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「ルーシーさん、弟さんが来てますよ」

「ゼクス、ありがとう。今日の診察は今の人で最後かしら?」

「え……と……はい、最後です」

「じゃあ、弟と団長さんのリハビリに行って来るわ。急患の時は庭に居るから呼んで頂戴」

「はい、わかりました。行ってらっしゃい」

 弟の元に行くと珍しく椅子に座らず、ソワソワと落ち着きの無く歩き回っていた。あらら、そんなに楽しみにしてたの?

「あ!姉さん」

「テリー、団長さんが稽古を見てくれるって」

「本当!やったー」

「こら!静かにしなさい」

 肩を落とす弟の頭を撫でると、小さな声でごめんなさいと言った。本当に興奮して、楽しみなのね。

「さぁ、こっちよ。ここの三階に団長さんが居るわ。ちゃんとご挨拶出来る?」

「出来るよ!」

 元気よく返事をした弟を連れて団長さんがいる個室のドアを叩いた。

「はい」

「団長さん、リハビリの時間よ」

「やっと身体を動かせるのか」

 ゆっくりとベッドから身体を起こした団長さんが腕を回している。やる気があるのは結構だけどね……

「はい、その前に診察よ。貧血が改善してなければ今日は中止」

「は?身体が鈍る」

「はい、はい。横になって」

 眉間に皺を寄せ不機嫌な団長さんを無視して彼の額に手を当てて状態を確認した。……貧血は中度……大分、改善したわね……心拍数が高い?

「……何時まで触ってる」

「はぁ……診察に文句言わないで頂戴。改善しているからリハビリして良いわ」

 ムスッとした表情の団長さんに呆れてため息が漏れる。女嫌いかしら?でもね……秘密事項もあるから他の人に変われないし……変われるとしたら院長……だけね。

「私の診察が嫌なら院長と変わるけど?」

「……いや……いい」

「は?」

「ルーシーで良い。すまん、人に触られる事が少ないので慣れてない」

 ふーんと気のない返事をしてしまう。少ないねぇ……地位もお金も持ってる人に女が居ないとは思えないけどねぇ……まぁ、関係ないわね。

「はい、はい。テリー、いらっしゃい」

「はい」

「今朝、話した弟よ」

「テリーです。今日は了承して頂きありがとうございます。ご指導のほどよろしくお願いします」

 確りした挨拶に驚く私の横で、団長さんは笑顔で弟に話し掛けている。……笑う事もあるのね……

「で、何処でやれば良い?」

「……庭でやりましょう」

 何となく釈然としないまま三人で治療院の庭に出る。ハンターも受け入れる場所なだけに、リハビリ用の木製の武器がある程度揃っている。二人をリハビリ用武器保管所に案内した。

「君は、どの武器を使う?」

「僕はコレです」

 弟が手に取ったのはサーベルの様な細長い木剣だった。その木剣を見て団長さんが大きく頷く。

「今の君にはこれで良い。だか、これから成長した時、合わなくなる可能性がある」

「馴染むのではなく、合わなくなるのですか?」

 裏庭に移動しながら団長さんは、馬鹿にすること無く弟の疑問に答えてくれた。

「そうだな、成長の過程でパワーが上がれば大剣や長剣が良いし、スピードが上がればレイピアや双剣の方が良くなる可能性もある。違和感を感じたら武器が合っていない証拠だ」

「成る程……ただ、練習するだけではなく自分に合った武器を見極める事も大事な事なのですね」

「そうだ。さて、前置きは済んだし掛かって来なさい」

 そう言った団長さんは庭の中央に移動すると、武器を持たず軽く足を開いて立っているだけだった。弟が戸惑っていると仕方がないと言って落ちていた小枝を拾って左手で構えた。

「右腕は治療中だからな」

「それでは……行きます」

 一度、眼を閉じた弟が再び眼を開いたと同時に、勢い良く踏み込み剣を振り上げると身体を横に捻って躱し小枝は弟の首に添えられていた。

「そんな大振りでは相手にバレバレだぞ」

「はい!」

 剣を構え直した弟が再び踏み込むが、次は小枝で木剣を受け止めて足を凪払われた。

「足元がお留守だ。次」

「はい!」

 弟から剣術と聞いていたから剣だけなのかと思っていたけど違うのね。真剣な表情の弟と真剣だけど何処か愉しげな団長さん。身体全体を使って戦うその姿に思わず見惚れてしまった。凄い……強いのね。

「はぁ……はぁ……」

 弟の息が上がりフラフラになった頃、リハビリ終了を知らせるアラームがなった。

「基礎体力に問題ありだな。後は剣捌きにムラがある。縦の素振りだけでなく横や斜めも取り入れなさい」

「はい!ありがとうございました」

「確かに筋が良い。体力さえ上がれば選択授業も問題ないだろう」

 よし!と小さな声で言った弟は頬を赤く染めて嬉しそう。両親が亡くなってからこんなに嬉しそうな顔は初めて見たかもしれない。やっぱり……我慢させているわよね……

「ル……ルーシー!」

「え……な、何か?」

 急に肩を揺さぶられ大きな声で呼ばれて驚いていると、団長さんが少し焦った様な表情をしていた。視線を巡らせるといつの間にか弟も私の横で手を握っている。

「いや、何度、呼んでも返事がなかったが疲れているのか?」

「あら、ごめんなさい。考え事をしていて気付かなかったわ」

 心配する二人を宥めて団長さんを部屋に帰そうとした時、助手の一人が走ってくる姿が見えた。あら?トーヤが走って来るって事は……緊急事態ね。

「何があったの?」

「パーティーが全滅したと連絡があり後、十分程で運び込まれます!」

「っ!手術の準備と院長に連絡、アンバーを緊急招集」

「了解です!」

 走って戻るトーヤの背中を見ながら嫌なら予感がした。全滅って何が起きてるの?

「テリー、マーシャと待ってる?先に帰る?」

「ここで姉さんを待ってる」

「分かったわ。院内の食堂で夕食を食べるのよ。団長さん、申し訳ないけど一人で部屋に戻って頂戴」

「あぁ」

 二人の返事を聞くと私は建物の中へと走り出した。人数と何処で何にやられたか確認しなくちゃ。さぁ、やるわよ!


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