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47件目 光の方へ、君の方へ
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放課後の美術室は、いつも静かだった。
カーテン越しの夕日が、淡く机の上を染めている。
僕の隣には、今日も凛(りん)が座っている。
彼女は、いつもノートに黙々と絵を描いている。
声も小さく、人の目も見ない。
誰も彼女のことを深く知ろうとしなかった。
──でも、僕は知ってる。
凛は、幼馴染だ。
小さくて、いつも猫みたいに目を伏せて、
だけど、言葉の端々に鋭い光を持っていた。
「……ねえ、祐真(ゆうま)」
ふいに、凛が小さく声を出した。
それだけで、空気がわずかに震える。
「今日も……来てくれて、ありがとう」
彼女は、ノートを胸に抱えながら、ぼそっと言った。
「当たり前だろ。俺、絵の道具貸してもらってるし」
「でも……みんな、もう、来なくなったから」
そう言って、凛は目を伏せる。
小さな体。細い肩。
誰にも見せない不安が、そこに宿っていた。
──ああ、なんでだろう。
僕はその背中を見るたびに、胸が詰まる。
ずっと昔から、彼女はこうだった。
誰にも気づかれないまま、ただ静かに息をしていた。
「……あのときさ」
僕はそっと切り出した。
「小2の文化祭。凛の描いた絵、誰かが破いたよな」
「……うん。覚えてる」
「あのとき泣かなかった凛、すげーと思ったよ」
凛は、首を横に振った。
「泣いたよ。でも、声に出さなかっただけ」
「……そっか」
言葉が、胸の奥に落ちていく。
僕は、ずっと傍にいたはずなのに、
何一つ、ちゃんと向き合っていなかった気がした。
「……好きだよ」
ふと、言葉がこぼれた。
凛が、ピタッと動きを止める。
「えっ……」
「俺、ずっと凛が好きだった。
誰よりも、ちゃんと見てたよ」
凛の頬が、ほんのり赤く染まっていく。
でも、それは恥ずかしさだけじゃなかった。
「……ほんとに?」
その問いかけに、僕はまっすぐ頷いた。
「俺だけは、凛の全部、見てたいって思ってた」
彼女の瞳が震えていた。
だけど、逃げなかった。
「……キス、してもいい?」
小さな声。
でも、はっきりと届く意思。
僕は、ゆっくり顔を近づけた。
そっと、触れるだけのキス。
それは、凛にとって初めての光だったのかもしれない。
「……こんなに心臓って、うるさいんだね」
照れたように笑った凛の声が、少しだけ明るかった。
「ずっと静かにしてたからだよ。今日からは、喋っていい」
「……うん」
その日、凛は初めて僕の目をまっすぐ見た。
夕日の中で、彼女の瞳が静かに輝いていた。
カーテン越しの夕日が、淡く机の上を染めている。
僕の隣には、今日も凛(りん)が座っている。
彼女は、いつもノートに黙々と絵を描いている。
声も小さく、人の目も見ない。
誰も彼女のことを深く知ろうとしなかった。
──でも、僕は知ってる。
凛は、幼馴染だ。
小さくて、いつも猫みたいに目を伏せて、
だけど、言葉の端々に鋭い光を持っていた。
「……ねえ、祐真(ゆうま)」
ふいに、凛が小さく声を出した。
それだけで、空気がわずかに震える。
「今日も……来てくれて、ありがとう」
彼女は、ノートを胸に抱えながら、ぼそっと言った。
「当たり前だろ。俺、絵の道具貸してもらってるし」
「でも……みんな、もう、来なくなったから」
そう言って、凛は目を伏せる。
小さな体。細い肩。
誰にも見せない不安が、そこに宿っていた。
──ああ、なんでだろう。
僕はその背中を見るたびに、胸が詰まる。
ずっと昔から、彼女はこうだった。
誰にも気づかれないまま、ただ静かに息をしていた。
「……あのときさ」
僕はそっと切り出した。
「小2の文化祭。凛の描いた絵、誰かが破いたよな」
「……うん。覚えてる」
「あのとき泣かなかった凛、すげーと思ったよ」
凛は、首を横に振った。
「泣いたよ。でも、声に出さなかっただけ」
「……そっか」
言葉が、胸の奥に落ちていく。
僕は、ずっと傍にいたはずなのに、
何一つ、ちゃんと向き合っていなかった気がした。
「……好きだよ」
ふと、言葉がこぼれた。
凛が、ピタッと動きを止める。
「えっ……」
「俺、ずっと凛が好きだった。
誰よりも、ちゃんと見てたよ」
凛の頬が、ほんのり赤く染まっていく。
でも、それは恥ずかしさだけじゃなかった。
「……ほんとに?」
その問いかけに、僕はまっすぐ頷いた。
「俺だけは、凛の全部、見てたいって思ってた」
彼女の瞳が震えていた。
だけど、逃げなかった。
「……キス、してもいい?」
小さな声。
でも、はっきりと届く意思。
僕は、ゆっくり顔を近づけた。
そっと、触れるだけのキス。
それは、凛にとって初めての光だったのかもしれない。
「……こんなに心臓って、うるさいんだね」
照れたように笑った凛の声が、少しだけ明るかった。
「ずっと静かにしてたからだよ。今日からは、喋っていい」
「……うん」
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夕日の中で、彼女の瞳が静かに輝いていた。
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