称号は神を土下座させた男。

春志乃

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本編

はじまりの話

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 雲の隙間に広がる空が何だかとても青いな、と思った。
 それと同時に全身が硬いアスファルトに打ち付けられた衝撃に脳みそまで揺れて、ああもう駄目だろうな、とも思った。
 全身で感じている筈の痛みを感じないし、寒さも暑さも感じなかった。ぼんやりとした意識だけが宙に放り出されたかのようで、周りで悲鳴や叫び声が聞こえるのに、それはまるで他人事の様でもあって、水中深くでそれを聞いているかのようにくぐもってはっきりと言葉という輪郭は見えない。そういえば人が死ぬ時に最後まで残るのは、聴力だったかなとどうでもいい知識が浮かんで消えていった。
 弟たちや友人、父や母の顔が浮かんだけれど、それはほんの一瞬ですぐにたった一人の大切なひとの顔が思い浮かんだ。
 生涯を共に寄り添い生きていくと決めていた。
 何よりも大事にすると、絶対に悲しませないと、この世の誰より幸せにするんだと幼い頃から心に固く決めていたのに。

――……嗚呼、きっと、彼女を泣かせてしまう。

 泣かせた奴には地獄を見せると決めていたのに、冗談抜きに自分が先に地獄を見るなんて。

「……――」

 彼女を呼んだのに、ごふっと口から何かが溢れた。血だったのかもしれないが、もうそれすらも分からない。
 生命の終焉たる死とはこんなにも呆気無いものなのか、と苦笑すら浮かんだ。
 こうして、水無月真尋は十八年という短すぎる生涯を終えたのだった。
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