幸せが終わるとき。(完結)

紫苑

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二人、また出会う日まで。

思い出す。

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私は、レアに単に恋に落ちただけじゃなく、

レアみたいな人に好かれたかったのかもしれない。

そしたら、自分が好きになれた気がするから。

私の学生時代から付き合ってた人は、最初から仲が悪いわけじゃなかった。

最初、同じ中学、同じクラスで、私と彼は席が近かった。
席替えで前と後ろの席になった時、当時話題になっていた本の話で盛り上がる。ふとした瞬間に、後ろを向けば、彼が居る事がくすぐったくて、嬉しい。授業中は、彼が見てるかもと居眠りを堪えるのだった。

「ねぇ、橋本君は私の事好きかな…」
「絶対好きだって!仲良いじゃん!!」
「でも…橋本君には美人の彼女が居るじゃん…」

そう、橋本君には、清楚系の学園のアイドルの彼女が居る。彼は、元々地味で、ぱっとしない感じだけど、とっても優しくて、笑顔が素朴で守りたくなるような、それでいていざという時、頼りになる。特別な感じはしなかったけど、傍に居たら自然と癒されるような、恋人と言うより、旦那様にしたいような人だった。

「でも、あの二人最近別れたってよ。」
「え!!」
「チャンスだよ、チャンス!!」

チャンスと言われ、橋本君が悲しそうな顔をしてるのを想像すると、手放しで喜べない自分が居た。それから、中学3年生の秋、紅葉に目を奪われていたら、修学旅行ではぐれてしまい、私は見知らぬ場所で、迷子になりパニックしてしまっていた。すると、

「楓!?」
あゆむ君!?」

その頃には、名前で呼ぶくらいには仲良くなっていた、橋本君と、偶然一緒になった。

「紅葉を見ていたら…とか?」
「え、何で分かったの!??」
「…俺もなんだよね」
「ええ」
「馬鹿みたいでしょ」
「そんなことないよ!!歩君はカッコいいよ!!」

紅葉より真っ赤になって「そっか」とうなずくと、俯いてしまって不味い事を言ったかな、と思った。

「え」
「手…繋ぎたかったから。」

耳まで真っ赤になって、手を優しく繋いで、ぎゅっと握った。強引なのに嫌じゃなくて、ギャップに悶えていると、
「一緒に観光しようか。」

そんな嬉しい申し出を心から声を出して「うん!!」と言うと、照れくさそうに行こうかと、先を歩いた。

「このお団子美味しい!」
「ここのお寺、恋愛成就だって。行ってみようよ」

手を引かれ、カップルみたいに歩く。期待しちゃうよ?ドキドキが指先から伝わり、彼の気持ちが伝わってくる気がした、彼は私の事が好きなんじゃないかと、想うほどの甘くて、キラキラな純粋な目をして、一緒に楽しんでる気持ちが一緒だったと純粋に信じた。

「俺、ずっと楓が好きだった。
付き合ってくれないか。」

答えは一つ。だけど、

「歩君は…あの…私、あの子より可愛くないよ。」
「あの子?」
「…エルスさん…」
「ああ」

そんなこと気にしてたの」
「そんなことじゃないよ!!だって…」
「俺は振られちゃって、今は本当に楓が好きなんだ…。」

ぎゅ、と抱きしめられ、囁かれる。その後ろには紅葉と不思議な風の匂いがしていた。私は嬉しくて、

「うん。」

そう答えは決まってた。
だけど、私は、ずっと疑ってしまった。あの学校一の美女より私がいい、なんてそんなわけないと。エルスさんは、性格もよく、清楚で、成績もトップクラスで、陸上部のエースで学校中が期待していた、全部女の子の憧れが詰まった可愛いものを持っていて、女の子の友達も多く、私みたいな狭くて深い友人関係よりも、充実しているように見えた。

それは、私をじわじわと毒のように…蝕んでいったんだ。
別々の高校に入り、デートの数が減ると、私は彼の浮気を疑い始めた。彼はそんなことしないと思いつつも、ちょっとしたことが気になってしまう。

「ここ、楓と来たかったんだ。」

やたらお洒落なカフェだと、誰か女の子が案内したのではないか、それはエルスさんではないか。

「ねぇ、キスしてもいい?」

そんなこと言うくらいに、誰かとキスの練習をしたの?

