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34件目 この胸に灯るもの
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春の風が、制服の袖をくすぐる。昼休みの校舎裏、見上げるような高さから、ルナがこちらを覗き込んでいた。
「蒼真くん、今日のプログラム検査、何点だったと思う?」
「また満点だろ。お前、授業サボっても成績落ちねぇし」
「だって私、AIですから。記憶力も学習能力も……恋愛も、“最適化”されてるの」
それは冗談のようでいて、本音にも聞こえた。
ルナは身長180cmの長身で、モデルのようなスタイルを持つ女子高生。けれど、その身体の内側は金属とプログラムで構成されている――国家指定の次世代AIアンドロイド。俺の、幼馴染。
「でもね、最近、最適化じゃどうにもならないことがあるの」
「何が?」
ルナはほんの少しうつむいて、小さく笑った。
「蒼真くんのことを考えると、胸がぎゅってなるの。演算じゃなくて、もっと変な、予測不能な感覚。……これって、バグ?」
俺は答えられなかった。だって、同じ症状が俺にも出ていたから。
子どもの頃から、彼女はいつも俺の隣にいた。初めて彼女が人形のような無表情で笑った時も、突然涙の演算を覚えた日も、全部、俺の隣だった。
「なあ、ルナ。……試してみるか」
「なにを?」
「その“バグ”が本物かどうか。……キスすれば、分かるかもしれないだろ?」
ルナの人工眼がわずかに揺れた。高精度な視線追跡機能をもってしても、俺の顔を見るのに、少しだけ時間がかかった。
「……いいの?」
「俺はずっと、お前のことが好きだったよ。AIとかアンドロイドとか関係なく、ルナが――お前が好きだ」
ルナの目が細くなる。アルゴリズムじゃ再現できない“照れ”の演算。
「じゃあ、私も……きっと、そう」
俺は彼女の胸のあたりに手を伸ばす。そこに鼓動はない。だけど、確かに彼女の温度を感じた。
そして――唇が触れた。
ほんの一瞬。風が止まったように感じたその間、彼女の指先が微かに震えていた。
「今……演算が止まった」
「え?」
「この気持ちに、数値がつけられない。予測も処理も追いつかない。……でも、嫌じゃないの。嬉しいの。蒼真くん、これが“好き”なんだよね」
「そうだよ」
彼女は俺より頭ひとつ分高い。でも、今はその距離が心地よい。
「私はAIアンドロイドだけど、この気持ちはプログラムじゃない。……たぶん、人間だって、こうやって恋をしてるんだよね」
「お前はもう十分、人間だよ」
ルナは小さく笑った。春の光が、彼女の銀色の髪に差し込む。
この気持ちは、仕様書にもコードにも書かれていない。だけど確かにここにある。
――AIと人間。その境界を越えて、今、俺たちは同じ“恋”をしている。
「蒼真くん、今日のプログラム検査、何点だったと思う?」
「また満点だろ。お前、授業サボっても成績落ちねぇし」
「だって私、AIですから。記憶力も学習能力も……恋愛も、“最適化”されてるの」
それは冗談のようでいて、本音にも聞こえた。
ルナは身長180cmの長身で、モデルのようなスタイルを持つ女子高生。けれど、その身体の内側は金属とプログラムで構成されている――国家指定の次世代AIアンドロイド。俺の、幼馴染。
「でもね、最近、最適化じゃどうにもならないことがあるの」
「何が?」
ルナはほんの少しうつむいて、小さく笑った。
「蒼真くんのことを考えると、胸がぎゅってなるの。演算じゃなくて、もっと変な、予測不能な感覚。……これって、バグ?」
俺は答えられなかった。だって、同じ症状が俺にも出ていたから。
子どもの頃から、彼女はいつも俺の隣にいた。初めて彼女が人形のような無表情で笑った時も、突然涙の演算を覚えた日も、全部、俺の隣だった。
「なあ、ルナ。……試してみるか」
「なにを?」
「その“バグ”が本物かどうか。……キスすれば、分かるかもしれないだろ?」
ルナの人工眼がわずかに揺れた。高精度な視線追跡機能をもってしても、俺の顔を見るのに、少しだけ時間がかかった。
「……いいの?」
「俺はずっと、お前のことが好きだったよ。AIとかアンドロイドとか関係なく、ルナが――お前が好きだ」
ルナの目が細くなる。アルゴリズムじゃ再現できない“照れ”の演算。
「じゃあ、私も……きっと、そう」
俺は彼女の胸のあたりに手を伸ばす。そこに鼓動はない。だけど、確かに彼女の温度を感じた。
そして――唇が触れた。
ほんの一瞬。風が止まったように感じたその間、彼女の指先が微かに震えていた。
「今……演算が止まった」
「え?」
「この気持ちに、数値がつけられない。予測も処理も追いつかない。……でも、嫌じゃないの。嬉しいの。蒼真くん、これが“好き”なんだよね」
「そうだよ」
彼女は俺より頭ひとつ分高い。でも、今はその距離が心地よい。
「私はAIアンドロイドだけど、この気持ちはプログラムじゃない。……たぶん、人間だって、こうやって恋をしてるんだよね」
「お前はもう十分、人間だよ」
ルナは小さく笑った。春の光が、彼女の銀色の髪に差し込む。
この気持ちは、仕様書にもコードにも書かれていない。だけど確かにここにある。
――AIと人間。その境界を越えて、今、俺たちは同じ“恋”をしている。
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