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26件目 ラムネと日焼け跡
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八月の終わり、猫の声がやけに遠く聞こえた。俺はコンビニの袋をぶら下げながら、団地の階段を上がっていた。三階の踊り場に差しかかったところで、見慣れた後ろ姿が目に入る。
「……真緒?」
「おっそー、ユウくん。コンビニで何年迷子になってたの?」
振り返った彼女は、相変わらず真っ黒に焼けた肌に金茶の髪、白いタンクトップがやたらと眩しかった。
小学校からの幼なじみ、真緒。今じゃすっかり“黒ギャル美女”なんて呼ばれて、街でもよくナンパされてるらしい。
「アイス買ってきた。お前の好きなラムネ味。」
「えー優しいじゃん。惚れそー!」
そう言って、真緒は笑った。いたずらっぽくて、でも昔から変わらない笑顔。
二人で階段に腰かけて、アイスを開ける。夏の終わりの空気が少しだけ涼しくて、少しだけ切ない。
「来月、引っ越すんだってね?」
俺の言葉に、真緒の手が止まる。彼女はラムネ玉をカリッと噛んでから、小さくうなずいた。
「うん。親が再婚するから。都内の学校に転校。」
「そっか……」
会話が途切れた。遠くで電車の音が聞こえる。いつもならふざけてごまかすのに、今日は真緒も黙っていた。
「……ユウくんさ。」
「ん?」
「ずっと言いたかったこと、あるんだよね。」
真緒はそう言って、俺の顔を見つめた。ラムネ味のアイスが少しだけ唇についていた。
「昔からさ、ずっと……ユウくんのこと好きだった。」
心臓が跳ねる音が、体の中で爆発しそうだった。
「でもユウくん、いつも私のこと“妹みたい”って言ってたしさ。ギャルになったら笑われるかなって思ったけど……やっぱダメだったね、結局今日まで黙ってた。」
そう言って、彼女は立ち上がろうとした。
「待って。」
俺はとっさに手を伸ばして、真緒の手首を掴んだ。
「……俺も、お前のこと、好きだった。」
「え?」
「いつからかは覚えてない。でも、お前が他の男と喋ってるの見て、イライラしたりして……俺もずっと言えなかった。」
真緒の目が少し潤んだ。
「じゃあ、なんで言わなかったの? もっと早く言ってくれれば――」
「今言ってるだろ。」
俺はそう言って、そっと彼女の肩を引き寄せた。
そして、唇を重ねた。
ラムネ味のキスだった。少し冷たくて、少し甘くて、夏の味がした。
何かがふたたび響きだす。俺たちはしばらく、言葉を交わさずに座っていた。真緒の手が、そっと俺の指に絡んでくる。
「……ユウくん、最後の日さ、駅まで送ってくれる?」
「バカ、当たり前だろ。……その日じゃなくても、毎日送ってく。」
「ふふ、やっぱ惚れたかも。」
彼女の笑顔に、また恋をした。
「……真緒?」
「おっそー、ユウくん。コンビニで何年迷子になってたの?」
振り返った彼女は、相変わらず真っ黒に焼けた肌に金茶の髪、白いタンクトップがやたらと眩しかった。
小学校からの幼なじみ、真緒。今じゃすっかり“黒ギャル美女”なんて呼ばれて、街でもよくナンパされてるらしい。
「アイス買ってきた。お前の好きなラムネ味。」
「えー優しいじゃん。惚れそー!」
そう言って、真緒は笑った。いたずらっぽくて、でも昔から変わらない笑顔。
二人で階段に腰かけて、アイスを開ける。夏の終わりの空気が少しだけ涼しくて、少しだけ切ない。
「来月、引っ越すんだってね?」
俺の言葉に、真緒の手が止まる。彼女はラムネ玉をカリッと噛んでから、小さくうなずいた。
「うん。親が再婚するから。都内の学校に転校。」
「そっか……」
会話が途切れた。遠くで電車の音が聞こえる。いつもならふざけてごまかすのに、今日は真緒も黙っていた。
「……ユウくんさ。」
「ん?」
「ずっと言いたかったこと、あるんだよね。」
真緒はそう言って、俺の顔を見つめた。ラムネ味のアイスが少しだけ唇についていた。
「昔からさ、ずっと……ユウくんのこと好きだった。」
心臓が跳ねる音が、体の中で爆発しそうだった。
「でもユウくん、いつも私のこと“妹みたい”って言ってたしさ。ギャルになったら笑われるかなって思ったけど……やっぱダメだったね、結局今日まで黙ってた。」
そう言って、彼女は立ち上がろうとした。
「待って。」
俺はとっさに手を伸ばして、真緒の手首を掴んだ。
「……俺も、お前のこと、好きだった。」
「え?」
「いつからかは覚えてない。でも、お前が他の男と喋ってるの見て、イライラしたりして……俺もずっと言えなかった。」
真緒の目が少し潤んだ。
「じゃあ、なんで言わなかったの? もっと早く言ってくれれば――」
「今言ってるだろ。」
俺はそう言って、そっと彼女の肩を引き寄せた。
そして、唇を重ねた。
ラムネ味のキスだった。少し冷たくて、少し甘くて、夏の味がした。
何かがふたたび響きだす。俺たちはしばらく、言葉を交わさずに座っていた。真緒の手が、そっと俺の指に絡んでくる。
「……ユウくん、最後の日さ、駅まで送ってくれる?」
「バカ、当たり前だろ。……その日じゃなくても、毎日送ってく。」
「ふふ、やっぱ惚れたかも。」
彼女の笑顔に、また恋をした。
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