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28件目 背伸びの距離
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夏の夕暮れ。校庭の隅で、俺は部活の片付けを終えて、静かな空を眺めていた。
「ユウ、まだいたんだ?」
その声はよく知っている。振り返ると、制服のシャツのボタンを大胆に開け、ヒール付きのローファーを履いた、長身の黒ギャル美女――葵(あおい)が立っていた。
「お前こそ、帰るの遅くね?」
「今日は寄り道してきたの。新しいカラコン見に行ってたんだ~」
からかうような笑み。だけど、俺はそれに笑い返せなかった。なぜなら、明日、葵が転校することを知っていたから。
「……ねえ、ユウ」
珍しく、葵の声に迷いが混じる。
「覚えてる? 小学校のとき、ユウに『背、絶対抜かれない』って言われたこと」
「覚えてる。俺の方が高かったしな」
「それが今じゃ完全に逆転。見て、この脚!」
そう言って葵はくるりと一回転し、自慢げに足を伸ばす。すらっとした長い脚、引き締まったウエスト。モデルみたいな体型と、ギャル系の派手な外見で、男子の注目を集めない日はない。
「お前、ほんと変わったよな。中学の頃なんて、日焼け止め塗っても真っ黒で、二人で遊んでたのに」
「やめて! 黒歴史!」
ふたりで笑う。いつもの、気楽な空気。だけど今日は、少しだけ違った。
沈黙のあと、葵がふと、真面目な顔になる。
「ねえ、ユウ。私がギャルになっても、見た目が派手でも……幼なじみのままでいたかった?」
「……それ、どういう意味?」
葵は少し顔を背けて、校舎の壁にもたれる。
「ずっとさ。ユウのこと、好きだった。なのにいつも“昔からの友達”で終わるから……私、もう我慢できない。」
風が吹いて、葵のブロンドが揺れる。陽焼けした肌に夕陽が滲んで、なんだか少し切なく見えた。
「明日、遠くに行く前に、言っておきたかった」
俺は数歩近づいて、葵を見上げる。ヒールのせいで、いつもよりさらに高く感じた。
「……俺も、好きだった。ずっと。」
「え……?」
「でも、お前が変わっていくのが眩しくて、ずっと言えなかった。だけど、お前がどんな見た目になっても、中身が葵だってこと、俺はちゃんと知ってるから」
葵の目が、大きく揺れた。
「バカ……」
涙がこぼれそうになるのを、彼女はぎゅっと堪えて、そっと俺に身を寄せた。
そして、彼女が俺の顔に手を伸ばす。
「キス、していい?」
「……その前に、背伸びしてくれ」
「え?」
「背の差、ちょっと悔しいから」
彼女は吹き出して笑った。そして、俺にそっと背伸びして――唇を重ねた。
それは夕陽の味がする、やさしくて熱いキスだった。
離れたくないと思った。こんなに近くにいたのに、ずっと言えなかった。そんな気持ちが、全部つながった気がした。
「……背、また伸びた?」
「ううん。ユウが近づいたんだよ」
「ずるいな」
「でも、好きになってくれてありがとう」
明日、葵はいなくなる。でもこのキスのぬくもりは、きっと消えない。
「ユウ、まだいたんだ?」
その声はよく知っている。振り返ると、制服のシャツのボタンを大胆に開け、ヒール付きのローファーを履いた、長身の黒ギャル美女――葵(あおい)が立っていた。
「お前こそ、帰るの遅くね?」
「今日は寄り道してきたの。新しいカラコン見に行ってたんだ~」
からかうような笑み。だけど、俺はそれに笑い返せなかった。なぜなら、明日、葵が転校することを知っていたから。
「……ねえ、ユウ」
珍しく、葵の声に迷いが混じる。
「覚えてる? 小学校のとき、ユウに『背、絶対抜かれない』って言われたこと」
「覚えてる。俺の方が高かったしな」
「それが今じゃ完全に逆転。見て、この脚!」
そう言って葵はくるりと一回転し、自慢げに足を伸ばす。すらっとした長い脚、引き締まったウエスト。モデルみたいな体型と、ギャル系の派手な外見で、男子の注目を集めない日はない。
「お前、ほんと変わったよな。中学の頃なんて、日焼け止め塗っても真っ黒で、二人で遊んでたのに」
「やめて! 黒歴史!」
ふたりで笑う。いつもの、気楽な空気。だけど今日は、少しだけ違った。
沈黙のあと、葵がふと、真面目な顔になる。
「ねえ、ユウ。私がギャルになっても、見た目が派手でも……幼なじみのままでいたかった?」
「……それ、どういう意味?」
葵は少し顔を背けて、校舎の壁にもたれる。
「ずっとさ。ユウのこと、好きだった。なのにいつも“昔からの友達”で終わるから……私、もう我慢できない。」
風が吹いて、葵のブロンドが揺れる。陽焼けした肌に夕陽が滲んで、なんだか少し切なく見えた。
「明日、遠くに行く前に、言っておきたかった」
俺は数歩近づいて、葵を見上げる。ヒールのせいで、いつもよりさらに高く感じた。
「……俺も、好きだった。ずっと。」
「え……?」
「でも、お前が変わっていくのが眩しくて、ずっと言えなかった。だけど、お前がどんな見た目になっても、中身が葵だってこと、俺はちゃんと知ってるから」
葵の目が、大きく揺れた。
「バカ……」
涙がこぼれそうになるのを、彼女はぎゅっと堪えて、そっと俺に身を寄せた。
そして、彼女が俺の顔に手を伸ばす。
「キス、していい?」
「……その前に、背伸びしてくれ」
「え?」
「背の差、ちょっと悔しいから」
彼女は吹き出して笑った。そして、俺にそっと背伸びして――唇を重ねた。
それは夕陽の味がする、やさしくて熱いキスだった。
離れたくないと思った。こんなに近くにいたのに、ずっと言えなかった。そんな気持ちが、全部つながった気がした。
「……背、また伸びた?」
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