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3件目 そのキスは、紅茶よりも甘く
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「悠斗、おはようございます。今日も寝癖がすごいですわね」
そう言って俺の髪を手櫛で整えるのは、朝比奈椿。俺の幼馴染であり、名家の令嬢。学園内では“白百合の姫”なんて呼ばれているらしい。
「自分でやるからいいよ。てか、人前でやるなよ、恥ずかしい」
「何を今さら。幼いころは、毎朝私が服を選んであげていたではありませんか」
「それを今話すのは、やめてくれ……」
ここは私立・鳳英学園。都内有数の名門校で、格式と伝統を重んじる場所だ。平凡な家庭で育った俺がこの学園に通えているのは、ひとえに椿の家のおかげだ。
正直、場違いな俺にとって、この学園で椿だけが心を許せる存在だった。だが、最近の彼女はどこか変わった。
距離が近い。目が合うたびに、何か言いたそうにしている。
それが気になっていた。
放課後、教室に忘れ物を取りに戻った俺は、誰もいないはずの教室で彼女と鉢合わせた。
「悠斗……ちょうどよかったですわ。少し、お時間をいただけますか?」
「うん、いいけど」
彼女は俺の手を引き、人気のない旧校舎のテラスへと連れて行った。そこは彼女のお気に入りの場所で、よく一緒に紅茶を飲んでいた場所でもある。
「なあ、椿。最近、お前……いや、君、変わったよな」
「えぇ。私、ずっと考えていました。あなたと私の距離について」
椿はゆっくりと振り返った。夕日に照らされるその姿は、まるで絵画の中から抜け出してきたかのようだった。
「幼馴染という関係に、私はずっと甘えていました。けれど……私はもう、あなたの“お姉さん”ではいられません」
「椿?」
「私は、悠斗が好きですわ。家の立場も、学園の噂も、全部どうでもよくなるくらいに」
一瞬、時間が止まった。
令嬢として完璧でいようとしていた椿が、初めて素の自分をさらけ出した瞬間だった。
「……俺も、好きだよ。昔から。でも、お前にふさわしいって思えなくて、ずっと言えなかった」
「そんなこと……ふさわしいかどうかなんて、関係ありません。私は“あなた”がいいのですわ」
椿は一歩、俺に近づいた。香る紅茶のような甘い気配。俺たちはゆっくりと唇を重ねた。
それは儀礼でも形式でもない、素直な気持ちだけを重ねたキスだった。
「んっ……、ちゅ……っ、んむっ、ちゅっペチョっ……、えろっちゅっ……、ふ……っちゅっ……ちゅ……っ……」
唇が離れたあと、椿は照れたように言った。
「キスって……意外と、あたたかいのですわね」
「そりゃ、互いに体温あるしな」
「……そういうところも、好きです」
彼女は照れ笑いを浮かべ、俺の肩にそっと頭を預けた。
その日の夕焼けは、やけにやさしく、どこまでも甘かった。
——そして翌日から、俺の隣の席で紅茶を淹れてくれる椿の笑顔が、少しだけ柔らかくなっていた。
そう言って俺の髪を手櫛で整えるのは、朝比奈椿。俺の幼馴染であり、名家の令嬢。学園内では“白百合の姫”なんて呼ばれているらしい。
「自分でやるからいいよ。てか、人前でやるなよ、恥ずかしい」
「何を今さら。幼いころは、毎朝私が服を選んであげていたではありませんか」
「それを今話すのは、やめてくれ……」
ここは私立・鳳英学園。都内有数の名門校で、格式と伝統を重んじる場所だ。平凡な家庭で育った俺がこの学園に通えているのは、ひとえに椿の家のおかげだ。
正直、場違いな俺にとって、この学園で椿だけが心を許せる存在だった。だが、最近の彼女はどこか変わった。
距離が近い。目が合うたびに、何か言いたそうにしている。
それが気になっていた。
放課後、教室に忘れ物を取りに戻った俺は、誰もいないはずの教室で彼女と鉢合わせた。
「悠斗……ちょうどよかったですわ。少し、お時間をいただけますか?」
「うん、いいけど」
彼女は俺の手を引き、人気のない旧校舎のテラスへと連れて行った。そこは彼女のお気に入りの場所で、よく一緒に紅茶を飲んでいた場所でもある。
「なあ、椿。最近、お前……いや、君、変わったよな」
「えぇ。私、ずっと考えていました。あなたと私の距離について」
椿はゆっくりと振り返った。夕日に照らされるその姿は、まるで絵画の中から抜け出してきたかのようだった。
「幼馴染という関係に、私はずっと甘えていました。けれど……私はもう、あなたの“お姉さん”ではいられません」
「椿?」
「私は、悠斗が好きですわ。家の立場も、学園の噂も、全部どうでもよくなるくらいに」
一瞬、時間が止まった。
令嬢として完璧でいようとしていた椿が、初めて素の自分をさらけ出した瞬間だった。
「……俺も、好きだよ。昔から。でも、お前にふさわしいって思えなくて、ずっと言えなかった」
「そんなこと……ふさわしいかどうかなんて、関係ありません。私は“あなた”がいいのですわ」
椿は一歩、俺に近づいた。香る紅茶のような甘い気配。俺たちはゆっくりと唇を重ねた。
それは儀礼でも形式でもない、素直な気持ちだけを重ねたキスだった。
「んっ……、ちゅ……っ、んむっ、ちゅっペチョっ……、えろっちゅっ……、ふ……っちゅっ……ちゅ……っ……」
唇が離れたあと、椿は照れたように言った。
「キスって……意外と、あたたかいのですわね」
「そりゃ、互いに体温あるしな」
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彼女は照れ笑いを浮かべ、俺の肩にそっと頭を預けた。
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