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ダイの事を考えて何も言えなくなった私に、団長さんは魔物の森の罠について教えてくれた。
「森の周辺に新しい罠は現れていないようだ」
「そうなの……森が溢れる心配はなさそうなのね」
話題が変わった事に内心、ホッとしながら言葉を続けると団長さんは首を横に振った。
「罠を破壊している事に気付いた相手が、方法を変えて再びやって来る可能性は否定出来ない」
「諦めてないと騎士団は予想しているのね」
「現に森の近くで銀色の生き物が逃げる姿を見た団員がいるんだ」
『銀色の生き物』もう人として認識されないほど姿が変わったのかしら?最初は爪くらいしか変化がなかったのに……
「団員が見た生き物がこれだ」
自分の思考に入っていた私に、団長さんが絵姿を差し出した。ギルマスが持っている絵姿と違い、流れる様な真っ直ぐな髪は逆立つ様に広がり眼は赤くなっていた。肌は鱗の様な凹凸があって銀色に光っているわね……以前と同じ所は角ぐらいかしら?
「メイソンの物と違い過ぎる」
「そうね……特に眼の色が違うわ。会えば分かると思うわ」
「そうか。今の段階では不明って事か……」
絵姿だけでは断定出来ないから私が首を縦に振ると、団長さんは眉間に皺を寄せて唸り声を出した。
「やはりルーシーにも森に同行して貰わないも駄目か」
「私を同行させないつもりだったのかしら?」
まるで仕方なしに同行させる様な言い方に、一瞬、苛立ちを感じた。
「……いや……何故、怒ってる?」
別に置いて行かれたなら一人で行けば良いだけの話なのに、私は置いて行かれる事に苛立っている?
自分でも理解出来ない感情に、首を傾げてしまった。
「無自覚か?」
「私……何に苛立っているのかしら……自分でも分からないわ」
団長さんが息を吐き出す音が静かな部屋の中で聞こえる。よく分からない感情に戸惑っていると、兄妹が帰宅したと通信機越しにナタリーさんが教えてくれた。
団長さんから状況に進展があったら伝えると言われ頷いて同意すると、兄妹の元へと向かった。二人はすでに着替えを済ませて仲良くおやつを美味しそうに食べていた。
おやつを食べ終わると、昨日と同じように走り込みと構えや素振りをして訓練は終わった。
四人で夕食を食べるとそれぞれの部屋に戻る。何時もの様に兄妹の宿題をみたりお風呂に入ったり、何事もない普通の生活。兄妹も寝て夜、一人になると思うのは兄妹が大人になった後。私はダイとハンターを続ける予定だったのに、彼は居なくなった。
寝付けずに窓枠に腰掛けて空を見上げる。どうしたいのかしら……自分の心が分からない……いえ、考えたくないのかもしれないわ。
暫く夜風にあたって考えていたけど結局、何も答えは見付からずため息だけが出る。考える事を諦めて窓を締めようとした時、奥の書斎に明かりがついている事に気付いた。
「え?もう日付が変わるわよ……」
部屋の時計で時間を確認すると、再び書斎の窓に視線を見て向けた。視覚強化の魔法で部屋を確認すると、書類を書いている団長さんの姿があった。……こんな時間まで仕事しているのかしら……弟の訓練の為に無理をさせているの?やっぱり、訓練もこの家に泊まる事も断っておけば良かった。今からでも遅くないわね。今から行って訓練を断って、明日の朝、家に戻りましょう……それが一番良いはず。
「……あら?……私……どうして……」
ここを出て行く事を考えただけで、無意識に滲む涙を手で拭くと息を吐き出した。泣いている場合ではないわね。
一度、顔を洗って涙の後を消すと、お茶と軽食を作ろうと台所に下りた。今朝、焼いたパンでフレンチトーストを作り、紅茶をお盆に乗せると書斎へ向かった。
「団長さん、少し話があるの。いいかしら?」
ドアを叩いて声を掛けると、部屋の中から何かを落とす音が聞こえて思わず一歩後ろに下がるとドアが勢いよく開いた。
「ルーシー……こんな時間にどうしたんだ」
「それはこっちのセリフよ。中でいいかしら?」
戸惑う団長さんから強引に了承を得て中に入ると、書類の山が出来上がっていた。やっぱり、無理をさせていたのね。
「こっちのソファーに座ってくれ」
「ありがとう」
書類のないソファーに向かい合わせで座ると、団長さんにお盆を押し付けた。
「団長さん、テリーの訓練の為にこんな時間まで無理をさせるわけにいかないわ。私達、明日には家に戻るわ」
「無理を……これの事か?」
団長さんが書類を指しながら言った言葉に首を縦に振ると、彼は私から視線を反らして頭を掻いた。
「いや、無理とかじゃなくて入院中に溜まった分と自分の怪我の報告書だ」
「怪我の報告?」
団長さんが治療院に運び込まれた時を思い出す。確か騎士団の制服を着てたわね。仕事中の怪我の報告にしては書類量が多くないかしら?
「王族が絡んだ今回の怪我は詳細を報告する必要があるんだよ」
ため息混じりにそう言うと、今まで続けて休んだ事がなかったから、部下も何処まで自分達だけで処理していいのか判断に迷って書類が溜まったらしい。そういうものなの?
