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29件目 桜よりも、君の横顔
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春の風が、桜の花びらをやさしく揺らす。放課後の並木道、まだ制服に慣れない高校一年の俺は、坂の途中で足を止めた。
「……桜、満開だな」
そんな独り言に、背後から聞き慣れた声が返ってくる。
「ユウ、なんで一人で感傷モード入ってんの?」
振り返ると、そこにいたのは陽葵(ひまり)。俺の幼馴染で、そして今日から同じ高校に通うことになった、長身の黒ギャル美女――である。
「感傷っていうか……お前、今日の制服、全然浮いてたぞ」
「は? ほめてんの? けなしてんの?」
陽葵はふくれた顔で近づいてくる。ヒールを履いたその姿は、俺よりもずっと背が高い。小学校の頃は俺の後ろをちょこちょこついてきていたのに、今では見上げる存在になっていた。
「……似合ってたよ。めっちゃ目立ってたけど、いい意味で」
「ふーん。じゃあ、まあいっか」
陽葵は照れ隠しなのか、頬を指でこすっていた。メイクは濃いけど、あの頃の素朴な笑顔はそのままだ。
「てか、あんたさ」
「ん?」
「私と同じ高校、ほんとに偶然なの?」
その問いに、俺は少しだけ黙ってしまう。実は、志望校を変えたのは、陽葵がここに来ると聞いたからだった。
でもそれを言う勇気は、なぜかまだ出なかった。
「偶然……ってことにしとけよ」
「ふーん……なら偶然に感謝しとくわ」
そう言って、陽葵は坂の脇にあるベンチに腰かけた。俺も隣に座る。肩が少しだけ触れた。
「……高校生になったけどさ、なんか変わったと思う?」
「お前は変わってない。昔からまっすぐすぎて、困るくらい」
「それ、ほめてんの?」
「……めっちゃほめてる」
陽葵がふと真剣な顔になった。
「じゃあ、さ。私が今、急に『キスして』って言ったらどうする?」
不意を突かれて、俺は言葉を失った。
「……子どもの頃はさ、手つないだだけで赤くなってたのに、今ならどう思うのかなって」
「……キス、していい?」
俺の方から、そう聞いた。陽葵の目が、驚きで少しだけ大きくなる。
「……ほんとにしてくれるの?」
「したいって思ってた。ずっと、言えなかったけど」
陽葵の顔が、ゆっくりと近づいてくる。桜の花びらが舞う中で、俺たちは、そっと唇を重ねた。
長くも短くもない、でも心に残る春のキスだった。
離れた後、陽葵がちょっと泣きそうな笑顔を浮かべた。
「……中学んとき、ずっと言いたかったの。あんたのこと、好きだった」
「俺も。もう、見上げてもいいと思ってた」
「ふふ……でも、見下ろしてあげるのも悪くないね」
春の風が、また花びらを運んでいく。桜もきれいだったけど、あの日の陽葵の笑顔が、一番まぶしかった。
「……桜、満開だな」
そんな独り言に、背後から聞き慣れた声が返ってくる。
「ユウ、なんで一人で感傷モード入ってんの?」
振り返ると、そこにいたのは陽葵(ひまり)。俺の幼馴染で、そして今日から同じ高校に通うことになった、長身の黒ギャル美女――である。
「感傷っていうか……お前、今日の制服、全然浮いてたぞ」
「は? ほめてんの? けなしてんの?」
陽葵はふくれた顔で近づいてくる。ヒールを履いたその姿は、俺よりもずっと背が高い。小学校の頃は俺の後ろをちょこちょこついてきていたのに、今では見上げる存在になっていた。
「……似合ってたよ。めっちゃ目立ってたけど、いい意味で」
「ふーん。じゃあ、まあいっか」
陽葵は照れ隠しなのか、頬を指でこすっていた。メイクは濃いけど、あの頃の素朴な笑顔はそのままだ。
「てか、あんたさ」
「ん?」
「私と同じ高校、ほんとに偶然なの?」
その問いに、俺は少しだけ黙ってしまう。実は、志望校を変えたのは、陽葵がここに来ると聞いたからだった。
でもそれを言う勇気は、なぜかまだ出なかった。
「偶然……ってことにしとけよ」
「ふーん……なら偶然に感謝しとくわ」
そう言って、陽葵は坂の脇にあるベンチに腰かけた。俺も隣に座る。肩が少しだけ触れた。
「……高校生になったけどさ、なんか変わったと思う?」
「お前は変わってない。昔からまっすぐすぎて、困るくらい」
「それ、ほめてんの?」
「……めっちゃほめてる」
陽葵がふと真剣な顔になった。
「じゃあ、さ。私が今、急に『キスして』って言ったらどうする?」
不意を突かれて、俺は言葉を失った。
「……子どもの頃はさ、手つないだだけで赤くなってたのに、今ならどう思うのかなって」
「……キス、していい?」
俺の方から、そう聞いた。陽葵の目が、驚きで少しだけ大きくなる。
「……ほんとにしてくれるの?」
「したいって思ってた。ずっと、言えなかったけど」
陽葵の顔が、ゆっくりと近づいてくる。桜の花びらが舞う中で、俺たちは、そっと唇を重ねた。
長くも短くもない、でも心に残る春のキスだった。
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「……中学んとき、ずっと言いたかったの。あんたのこと、好きだった」
「俺も。もう、見上げてもいいと思ってた」
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