幸せが終わるとき。(完結)

紫苑

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きっと二度目の恋。

想いとは裏腹に。

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…どうしたらいい?

私はどうすればいいの。

でも、レアが好き。


窓から、レアをこっそり見ようと、自室の窓から外を見た。
そこには、何故かメシア君が居て、二人きりで何か話してた。
雨で、あまり視界が良くなく、表情までは見えなかったけれど、声も届かないのに、不思議と不安な気持ちになった。以前から、二人はすごい仲良いとは言えないから、意外な組み合わせともいえた。

私は傘を持って、レアを追いかけた。

でも…背中しか見えないのに、何となくびしょぬれのレアに、声を掛けずらくて。
何となく、尾行のような形になってしまう。雨はどんどん酷くなっていく。嫌な予感がして、レアが部屋に入ってからも何度もチャイムを鳴らそうとして出来ない。

暫く、レアの部屋の前で考える。

二人が何を話してたのか。

「世間話…じゃないよねぇ」

何か不穏な雰囲気だったし。

考えて、更に考えても答えは出なかった。

雨は止まず、時間だけが経ち、勇気を出してチャイムを押す。

「お邪魔してもいい?レア。」

「…ぁあ。」

ドキドキしながら聞くと、あっさりした答えで拍子抜けだった。
ドアを開けたまま入って、閉めてから靴を脱いできちんと整えた。いつもはきちんと靴が揃えてあるのに、レアの靴は、ぐしゃぐしゃに放り投げてあり、違和感を感じる。

トントンと、廊下を歩く音がすると、リビングに案内される。相変わらず、綺麗か汚いか分からない部屋だ。教本などがぐしゃぐしゃに積み上げられてるのに、生活する部屋は綺麗で。それほど勉強熱心なのだろう。ブルーで統一してあるカーテンとカーペット。それに白い大きなソファ。窓際の水槽に、熱帯魚がすいすいと泳いでいる。横目でそれを見ると、白い固いソファに座った。

「紅茶でいいか?」

待ってろと、私の好きなピーチティーの袋を開けて、お湯を入れた。こぽこぽとお湯の音がして、甘い匂いが広がる。覚えててくれたんだ、と心が温かくなる。

「はい」
「あ、ありがとう…」

今思うと、あれは、少なくても嫌われてない、とほっとしたのもあるんだと思う。振られたのにチョコを渡したり、さぞかし迷惑だろうな、と思ってたから。でも、レアは何の気なしにそんなことをするから…私も誤解しちゃったんだと思う。

「―話がある。」
「なぁに?」
「…」

レアが悲しそうな顔をしたのは一瞬、そこから真面目に勉強を教えてる時の顔になって…

「メシアの事はどう思う?」

何でそんなことを訊くの?

「メシア君の事は、いい友達だと思ってるよ?」

聞かれたくない、そんな質問嫌。

「―メシアと付き合えよ。」
「え…」

胸が軋んだ。それはどういう言葉か、急に理解出来なくなってしまったみたいに、動揺した。

「嫌だ。」

何でそんな、言葉を押し殺したみたいな顔をするの。酷い事を言ってるのは、レアなのに。

「…メシアはいいやつだし、お似合いだと思うよ」

顔の表情とは裏腹に、レアは目を逸らさない。
何か訳があるのかもしれない。それでも、急にそんな事言われて、私の心の動揺は収まらない。

「何でそんなこと言うの…」

そんなことを言われるのなら。

「レアは…私の事、何とも思ってないんだね。」

気が付いたら、目に温かいものがいっぱいになる感覚に、戸惑った。泣いたら子供だと、思われてしまう。それは嫌だった。

「―家庭教師を辞めようと思ってる」
「やだよ!!!」

それだけは嫌だった。自分でもおもちゃを取り上げられた子供みたいに、怒った。それでもレアは、取り乱したりせずに「帰りなさい」と一言添える。それが、上手く言えないけれど、もやもやして「レアはそれでいいんだね…」と怒りより、悲しみが勝る。

すくっと立って、レアを観なかった。カップを置くと、私はすたすたと玄関に戻っていく。レアは何も言わなかったし、言えなかった。どんな顔をしているのか、自分は観るのが怖かった。手のかかる妹のような生徒を、手放せて嬉しい?悲しい?それとも…少しは、女として見て貰えてるのかな…。

玄関に立った瞬間、私は涙が零れた。後ろは見なかったけど、肩が震えてしまって、泣いてたのは気が付かれてしまっただろうな。肩にふわと、ジャケットがかけられ、「気を付けて帰れよ」といつもの優しい声が降ってきた。甘い優しい、いつもよりも。顔が見たい、見たくない。

玄関を出て、

やっぱりレアの顔を見たい!!

振り向いて時には、ドアががちゃんと閉まって、

「これで終わり…なんだ。」

じわじわと来る実感に、なんてことを言いだしてしまったんだろうと、思ったが時は既に遅かった。

「う…」

「うわぁああああああん」

子供みたいに、大声で泣いた。涙が止まらず、嗚咽が零れる。肩が震えたと思ったら全身が震えて。あの最後のピーチティーを飲み干して笑って。辛い思い出が増えるだけだって知っていたけれど、飲みたかった。声で、味覚で、あの味を、心から味わって感じたかった…。
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