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44件目 ラブリー天使は、隣にいる
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*
「ねえ、アキラ。キス、したことある?」
ソファに座る俺の隣で、ミユが唐突にそう言った。
彼女の視線はテレビに向いたまま、けれど口元は少し笑っている。
長い脚を組んで、白いワンピースがふわりと揺れた。
*
ミユは俺の幼馴染。背が高くて、まるでモデルみたいなスタイル。
けれど、ふざけた顔でカップラーメンをすする、ただの隣のアイツ。
昔から可愛いと言われていたが、
今や“ラブリー天使”なんて呼ばれて、クラスでも注目の的だ。
「ないよ、そんなの」
俺はつぶやいた。
たぶん、正直すぎた。
「ふーん、じゃあ――初めて、あたしでもいい?」
「は?」
反射的に顔を見ると、ミユの目がまっすぐ俺を射抜いていた。
*
ミユはいつからこんな顔をするようになったんだろう。
背の順でいつも俺の後ろにいた、あの頃の小さなミユはもういない。
「でもさ、なんで?」
聞かずにはいられなかった。
「なんでって……アキラが好きだから、って言ったら困る?」
その言葉に、俺の思考は停止した。
水平思考どころか、縦にも横にも進まなくなった。
「子どもみたいな顔しないでよ、もう高校生なんだし」
「いや、だって……そんなの……」
俺は、目を逸らす。
ミユはそっと顔を寄せて、笑った。
「ねえ、あたしのこと、女として見たことない?」
答えられなかった。
否定したら、たぶん泣く。
肯定したら、全部が変わってしまう。
*
「いいよ、冗談だから」
そう言って立ち上がるミユの声が、少し震えていた。
でも、後ろ姿はいつもよりまっすぐだった。
去ろうとする彼女の腕を、思わず掴んだ。
「冗談じゃないなら、どうすればいい?」
声が震えていたのは、俺も同じだった。
ミユは振り返らなかった。
「じゃあ、目、閉じて」
そう言われて、俺は素直に閉じた。
ゆっくりと、温かい何かが唇に触れた。
*
キスだった。
たしかに、はじめての。
けれどそれ以上に、ずっと前から知っていた感触だった。
「今の、練習じゃないから」
ミユの声はすぐ耳元でささやかれて、心臓が跳ねた。
「あたし、ずっとアキラのことが好きだった」
言葉は風のように消えて、だけど胸の奥で何度も繰り返された。
*
その日から、俺はもう幼馴染とは思えなかった。
でも――
「明日も、来てもいい?」
「うん、いつでも」
そのやりとりが、変わらない日常として続いていく。
変わってしまった“普通”の中で、
ただ一つ、変わらないものを手に入れた気がした。
それは、
――ずっと隣にいた、ラブリーな天使。
「ねえ、アキラ。キス、したことある?」
ソファに座る俺の隣で、ミユが唐突にそう言った。
彼女の視線はテレビに向いたまま、けれど口元は少し笑っている。
長い脚を組んで、白いワンピースがふわりと揺れた。
*
ミユは俺の幼馴染。背が高くて、まるでモデルみたいなスタイル。
けれど、ふざけた顔でカップラーメンをすする、ただの隣のアイツ。
昔から可愛いと言われていたが、
今や“ラブリー天使”なんて呼ばれて、クラスでも注目の的だ。
「ないよ、そんなの」
俺はつぶやいた。
たぶん、正直すぎた。
「ふーん、じゃあ――初めて、あたしでもいい?」
「は?」
反射的に顔を見ると、ミユの目がまっすぐ俺を射抜いていた。
*
ミユはいつからこんな顔をするようになったんだろう。
背の順でいつも俺の後ろにいた、あの頃の小さなミユはもういない。
「でもさ、なんで?」
聞かずにはいられなかった。
「なんでって……アキラが好きだから、って言ったら困る?」
その言葉に、俺の思考は停止した。
水平思考どころか、縦にも横にも進まなくなった。
「子どもみたいな顔しないでよ、もう高校生なんだし」
「いや、だって……そんなの……」
俺は、目を逸らす。
ミユはそっと顔を寄せて、笑った。
「ねえ、あたしのこと、女として見たことない?」
答えられなかった。
否定したら、たぶん泣く。
肯定したら、全部が変わってしまう。
*
「いいよ、冗談だから」
そう言って立ち上がるミユの声が、少し震えていた。
でも、後ろ姿はいつもよりまっすぐだった。
去ろうとする彼女の腕を、思わず掴んだ。
「冗談じゃないなら、どうすればいい?」
声が震えていたのは、俺も同じだった。
ミユは振り返らなかった。
「じゃあ、目、閉じて」
そう言われて、俺は素直に閉じた。
ゆっくりと、温かい何かが唇に触れた。
*
キスだった。
たしかに、はじめての。
けれどそれ以上に、ずっと前から知っていた感触だった。
「今の、練習じゃないから」
ミユの声はすぐ耳元でささやかれて、心臓が跳ねた。
「あたし、ずっとアキラのことが好きだった」
言葉は風のように消えて、だけど胸の奥で何度も繰り返された。
*
その日から、俺はもう幼馴染とは思えなかった。
でも――
「明日も、来てもいい?」
「うん、いつでも」
そのやりとりが、変わらない日常として続いていく。
変わってしまった“普通”の中で、
ただ一つ、変わらないものを手に入れた気がした。
それは、
――ずっと隣にいた、ラブリーな天使。
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