせ調査せよ」

「は!」

 短い返事と共に団長さんの部下は目の前で消えた。え?走るとかのレベルじゃないけど?え?どう言うこと?

「そなたは巻き込んでしまったので話そう。彼らはただの騎士団ではない」

 陛下の説明では騎士団は街の治安を守る治安維持部隊と、城や王族を守る国防部隊の二つからなり団長さんやその部下は国防部隊に入るとか。

「彼らは剣も魔法も実力が無いと出来ない。……彼が重症で入院したと報告を受け不思議だった」

 そこで言葉を切った陛下は、未だに痛みで床に踞る王子へ射るような視線を向けた。

「まさか身内が重要な彼らの信頼を裏切り罠に嵌めるとは……こやつは廃嫡する」

「「え?」」

 王子と私の驚いた声が重なった。罪に問われても再教育とかかと勝手に考えていたわ。

「民あっての国。貴族だから偉いのではない。我々は民に生かされておる。何度も言ったはずだが……理解しておらんのだろうな」

「父上……じ、冗談ですよね?」

「私は本気だ。国防の要の彼らからの信頼を失ったお前は上に立つ事は出来ん。辺境の叔父上の所で一般兵として働け」

 陛下の止めの言葉を聞いて茫然自失になった王子を騎士が連れて退出すると、陛下の後ろに控えていた一人が魔法で床のシミを消した。わぁお、一瞬で消えるなんて、これで家を掃除したら楽そうね。後で教えて欲しいわ。

「して、話しは変わるが団長の容態はどうだ?」

「記憶の混濁と貧血。斬られた右腕のリハビリが必要ですが、貧血さえ治れば全て問題無いと思われます」

「そうか……良かった。見舞って帰りたいが大丈夫か?」

「はい、ご案内致します」

 陛下を連れて病棟内を歩くと自然と注目が集まる。私はいたたまれない気持ちになりながら、団長さんがいる個室へと案内した。

「団長さん、起きてる?」

「ルーシー、昼からリハビリじゃないのか?」

「お客様よ」

 ベッドで寝ている団長さんに声を掛けて身体をずらすと、私の後ろにいた陛下に気付いて慌てて身体を起こそうとして踞った。

「もう!貧血だからゆっくり動いてと言ったじゃないの!」

 おそらく目を回しただろう団長さんに軽い治療魔法を掛けると、小さな声でお礼の言葉が聞こえた。

「無理をするな。愚息がすまなかった」

「陛下!頭を上げて下さい。油断した自分の落ち度です!」

 陛下に頭を下げられて慌てふためく団長さんは面白いけど、これ以上、お偉いさんと一緒にいるのはごめんだわ。さて、私は仕事に戻ろう。

「それでは、私は仕事がありますので失礼致します」

 頭を下げて退出するとさっさと診察治療室に戻って仕事を始めた。あー、緊張して肩が凝ったわ……治療魔法は自分に掛けられないから不便よね。

「遅くなってごめんなさい。患者さんをお通ししてくれる」

「はーい」



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