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16件目 月の下で、君にキスを
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「ねえ、ユウ。あの先輩、また見てるよ」
放課後の中庭、オレンジ色の陽が差し込むベンチで、サクラが僕の肩を小突いた。
サクラは幼なじみで、昔からよく笑う子だったけれど、今はちょっとだけ眉をひそめている。
僕の視線の先には、学年でも有名な美少女、三年の藤ノ宮カエデ先輩。整った顔立ちに、長い黒髪。
どこか浮世離れした雰囲気を纏っていて、目が合うと胸の奥がザワつくような感覚になる。
「なんで僕なんだろう……」
「知らないけど。ああいうキレイな人に見つめられて、嬉しくないの?」
「うーん……なんか、ちょっと怖い」
サクラは「ふーん」と言って、そっぽを向いた。風に揺れる彼女の短い髪が、やけに寂しそうに見えた。
**
翌日、僕は偶然、屋上でカエデ先輩に声をかけられた。
「あなた、名前は?」
「ユウです。二年の」
「そう。ユウくん……名前、可愛いのね」
彼女は微笑んだ。けれどその笑みはどこか影を孕んでいて、まるで月の裏側を見てしまったような気がした。
「気になってたの。ずっと」
「え……僕のことですか?」
「ええ。あなたの周りには、澄んだ匂いがするの」
彼女が一歩近づいてくる。距離が、近い。心臓が跳ねる。
「ねえ、キスしてみたい?」
唇が触れる寸前、頭に浮かんだのは、昨日のサクラの顔だった。
**
「ねえ、サクラ。ちょっと話したいことがあって」
放課後、校舎裏の誰もいない場所。サクラは少し驚いた顔をしたあと、僕をじっと見つめた。
「……あの先輩と何かあった?」
「うん。ちょっと変なんだ。あの人……たぶん、普通じゃない」
サクラは静かに目を伏せた。
「言わなきゃダメかなって思ってたけど、やっぱりそうなったか」
「え?」
「カエデ先輩、"人じゃない"んだよ」
冗談みたいに言ったその言葉は、どこか真実味があった。サクラは続けた。
「昔ね、夜の校舎で見たの。鏡の中から出てくるカエデ先輩の姿。髪が長くて、月明かりの中で……まるで妖怪みたいだった」
「でも、どうして僕に?」
「ユウには、"守り"がある。私が昔、つけたの」
「サクラが?」
「……ユウが他の人とキスしたら、その守りは消える」
僕は言葉を失った。サクラは、何も言わずに僕を見つめていた。
「じゃあ、僕がキスしたら……」
「そのときは、私がもう一度、守る」
サクラはそっと近づき、背伸びして、僕の頬にキスをした。
**
それから先輩は、僕に近づかなくなった。まるで、何もなかったかのように。
サクラは変わらず隣にいて、時々、からかうように僕の顔を覗き込む。
「なんであのとき、私のこと思い出したの?」
「うーん、なんとなく」
「嘘つき」
サクラが笑う。きっと、あのキスで僕は守られた。けれど、それ以上に――
「サクラのことが、一番怖かったから」
「え? なにそれ、失礼!」
本当は、あの瞬間、ようやく気づいたんだ。ずっと、僕の隣にいたのはサクラで、僕の心が惹かれていたのも――。
「でも、そのキス……もう一回してもいい?」
「バカ」
そう言いながらも、サクラは頬を染めて目をそらした。
月の下、僕らの影は、そっと重なっていた。
「ふ……っチュッ……、れろっちゅっ、れろれろはもっずっとガマン……チュッえろっ、チュッ、ふ……っん……っ、ちゆ……っ……」
放課後の中庭、オレンジ色の陽が差し込むベンチで、サクラが僕の肩を小突いた。
サクラは幼なじみで、昔からよく笑う子だったけれど、今はちょっとだけ眉をひそめている。
僕の視線の先には、学年でも有名な美少女、三年の藤ノ宮カエデ先輩。整った顔立ちに、長い黒髪。
どこか浮世離れした雰囲気を纏っていて、目が合うと胸の奥がザワつくような感覚になる。
「なんで僕なんだろう……」
「知らないけど。ああいうキレイな人に見つめられて、嬉しくないの?」
「うーん……なんか、ちょっと怖い」
サクラは「ふーん」と言って、そっぽを向いた。風に揺れる彼女の短い髪が、やけに寂しそうに見えた。
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翌日、僕は偶然、屋上でカエデ先輩に声をかけられた。
「あなた、名前は?」
「ユウです。二年の」
「そう。ユウくん……名前、可愛いのね」
彼女は微笑んだ。けれどその笑みはどこか影を孕んでいて、まるで月の裏側を見てしまったような気がした。
「気になってたの。ずっと」
「え……僕のことですか?」
「ええ。あなたの周りには、澄んだ匂いがするの」
彼女が一歩近づいてくる。距離が、近い。心臓が跳ねる。
「ねえ、キスしてみたい?」
唇が触れる寸前、頭に浮かんだのは、昨日のサクラの顔だった。
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「ねえ、サクラ。ちょっと話したいことがあって」
放課後、校舎裏の誰もいない場所。サクラは少し驚いた顔をしたあと、僕をじっと見つめた。
「……あの先輩と何かあった?」
「うん。ちょっと変なんだ。あの人……たぶん、普通じゃない」
サクラは静かに目を伏せた。
「言わなきゃダメかなって思ってたけど、やっぱりそうなったか」
「え?」
「カエデ先輩、"人じゃない"んだよ」
冗談みたいに言ったその言葉は、どこか真実味があった。サクラは続けた。
「昔ね、夜の校舎で見たの。鏡の中から出てくるカエデ先輩の姿。髪が長くて、月明かりの中で……まるで妖怪みたいだった」
「でも、どうして僕に?」
「ユウには、"守り"がある。私が昔、つけたの」
「サクラが?」
「……ユウが他の人とキスしたら、その守りは消える」
僕は言葉を失った。サクラは、何も言わずに僕を見つめていた。
「じゃあ、僕がキスしたら……」
「そのときは、私がもう一度、守る」
サクラはそっと近づき、背伸びして、僕の頬にキスをした。
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それから先輩は、僕に近づかなくなった。まるで、何もなかったかのように。
サクラは変わらず隣にいて、時々、からかうように僕の顔を覗き込む。
「なんであのとき、私のこと思い出したの?」
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