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ルーシーが部屋を出た後、ソファーの背もたれに体を預けて天を仰ぐ。まさかこんなに早く彼女にバレるとは思っていなかった。彼女に指摘された書類の山に視線を向けると、休んだ四日で溜まった量にため息しか出ない。
「確かに多いな……どうしたもんかなぁ……」
腹の底から息を吐き出した時、鼻腔を擽る甘い香りに意識は奪われた。そう言えばルーシーが夜食と言ったな。
彼女が押し付ける様に置いていったお盆の上には、まだ湯気が立ち上るフレンチトーストと紅茶が乗せてある。短いとはいえ先程まで話し込んでいたはずなのに……冷めていない?
お盆に触れるとパリンと何かが割れる様な音が微かに聞こえ、お盆の上からバターと蜂蜜の香りが増した。
「空間遮断?……結界の応用が必要だったよな」
お茶が注がれているカップに手を翳すと、湯気から温かな熱が伝わる。空間遮断は結界魔法と風魔法を組み合わせた上級魔法だ。魔法は使わないと言っていた彼女の成長に驚き以外の感情は浮かばなかった。
昨日の訓練の後に書斎に置いてあった魔法関係の本を読み漁っていたが、一日でこれ程高度な魔法を使うのか……本当に規格外な女性だ。
ルーシーが持って来てくれた夜食を食べると、改めて机に向かい書類を裁く。目処がたった所で明日の仕事の準備をしていると、『ギー』に関する報告書に目が止まった。
結局、事故の書類に書かれていた『ギー』の住所は公園で偽物だった。公園の近所で聞き込むと、その場所は約十年前に公園なったという。改めて書類を読み返すと、公園になる前には“大きな屋敷”が建っていたと書いてある。
「屋敷……民家では無く屋敷……」
一般的な家なら屋敷等と表現するはずがない。ある程度、大きな家……例えば大商会の本社や貴族の家だろう。問題は誰の家だったのか。それが分かればギーの身元に繋がるかもしれないが……
「登記記録がないとはなぁ」
初めてこの報告書を読んだ時、最後の一文に絶句した。登記は国が管理する土地と建物の記録。それが無いという事は、国営に携わる人間の誰かが関わっていることを示す。大汚職事件へ発展を見せ始めた事件に、何とも言えなくなる。この先、テリーが魔法騎士として成長するならば、間違いなく目立ち再び命を狙われるだろう。只でさえ、銀色の生き物に狙われている所に追い撃ちを掛けかねない事態に無意識にため息を吐き出した。
翌朝、庭から聞こえた物音で目を覚ますと、そっと窓から外の様子を伺う。視線を巡らせた先には、庭の中央でルーシーが運動をしていた。
「朝から運動か……」
長い間、一人で暮らしていたこの家の生活が、目を覚ませば誰かがいる生活に変わる。その変化は嫌なモノでは無く、心のどこかでこのまま続けば良いとさえ思っている。
「あら、団長さん。おはよう」
窓から見ていた俺に気付いたルーシーが朝の挨拶をする。ただそれだけで幸せな気分になった。
「おはよう、ルーシー。俺も体を動かしたいんだが一緒に良いか?」
「えぇ、どうぞ。寝不足の団長さんが付いて来れるか分からないけどね」
挑発的な笑みを浮かべる彼女の姿が、俺の対抗心に火をつける。どうやら俺は、ルーシーに勝ちたくて仕方がないらしい。久しぶりのライバル出現に、心の底から喜んでいる自分に気付く。俺と対等に渡り合える人間は何年ぶりだろう……そうか、自分も相棒が欲しかったのか。
「着替えて直ぐ行く」
そう返事をしてから急いで着替えて顔を洗う。自分に気合いを入れると、階段を掛け下り庭に向かった。
ルーシーと二人で軽い運動をしながら、この何気ない日常を護りたいと思った。
「確かに多いな……どうしたもんかなぁ……」
腹の底から息を吐き出した時、鼻腔を擽る甘い香りに意識は奪われた。そう言えばルーシーが夜食と言ったな。
彼女が押し付ける様に置いていったお盆の上には、まだ湯気が立ち上るフレンチトーストと紅茶が乗せてある。短いとはいえ先程まで話し込んでいたはずなのに……冷めていない?
お盆に触れるとパリンと何かが割れる様な音が微かに聞こえ、お盆の上からバターと蜂蜜の香りが増した。
「空間遮断?……結界の応用が必要だったよな」
お茶が注がれているカップに手を翳すと、湯気から温かな熱が伝わる。空間遮断は結界魔法と風魔法を組み合わせた上級魔法だ。魔法は使わないと言っていた彼女の成長に驚き以外の感情は浮かばなかった。
昨日の訓練の後に書斎に置いてあった魔法関係の本を読み漁っていたが、一日でこれ程高度な魔法を使うのか……本当に規格外な女性だ。
ルーシーが持って来てくれた夜食を食べると、改めて机に向かい書類を裁く。目処がたった所で明日の仕事の準備をしていると、『ギー』に関する報告書に目が止まった。
結局、事故の書類に書かれていた『ギー』の住所は公園で偽物だった。公園の近所で聞き込むと、その場所は約十年前に公園なったという。改めて書類を読み返すと、公園になる前には“大きな屋敷”が建っていたと書いてある。
「屋敷……民家では無く屋敷……」
一般的な家なら屋敷等と表現するはずがない。ある程度、大きな家……例えば大商会の本社や貴族の家だろう。問題は誰の家だったのか。それが分かればギーの身元に繋がるかもしれないが……
「登記記録がないとはなぁ」
初めてこの報告書を読んだ時、最後の一文に絶句した。登記は国が管理する土地と建物の記録。それが無いという事は、国営に携わる人間の誰かが関わっていることを示す。大汚職事件へ発展を見せ始めた事件に、何とも言えなくなる。この先、テリーが魔法騎士として成長するならば、間違いなく目立ち再び命を狙われるだろう。只でさえ、銀色の生き物に狙われている所に追い撃ちを掛けかねない事態に無意識にため息を吐き出した。
翌朝、庭から聞こえた物音で目を覚ますと、そっと窓から外の様子を伺う。視線を巡らせた先には、庭の中央でルーシーが運動をしていた。
「朝から運動か……」
長い間、一人で暮らしていたこの家の生活が、目を覚ませば誰かがいる生活に変わる。その変化は嫌なモノでは無く、心のどこかでこのまま続けば良いとさえ思っている。
「あら、団長さん。おはよう」
窓から見ていた俺に気付いたルーシーが朝の挨拶をする。ただそれだけで幸せな気分になった。
「おはよう、ルーシー。俺も体を動かしたいんだが一緒に良いか?」
「えぇ、どうぞ。寝不足の団長さんが付いて来れるか分からないけどね」
挑発的な笑みを浮かべる彼女の姿が、俺の対抗心に火をつける。どうやら俺は、ルーシーに勝ちたくて仕方がないらしい。久しぶりのライバル出現に、心の底から喜んでいる自分に気付く。俺と対等に渡り合える人間は何年ぶりだろう……そうか、自分も相棒が欲しかったのか。
「着替えて直ぐ行く」
そう返事をしてから急いで着替えて顔を洗う。自分に気合いを入れると、階段を掛け下り庭に向かった。
ルーシーと二人で軽い運動をしながら、この何気ない日常を護りたいと思った。
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