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48件目 日陰の君と、光のキス
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昼休み。
僕はいつもの場所――図書室の隅の窓際に座っていた。
そして、そこにはいつも通り、彼女がいた。
名前は、朝倉ひより。
身長は小さく、声も小さく、影のように目立たない。
でも僕は知っている。
彼女の瞳が、とてもきれいに本を追うことを。
そして、彼女が僕の幼馴染であることを。
「……今日も、ここなのね」
ひよりが、そっと言う。
机の端に、僕が借りてきた文庫本をそっと置いた。
「ああ。君がいるからな」
そう答えると、彼女はうつむいて小さく笑った。
「……そんな、簡単に言わないで」
「どうして? 本当のことなのに」
ひよりは、僕の隣で静かに本を開いた。
彼女の髪から、微かに紙とインクの香りがする。
図書室が似合いすぎて、時々心配になるくらいだ。
──きっと彼女は、誰かの目には映っていない。
でも、僕だけは見ていた。
小学校のときから、ずっとずっと。
「祐介(ゆうすけ)……私のこと、本当に覚えてるの?」
ひよりが、不意に言った。
「……なにを?」
「ランドセルのポケットに、チョコを入れたこと」
「あれ、ひよりだったのか?」
驚いた僕に、彼女は小さくうなずいた。
「気づいてないと思ってた。ずっと」
「気づいてなかった……ごめん」
その謝罪に、彼女は微笑んだ。
「でも、いいの。気づかれなくて慣れてるから」
胸が締めつけられる。
彼女は、ずっと“透明”でいようとしてきたんだ。
誰にも気づかれず、誰にも踏み込まれず。
でも、僕はもう黙っていたくなかった。
「なあ、ひより」
「……うん」
「俺、お前のこと……好きだ」
息をのむような静けさが、二人の間に落ちる。
ひよりは、本を閉じて僕を見た。
黒くて、少し震える瞳だった。
「私……こんな私で、いいの?」
「“こんな”じゃない。“ひより”がいいんだよ」
彼女の肩が、小さく震えた。
それからゆっくり、僕のほうに体を向ける。
「……じゃあ、お願いがあるの」
「なんでも言って」
「キス、して……」
その言葉は、小さな声だった。
でも、心の奥にまっすぐ響いた。
僕は、そっと手を伸ばした。
彼女の頬に触れる。
そして、何も言わず、唇を重ねた。
それは、世界で一番静かなキスだった。
でも、確かにそこに“彼女”がいた。
「……ありがとう」
ひよりは、僕の肩にもたれて目を閉じた。
もう、彼女は“影”じゃなかった。
この場所で、ちゃんと光を受け取っている。
僕の隣で、小さく笑っている。
──幼馴染の透明な恋は、いま確かに色を持った。
僕はいつもの場所――図書室の隅の窓際に座っていた。
そして、そこにはいつも通り、彼女がいた。
名前は、朝倉ひより。
身長は小さく、声も小さく、影のように目立たない。
でも僕は知っている。
彼女の瞳が、とてもきれいに本を追うことを。
そして、彼女が僕の幼馴染であることを。
「……今日も、ここなのね」
ひよりが、そっと言う。
机の端に、僕が借りてきた文庫本をそっと置いた。
「ああ。君がいるからな」
そう答えると、彼女はうつむいて小さく笑った。
「……そんな、簡単に言わないで」
「どうして? 本当のことなのに」
ひよりは、僕の隣で静かに本を開いた。
彼女の髪から、微かに紙とインクの香りがする。
図書室が似合いすぎて、時々心配になるくらいだ。
──きっと彼女は、誰かの目には映っていない。
でも、僕だけは見ていた。
小学校のときから、ずっとずっと。
「祐介(ゆうすけ)……私のこと、本当に覚えてるの?」
ひよりが、不意に言った。
「……なにを?」
「ランドセルのポケットに、チョコを入れたこと」
「あれ、ひよりだったのか?」
驚いた僕に、彼女は小さくうなずいた。
「気づいてないと思ってた。ずっと」
「気づいてなかった……ごめん」
その謝罪に、彼女は微笑んだ。
「でも、いいの。気づかれなくて慣れてるから」
胸が締めつけられる。
彼女は、ずっと“透明”でいようとしてきたんだ。
誰にも気づかれず、誰にも踏み込まれず。
でも、僕はもう黙っていたくなかった。
「なあ、ひより」
「……うん」
「俺、お前のこと……好きだ」
息をのむような静けさが、二人の間に落ちる。
ひよりは、本を閉じて僕を見た。
黒くて、少し震える瞳だった。
「私……こんな私で、いいの?」
「“こんな”じゃない。“ひより”がいいんだよ」
彼女の肩が、小さく震えた。
それからゆっくり、僕のほうに体を向ける。
「……じゃあ、お願いがあるの」
「なんでも言って」
「キス、して……」
その言葉は、小さな声だった。
でも、心の奥にまっすぐ響いた。
僕は、そっと手を伸ばした。
彼女の頬に触れる。
そして、何も言わず、唇を重ねた。
それは、世界で一番静かなキスだった。
でも、確かにそこに“彼女”がいた。
「……ありがとう」
ひよりは、僕の肩にもたれて目を閉じた。
もう、彼女は“影”じゃなかった。
この場所で、ちゃんと光を受け取っている。
僕の隣で、小さく笑っている。
──幼馴染の透明な恋は、いま確かに色を持った。
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