可愛げがない言動は彼に伝わって…彼は俺を信じられないのか、と怒った。それでも、

「ごめんね…」

彼からずっと謝ってくれて、私はいつの間にか、それすら信じられなくなってた。大学に入っても、社会人になっても、お互いに時間がとれず、益々すれ違い、交差していく私のコンプレックス。私はツンとして一見見えることもあり、

「楓さん、クールそうだよなぁ」
「付き合ってもつまんなさそう。」
「ああ、女王様キャラってやつ?」
「うざそう」
「あぁ~、分かる!!」

キャラが先走りして、勝手な噂を流す男子たち。私は怒ればよかったのか、それとも、真に受けなければ良かったのか。何が正解だか、分からないほどに、頭は混乱していた。

「―ねぇ、私ってうざい?」
「え」
「我儘で飽きちゃった?」

失言だ。これは言うべきではない。

「…本当は…エルスさんの代わりなんでしょ」

言っちゃダメな言葉を言ってから、彼は謝らなくなった。突然、冷たくなっていき、それでも結婚を押し付けた。その言葉を言ってから、何年もセックスレスになり、それでも付き合って別れない彼の気持ちを愛情だと、疑わずに信じたかった。

傍に居たいの。
やり直したいの。
結婚から、始めたいの。

それはもう遅かった。

始まりなどもうなく、振られる予感だけが当たった。

「私と結婚する気あるの!?」
背伸びをして、珍しくお洒落をして、予感など信じたくなく、私はオシャレな恰好をしていった。花柄のセーターに、紺の膝丈のトレンチコート風のスカート、ピンクのピンヒール、髪をワックスでまとめた。

マスカラは泣かないために、唇は桜色にしてキスしてくれるかも、チークは褒めてくれるかも。

眼鏡は、彼の顔が真っすぐ見られないから。最後に観たかったけど、怖いから。

きっとプロポーズだ!わかってる、振られるって。

そんな予感を信じたくなかった。お洒落なレストランで、別れ話何か、信じたくない。

「覚えてないの?」

私は後から、ここは社会人になって初めてのデートで、初任給で将来を誓い合ったレストランだと気が付かなかった。彼はやり直そうと、ここに呼んだことに気が付くのが遅すぎて。私はそれより、結婚!と押し付けすぎて、彼の気持ちに気が付かなかった。

彼は部屋に来ると、たまに手料理をふるまってくれた。
誕生日やイベントは必ず会ってくれ、優しくしてくれた。
気持ちはそこにあって、エルスさん架空の浮気相手を気にするより、大事な事は沢山彼との間にあった。

「ねぇよ!!最初からねーよ!付き合ってやったんだろ!!」

それは、私を悪者にしないための彼の最大限の最後の優しさ

ここに、お互いの思う『愛』はあったのに、

私は、レアを好きになって気が付いた。

とっても、勿体ない事をしていた。
もう戻れない恋なんだけど、何で気が付いたんだろう。

「居ますよ。ずっと好きな人」

その目が、初めて恋した、ときめいたキラキラ輝く宝石のような目をしていて、私も彼もこんな目をしていた。

「すごいなぁ…眩しいなぁ」

あんな純粋な目で人を愛せる貴方に、一瞬で恋したの。

学生の恋みたいな、愛がレアと相手にはきっとあったんだ。

「羨ましいなぁ」

私も。こんな目をした人と、また恋したい。

それは、レアには言ってやらないけどね!
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