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4件目 放課後、花の庭で君を待つ
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昼下がりのチャイムが鳴り、教室がざわつく中、俺は鞄を手にしてすぐに席を立とうとした。
「悠真くん。今日も、一緒に帰っていただけますか?」
振り返ると、そこには整った顔立ちに深い藍色の瞳を湛えた少女が立っていた。名は桐嶋エリス。
学園の理事長の一人娘で、いわゆる“令嬢”。品のある立ち居振る舞いと完璧な成績で、生徒たちから「桐嶋さま」と呼ばれている存在だ。
でも、俺にとっては少し違う。
「……いいよ。今日もあの庭?」
「ええ。いつものところで」
彼女は微笑み、俺の隣に自然と並んで歩き出す。その姿はまるで、物語の中から抜け出してきた姫のようだった。
エリスと俺は幼馴染だ。彼女の父親と、俺の母親が旧知の仲だったこともあり、俺は普通の家に生まれながら、この名門・聖桜学園に入学できた。
彼女は小さいころからよく笑い、よく泣く普通の女の子だった。でも学園に入り、周囲の目が変わるにつれて、エリスはいつしか“完璧な令嬢”を演じるようになった。
ただ、俺の前ではその仮面を外す。
その秘密の時間が、俺たちの“日課”になっていた。
学園の裏手、手入れの行き届いた小さなバラ園。エリスの母が生前大切にしていたというその庭には、生徒すら近づかない静かな空間が広がっている。
「ねえ、悠真くん」
「あん?」
「……今日の私、どう? おかしくない?」
そう言って彼女は俺にそっと振り向いた。制服のリボンは完璧に結ばれていて、髪も美しく巻かれている。どう見ても、いつもの“完璧な桐嶋エリス”だった。
でも、その瞳だけが不安そうに揺れていた。
「エリスは、どんなときでも綺麗だよ」
「……それ、ずるい。あなた、いつもそう言って逃げるのよね」
「逃げてない。……でも、これだけは言える」
俺は彼女の手を取り、そのまま顔を近づけた。
「俺は、“桐嶋エリス”じゃなくて、“エリス”をずっと見てる」
彼女の頬がほんのり赤く染まった。
「私、悠真くんと一緒にいると、自分に戻れる気がするの。強くも、偉くもない、ただの私に……」
「それでいい。俺はその“ただのエリス”が好きなんだよ」
そして、彼女の唇にそっと触れた。
柔らかくて、震えていて、それでも離したくなかった。キスは短かったけれど、言葉よりも何倍も確かな気持ちを伝えていた。
「んっ……、ペチョっ……ふ……っ、ちゅ……っ、んっ……」
それからの帰り道、エリスは俺の隣でずっと黙っていた。
けれど、家の門の前で小さく呟いた。
「……明日も、バラの庭で待っています」
その声は風に消えそうに小さかったけど、俺の胸には、しっかりと残った。
令嬢という仮面を脱いだ彼女と、幼馴染としての俺。
恋が始まる音は、キスの音よりも静かで、けれど心を確かに震わせる。
——明日、また花の庭で会おう。
「悠真くん。今日も、一緒に帰っていただけますか?」
振り返ると、そこには整った顔立ちに深い藍色の瞳を湛えた少女が立っていた。名は桐嶋エリス。
学園の理事長の一人娘で、いわゆる“令嬢”。品のある立ち居振る舞いと完璧な成績で、生徒たちから「桐嶋さま」と呼ばれている存在だ。
でも、俺にとっては少し違う。
「……いいよ。今日もあの庭?」
「ええ。いつものところで」
彼女は微笑み、俺の隣に自然と並んで歩き出す。その姿はまるで、物語の中から抜け出してきた姫のようだった。
エリスと俺は幼馴染だ。彼女の父親と、俺の母親が旧知の仲だったこともあり、俺は普通の家に生まれながら、この名門・聖桜学園に入学できた。
彼女は小さいころからよく笑い、よく泣く普通の女の子だった。でも学園に入り、周囲の目が変わるにつれて、エリスはいつしか“完璧な令嬢”を演じるようになった。
ただ、俺の前ではその仮面を外す。
その秘密の時間が、俺たちの“日課”になっていた。
学園の裏手、手入れの行き届いた小さなバラ園。エリスの母が生前大切にしていたというその庭には、生徒すら近づかない静かな空間が広がっている。
「ねえ、悠真くん」
「あん?」
「……今日の私、どう? おかしくない?」
そう言って彼女は俺にそっと振り向いた。制服のリボンは完璧に結ばれていて、髪も美しく巻かれている。どう見ても、いつもの“完璧な桐嶋エリス”だった。
でも、その瞳だけが不安そうに揺れていた。
「エリスは、どんなときでも綺麗だよ」
「……それ、ずるい。あなた、いつもそう言って逃げるのよね」
「逃げてない。……でも、これだけは言える」
俺は彼女の手を取り、そのまま顔を近づけた。
「俺は、“桐嶋エリス”じゃなくて、“エリス”をずっと見てる」
彼女の頬がほんのり赤く染まった。
「私、悠真くんと一緒にいると、自分に戻れる気がするの。強くも、偉くもない、ただの私に……」
「それでいい。俺はその“ただのエリス”が好きなんだよ」
そして、彼女の唇にそっと触れた。
柔らかくて、震えていて、それでも離したくなかった。キスは短かったけれど、言葉よりも何倍も確かな気持ちを伝えていた。
「んっ……、ペチョっ……ふ……っ、ちゅ……っ、んっ……」
それからの帰り道、エリスは俺の隣でずっと黙っていた。
けれど、家の門の前で小さく呟いた。
「……明日も、バラの庭で待っています」
その声は風に消えそうに小さかったけど、俺の胸には、しっかりと残った。
令嬢という仮面を脱いだ彼女と、幼馴染としての俺。
恋が始まる音は、キスの音よりも静かで、けれど心を確かに震わせる。
——明日、また花の庭で会おう。
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