「時期的にも誤解を与えたみたいだが、これは自業自得だ。もう少し部下に事務仕事を振り分けないといけないな」
ため息を吐きながら書類に視線を向ける団長さんは、隠し事をしたり嘘をついているようにはみえなくて私は何も言えなかった。
「これは君達のせいじゃない。だから出ていかないでくれ」
「……分かったわ。でも、夜食ぐらいは食べないと捗らないわよ」
驚いた様に目を丸くした団長さんが黙って頷いた事を確認すると、私は書斎を後にして妹が休む部屋に戻った。
「森の周辺に新しい罠は現れていないようだ」
「そうなの……森が溢れる心配はなさそうなのね」
話題が変わった事に内心、ホッとしながら言葉を続けると団長さんは首を横に振った。
「罠を破壊している事に気付いた相手が、方法を変えて再びやって来る可能性は否定出来ない」
「諦めてないと騎士団は予想しているのね」
「現に森の近くで銀色の生き物が逃げる姿を見た団員がいるんだ」
『銀色の生き物』もう人として認識されないほど姿が変わったのかしら?最初は爪くらいしか変化がなかったのに……
「団員が見た生き物がこれだ」
自分の思考に入っていた私に、団長さんが絵姿を差し出した。ギルマスが持っている絵姿と違い、流れる様な真っ直ぐな髪は逆立つ様に広がり眼は赤くなっていた。肌は鱗の様な凹凸があって銀色に光っているわね……以前と同じ所は角ぐらいかしら?
「メイソンの物と違い過ぎる」
「そうね……特に眼の色が違うわ。会えば分かると思うわ」
「そうか。今の段階では不明って事か……」
絵姿だけでは断定出来ないから私が首を縦に振ると、団長さんは眉間に皺を寄せて唸り声を出した。
「やはりルーシーにも森に同行して貰わないも駄目か」
「私を同行させないつもりだったのかしら?」
まるで仕方なしに同行させる様な言い方に、一瞬、苛立ちを感じた。
「……いや……何故、怒ってる?」
別に置いて行かれたなら一人で行けば良いだけの話なのに、私は置いて行かれる事に苛立っている?
自分でも理解出来ない感情に、首を傾げてしまった。
「無自覚か?」
「私……何に苛立っているのかしら……自分でも分からないわ」
団長さんが息を吐き出す音が静かな部屋の中で聞こえる。よく分からない感情に戸惑っていると、兄妹が帰宅したと通信機越しにナタリーさんが教えてくれた。
団長さんから状況に進展があったら伝えると言われ頷いて同意すると、兄妹の元へと向かった。二人はすでに着替えを済ませて仲良くおやつを美味しそうに食べていた。
おやつを食べ終わると、昨日と同じように走り込みと構えや素振りをして訓練は終わった。
四人で夕食を食べるとそれぞれの部屋に戻る。何時もの様に兄妹の宿題をみたりお風呂に入ったり、何事もない普通の生活。兄妹も寝て夜、一人になると思うのは兄妹が大人になった後。私はダイとハンターを続ける予定だったのに、彼は居なくなった。
寝付けずに窓枠に腰掛けて空を見上げる。どうしたいのかしら……自分の心が分からない……いえ、考えたくないのかもしれないわ。
暫く夜風にあたって考えていたけど結局、何も答えは見付からずため息だけが出る。考える事を諦めて窓を締めようとした時、奥の書斎に明かりがついている事に気付いた。
「え?もう日付が変わるわよ……」
部屋の時計で時間を確認すると、再び書斎の窓に視線を見て向けた。視覚強化の魔法で部屋を確認すると、書類を書いている団長さんの姿があった。……こんな時間まで仕事しているのかしら……弟の訓練の為に無理をさせているの?やっぱり、訓練もこの家に泊まる事も断っておけば良かった。今からでも遅くないわね。今から行って訓練を断って、明日の朝、家に戻りましょう……それが一番良いはず。
「……あら?……私……どうして……」
ここを出て行く事を考えただけで、無意識に滲む涙を手で拭くと息を吐き出した。泣いている場合ではないわね。
一度、顔を洗って涙の後を消すと、お茶と軽食を作ろうと台所に下りた。今朝、焼いたパンでフレンチトーストを作り、紅茶をお盆に乗せると書斎へ向かった。
「団長さん、少し話があるの。いいかしら?」
ドアを叩いて声を掛けると、部屋の中から何かを落とす音が聞こえて思わず一歩後ろに下がるとドアが勢いよく開いた。
「ルーシー……こんな時間にどうしたんだ」
「それはこっちのセリフよ。中でいいかしら?」
戸惑う団長さんから強引に了承を得て中に入ると、書類の山が出来上がっていた。やっぱり、無理をさせていたのね。
「こっちのソファーに座ってくれ」
「ありがとう」
書類のないソファーに向かい合わせで座ると、団長さんにお盆を押し付けた。
「団長さん、テリーの訓練の為にこんな時間まで無理をさせるわけにいかないわ。私達、明日には家に戻るわ」
「無理を……これの事か?」
団長さんが書類を指しながら言った言葉に首を縦に振ると、彼は私から視線を反らして頭を掻いた。
「いや、無理とかじゃなくて入院中に溜まった分と自分の怪我の報告書だ」
「怪我の報告?」
団長さんが治療院に運び込まれた時を思い出す。確か騎士団の制服を着てたわね。仕事中の怪我の報告にしては書類量が多くないかしら?
「王族が絡んだ今回の怪我は詳細を報告する必要があるんだよ」
ため息混じりにそう言うと、今まで続けて休んだ事がなかったから、部下も何処まで自分達だけで処理していいのか判断に迷って書類が溜まったらしい。そういうものなの?
「時期的にも誤解を与えたみたいだが、これは自業自得だ。もう少し部下に事務仕事を振り分けないといけないな」
ため息を吐きながら書類に視線を向ける団長さんは、隠し事をしたり嘘をついているようにはみえなくて私は何も言えなかった。
「これは君達のせいじゃない。だから出ていかないでくれ」
「……分かったわ。でも、夜食ぐらいは食べないと捗らないわよ」
驚いた様に目を丸くした団長さんが黙って頷いた事を確認すると、私は書斎を後にして妹が休む部屋に戻った。
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