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27件目 見上げる距離、見つめる距離
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放課後の校舎裏、部活の声が遠くで響く中、俺は自販機の前でスポーツドリンクを買おうとしていた。すると、ふいに日差しがさえぎられた。振り返ると、そこに立っていたのは――
「よっ、ユウ。まだ帰んないの?」
長身で、焼けた肌が映える制服のスカート。髪はハイトーンのウェーブで、目元を縁取るしっかりメイク。俺の幼馴染、沙希(さき)だ。
「沙希かよ。でかい影、すぐわかるわ。」
「は? でかいは余計!」
口ではそう言いながらも、沙希は笑って俺の隣に座った。校舎裏のベンチに、俺と並ぶと身長差が露骨になる。
俺が171センチなのに、沙希はヒール抜きで175センチ。中学のときは同じくらいだったのに、いつの間にか追い抜かれていた。
「そういやさ、ユウってさ、背が低い女の子好きなんでしょ?」
「は? 誰がそんなこと言ったよ。」
「うちのクラスのリサが、“ユウくんって絶対小動物系がタイプだよね~”って言っててさ。」
「……知らんし。別にそういうの、気にしてねぇし。」
沙希はニヤニヤして俺を見てくる。
「じゃあさ。……あたしのこと、どう思ってんの?」
「は?」
「いや、だから――子供の頃からずっと一緒だけどさ。いまの“黒ギャルで長身の沙希”って、正直どう? 恋愛対象として。」
唐突な問いに、喉が詰まった。いつも冗談ばかりの沙希が、真剣な目をしている。
俺は少しだけ、昔のことを思い出す。
小学生の頃、沙希はよく泣いてた。転んだときも、叱られたときも、俺の腕にしがみついて泣いてた。
だけど、いつからか泣かなくなって、化粧を覚えて、周りの目を気にしなくなって。遠くなったと思ってた。
「……俺は、沙希のこと、ずっと“気になる存在”だって思ってた。」
「……“気になる”って、それ友達として?」
「違う。“好き”って意味。」
沈黙。沙希の目が見開かれる。そして次の瞬間、ニカっと笑った。
「……マジ? やば、めっちゃうれしいんだけど。」
その声と同時に、彼女は立ち上がって、俺の顔を覗き込む。
「じゃあ、キスしてもいい?」
「え、ちょ、待――」
長身の彼女が、俺の顔をすっと両手で包み込むようにして――そのまま唇を重ねてきた。
触れるだけの軽いキス。でも、熱が体中を駆け抜けた。
「……背、低くても全然アリだわ。ユウ、かわいいし。」
「バカ。」
「照れてんの? かわい~」
彼女は笑って、俺の肩に腕を回した。その距離が、急に心地よく思えた。
「……でさ、ユウ。」
「ん?」
「明日から、彼氏って呼んでいい?」
「……ああ。お前がよければな。」
「やった。じゃ、明日ヒール履こ~っと。もっと見下ろせるし。」
「やめろ。」
俺たちは笑いながら、校舎裏のベンチをあとにした。
見上げてた距離が、今日から少しだけ近く感じた。
「よっ、ユウ。まだ帰んないの?」
長身で、焼けた肌が映える制服のスカート。髪はハイトーンのウェーブで、目元を縁取るしっかりメイク。俺の幼馴染、沙希(さき)だ。
「沙希かよ。でかい影、すぐわかるわ。」
「は? でかいは余計!」
口ではそう言いながらも、沙希は笑って俺の隣に座った。校舎裏のベンチに、俺と並ぶと身長差が露骨になる。
俺が171センチなのに、沙希はヒール抜きで175センチ。中学のときは同じくらいだったのに、いつの間にか追い抜かれていた。
「そういやさ、ユウってさ、背が低い女の子好きなんでしょ?」
「は? 誰がそんなこと言ったよ。」
「うちのクラスのリサが、“ユウくんって絶対小動物系がタイプだよね~”って言っててさ。」
「……知らんし。別にそういうの、気にしてねぇし。」
沙希はニヤニヤして俺を見てくる。
「じゃあさ。……あたしのこと、どう思ってんの?」
「は?」
「いや、だから――子供の頃からずっと一緒だけどさ。いまの“黒ギャルで長身の沙希”って、正直どう? 恋愛対象として。」
唐突な問いに、喉が詰まった。いつも冗談ばかりの沙希が、真剣な目をしている。
俺は少しだけ、昔のことを思い出す。
小学生の頃、沙希はよく泣いてた。転んだときも、叱られたときも、俺の腕にしがみついて泣いてた。
だけど、いつからか泣かなくなって、化粧を覚えて、周りの目を気にしなくなって。遠くなったと思ってた。
「……俺は、沙希のこと、ずっと“気になる存在”だって思ってた。」
「……“気になる”って、それ友達として?」
「違う。“好き”って意味。」
沈黙。沙希の目が見開かれる。そして次の瞬間、ニカっと笑った。
「……マジ? やば、めっちゃうれしいんだけど。」
その声と同時に、彼女は立ち上がって、俺の顔を覗き込む。
「じゃあ、キスしてもいい?」
「え、ちょ、待――」
長身の彼女が、俺の顔をすっと両手で包み込むようにして――そのまま唇を重ねてきた。
触れるだけの軽いキス。でも、熱が体中を駆け抜けた。
「……背、低くても全然アリだわ。ユウ、かわいいし。」
「バカ。」
「照れてんの? かわい~」
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「……でさ、ユウ。」
「ん?」
「明日から、彼氏って呼んでいい?」
「……ああ。お前がよければな。」
「やった。じゃ、明日ヒール履こ~っと。もっと見下ろせるし。」
「やめろ。」
俺たちは笑いながら、校舎裏のベンチをあとにした。
見上げてた距離が、今日から少しだけ近く感じた。
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