ChatGPTさんの短編小説 2025年5月

草薙銀之介

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20件目 紅く、ほどける

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 放課後の旧校舎、ひとけのない廊下に、彼女の姿はあった。

「来てくれたんだ、ユウ」

 振り返った彼女は、柔らかく笑った。

 黒髪を肩まで垂らし、白い指先で窓際のカーテンをなぞっている。

 黒瀬ミユ先輩――三年生、僕の幼馴染。そして、今や学内でも浮いた存在だ。

「ミユ姉ちゃん、ここ…立ち入り禁止なんじゃ」

「昔、私たちよくここで遊んだじゃない。忘れたの?」

 そう言われて、胸の奥が疼く。

 夏の日、二人で隠れんぼをした教室。ミユ姉ちゃんが見つけられなくて泣いた帰り道。全部、確かにあったはずの記憶。

 だけど、あの頃の彼女と、今目の前にいる彼女とでは、まるで違う。

「……なあ、最近、おかしいよ」

「おかしい?」

「誰とも話さないし、屋上でひとりごとしてたり。みんな、ちょっと怖がってる」

 ミユは笑わなかった。目を伏せて、静かに言った。

「怖がられて当然だよ。だって私、もう“人”じゃないもの」

「何言って……」

「昔、あの旧校舎の階段から落ちたとき、覚えてる?」

 言われて、胸が冷たくなった。

 あれは、小五の夏。ミユがふざけて手すりから身を乗り出して、足を滑らせた。

「本当は、あのとき死んでたの。たぶん、私の“魂”だけが戻ってきたんだと思う」

「冗談やめろよ」

「冗談じゃないの。証拠ならある」

 ミユが制服の袖をめくると、腕に浮かんでいたのは、見覚えのない古い文字のような痣。

 見た瞬間、言葉にならない違和感が全身を這った。

「だからね、ユウ。私、もう長くはここにいられない」

「どこか行くの?」

「“向こう”に戻らなきゃいけないの。けど……その前に」

 彼女が一歩、僕の方へ近づいた。

「ユウとキスがしたい」

「……なんで」

「人間としての、最後の記憶を、あなただけに残したいの」

 僕の鼓動が、耳の奥で大きく響く。

「でも俺……そんな、急に」

「怖い?」

 ミユが微笑む。それはどこか寂しくて、でも確かに、幼い頃に見た“あの笑顔”だった。

「……怖くなんかない」

 僕は、そっと彼女の手を取った。

 細くて冷たい指先。でも、しっかりと生きていた。

 ミユの顔が近づき、瞳がゆっくり閉じられる。

 そして、唇がふれた。

「んっ……ちゅっ……、スキっ……、んっ、ちゅっれろっあむっ、ぢゅ……っちゅぴっ、んっ、全部あげたいっ、えろぉっちゅっちゅここっ」

「ふ……っちゅぴっ、んっ……、ホントはずっとっ、んむ……っちゅぴっんっ、ほしいっちゅぴっあむっ、ちゅくっ……チュ……ちゅぴっ、んっ」

「ぎゅって……して……」

 柔らかくて、消えてしまいそうで、それでも確かに、僕の世界に焼きついた。

**

 翌朝、ミユ姉ちゃんは学校からいなくなっていた。

 転校も、家族の引っ越しも、誰も何も知らないという。

 クラスの誰に聞いても、「黒瀬ミユなんて知らない」と言われた。

 だけど、旧校舎の窓辺には、彼女が好きだった赤いリボンだけが、そっと結ばれていた。

 風に揺れるそれを見て、僕はそっと、胸に手を当てる。

 あのキスの感触が、まだ、残っていた。


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