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46件目 背の順、恋の順
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梅雨明け直前の夕暮れ。教室の窓際、僕はいつも通りぼんやりしていた。
「……ねえ、そろそろ、言いたいことあるんじゃないの?」
急に話しかけてきたのは、隣の席の咲(さき)。
身長145cm。ツインテール。見た目は天使、中身はジャイアン。
──そして僕の幼馴染。
「え、何が?」
わざととぼける僕に、咲は椅子をギィッと引いた。
「そーいうとこだよ、祐(ゆう)。
……いつまでも小学生のまんまだと思ってたら、マジぶっ飛ばすから」
「暴力予告やめろよ……」
「キス、する気あるの? ないの? はっきりしなさいよ」
思わず咳き込む。
彼女はさらっと爆弾を投げてくる名人だった。
「な、なんで急にキスの話に……」
僕が狼狽えると、咲はいつもの調子で鼻を鳴らした。
「わたし、もう待てないんだけど」
咲とは、保育園のころからの付き合いだ。
背の順はいつも前から一番と二番。
成長期になっても、なぜか二人とも低身長のまま。
──でも、変わらなかったのは身長だけじゃない。
僕は気づいていた。
あのとき、咲が「結婚してやってもいい」って言ったのは冗談じゃなかったことに。
「……俺さ、怖いんだよ」
「何が?」
「咲との関係、変わるのが」
恋人になったら、今の気楽な関係はきっと壊れる。
でも、それでも。
僕は彼女の真剣な目を見て、ふと思った。
──咲は、もう“先”を見ている。
だったら僕も、そこに歩み出すべきなんじゃないか。
「……だったら、変えてみようか」
小さく呟いたその瞬間。
咲が目を見開き、
そして――
「……やっと、言った」
僕の胸ぐらを掴み、グイッと引き寄せた。
顔が近い。いや、近すぎる。
「身長差あるからって、油断しないこと」
そして。
彼女の唇が、そっと僕の唇に触れた。
ほんの一瞬。だけど、確かに。
僕らの関係は、あのキスで変わった。
「……次は、あたしの方からじゃないからね」
拗ねたように言いながら、彼女は窓の外を見る。
「だからさ、次は――」
咲はふいに笑った。
その笑顔が、なんだかとても大人びて見えた。
──幼馴染。
それはきっと、最も遠くて近い関係。
背の順は変わらないかもしれない。
でも、恋の順番は、もう決まっていたのかもしれない。
「……ねえ、そろそろ、言いたいことあるんじゃないの?」
急に話しかけてきたのは、隣の席の咲(さき)。
身長145cm。ツインテール。見た目は天使、中身はジャイアン。
──そして僕の幼馴染。
「え、何が?」
わざととぼける僕に、咲は椅子をギィッと引いた。
「そーいうとこだよ、祐(ゆう)。
……いつまでも小学生のまんまだと思ってたら、マジぶっ飛ばすから」
「暴力予告やめろよ……」
「キス、する気あるの? ないの? はっきりしなさいよ」
思わず咳き込む。
彼女はさらっと爆弾を投げてくる名人だった。
「な、なんで急にキスの話に……」
僕が狼狽えると、咲はいつもの調子で鼻を鳴らした。
「わたし、もう待てないんだけど」
咲とは、保育園のころからの付き合いだ。
背の順はいつも前から一番と二番。
成長期になっても、なぜか二人とも低身長のまま。
──でも、変わらなかったのは身長だけじゃない。
僕は気づいていた。
あのとき、咲が「結婚してやってもいい」って言ったのは冗談じゃなかったことに。
「……俺さ、怖いんだよ」
「何が?」
「咲との関係、変わるのが」
恋人になったら、今の気楽な関係はきっと壊れる。
でも、それでも。
僕は彼女の真剣な目を見て、ふと思った。
──咲は、もう“先”を見ている。
だったら僕も、そこに歩み出すべきなんじゃないか。
「……だったら、変えてみようか」
小さく呟いたその瞬間。
咲が目を見開き、
そして――
「……やっと、言った」
僕の胸ぐらを掴み、グイッと引き寄せた。
顔が近い。いや、近すぎる。
「身長差あるからって、油断しないこと」
そして。
彼女の唇が、そっと僕の唇に触れた。
ほんの一瞬。だけど、確かに。
僕らの関係は、あのキスで変わった。
「……次は、あたしの方からじゃないからね」
拗ねたように言いながら、彼女は窓の外を見る。
「だからさ、次は――」
咲はふいに笑った。
その笑顔が、なんだかとても大人びて見えた。
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それはきっと、最も遠くて近い関係。
背の順は変わらないかもしれない。
でも、恋の順番は、もう決まっていたのかもしれない。
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