幸せが終わるとき。(完結)

紫苑

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自分だけのもの。

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何故こんな時、こんなところに君は来てしまうんだろう?
憎くて切ない、そして甘くて淡い激情の味。
知ってほしくて、俺はに甘美な蜜を吸わせるんだ。
もどかしくて卑猥エッチな味を噛みしめながら。
俺を心行くまで味わってよ。

例え、それがさよならの行方でも。

君を離したくないんだ。



私は結局すごく悩んだ末に、独り初めてバーに来た。
お洒落で暗めの照明のそれでいて、誰も来ないような場末のカウンター席。
こんな外れたところにあるのだから、当たり前か。路地裏の駅から離れたショットバー。
ティエの部屋に行く前に、勇気がどうしても出なくていつも何杯飲んでも滅多に酔わないので、
これを機にお酒の勢いを借りて、ティエを襲うぐらいじゃないと!!と意気込む私。
とにもかくも、とても美味しくて軽いカクテルじゃ酔えないので、強めのお酒をバーテンダーに頼むのだった。

それなのに、ふらふらふわふわと酔ってくうちに…

私は尋常じゃない行動に出てしまった。

捨てられなかった合鍵は実は一つじゃないことに気が付くのが遅かった。足取りも怪しくマンションに着いてから、鍵のかかった扉を開けた瞬間、初めて部屋に来た訳じゃないのに、おや?と頭に霧が掛かった。シャワーの音が部屋に響けば、ああ、そっか~、部屋のベットで待ってればいいや~と思いつつ、

何故か中学生の頃、散々嗅いだ懐かしい煙草の匂いがフワリと舞うことに違和感すら感じない。

これは、きっとマルボロ。彼に抱かれてるような、妄想じみた夢が始まる。

「何でここにティアナが居るんだよ」
「ん…レア…何でぇ…??」
「馬鹿野郎!!ここ、俺の部屋なんだよ!!こんな時間にそんな酔って部屋に来る奴があるかっ!!」

はっと気が付いた時には、「し、しまったあああああ」と心で叫んだんだけれども、
もう時既に遅しと言うのはこういう状況を言うのかもしれない。相手側が下半身にタオルだけ巻いたシチュエーションに絵も言えぬ恥ずかしさ…私、本当に酔ってるんだろうか。

それとも、これはわざとで、望まれて来たというのだろうか。

噓でしょ?

—本当でしょう?

心の奥が開くような感覚がした。

「ひ、ひゃあっ!!」

何だか急に恥ずかしくなって来て、顔に熱が籠った。
レアは細いのだけれど、『初体験あの時』見る余裕がなかったことに気が付いた。
引き締まって、鍛えてるのかもしれないなぁとちらと手で隠した指の隙間から見てしまう。

そうすると、レアが意地悪気に笑っていたことに気が付いた。

「そっか、満更でもないんだな。のこのこ諦めようとすると、こんな時間に酔って部屋に来るって事は、望みがないわけでもないのか…」

その笑顔が、今まで見てきたレアの情けなくて困ってる顔や、家庭教師をしていた時の優しい生徒に向ける笑顔でも、クレハさんを思い出してる事でもないことに気が付いたら、急に少し怖くなった。

「本当に危機観念ねぇよな~…じゃあ、味見させてよ」

ぼーっとレアを見ていると顎をくいっと正面に向けられ、顔が近づいてるのに、

私は逃げようともしなかった。

ちゅと音が響くような軽いキス。

何かのスイッチが入ったことに気が付くのは、もう戻れない証拠だった。

そこでレアは辞めようとしてくれたのに、

私は、腕を引っ張って、自分から舌を入れた。

くちゅと響くエッチな音に私は軽く興奮状態になってしまっていた。

戸惑うように一瞬レアが固まれば、悩んだのは一瞬で、今までで一番激しいキスをされた。

絡み合う舌と唾液。何か美味しいものでも味わうようにそれでいて激しく、お互いに夢中になるような唇を嚙みながら、歯列を舌でなぞった。滴り落ちる唾液を優しくレアが拭って、それでも離さず、グイッと引っ張られ、抱きしめる形から押し倒された。

「ティアナ、大胆だな…今まで我慢してたのが馬鹿みてぇ…。」
「我慢しないでいい…よ。ゆっくり教えて…」

ゴクリとレアが喉を鳴らした。それを合図に「怖がらないで」と震える体を触り始めた。

「ひぁっ…ふぅ…んっ…ぁぁっ…」

声が我慢できなくって、胸の先端をピンと軽くはじかれて、ビクッと「やぁっ!」と声が出てしまう。
その様子に段々レアが止まらなくなってしまった起爆剤のように卒業式で着たスーツをずらしては、衣擦れの音がして、顔が赤くなっていくのが分かった。

「まだ引き返せるけど…帰る?」

ちょっと困ったいつもの顔に戻って、レアが寂しそうに笑った。その笑顔を見て、私は…私の中の何かが疼いては、それは嫌だと思ってしまう。

「嫌…レア、好き…好きなの…抱いて…離さないでぇ…」
ぎゅっと首筋に手を回すと、レアは「酔ってるよ、お前…」と悲しそうな顔をする。
「何をしたら好きって信じてくれるの…?レアはいつだって…いつだって子供扱いじゃない。
狡いよ。私だって、エッチだって、レアに女として見てもらいたいもん…。もっと激しくしてよ…」

何故か私の目から涙が溢れた。それは止まらず、上に乗っかっているレアが涙を手で乱暴に拭った。
私の中の違和感。レアに本当の意味で女として見られたい。対等に近い立場で居たい。
ティエの事とかどうでもいいんだ。今はどうでもいいと、自分でも身勝手で、女々しい我儘だなと益々泣きそうになる。

「俺、本当はすげぇエロいよ?ティアナがビックリするぐらいなんだよな。
でも、嫌われるのが怖くって…本当はティアナが泣いてると苛めたくなって、身体中を舐めまわしたい。避妊なんかしないで、滅茶苦茶に犯したい。ほら」
「ひぁあ…っ」

下半身を押し付けられると、タオルの上からでも分かるレアのその気持ちが不謹慎だけれども嬉しかった。その瞬間、息が乱れて、それを悟られてしまう。

「はは、ティアナ、エロ…すげぇエロい」
「?…ふぅ…」
「ティアナは…ティエとはしたの?」
「…してないけど…私はレアとしか…してない…よ」
「俺の事本当は大好きだよな?」

カッと顔中に熱が集うみたいに、私はきっと耳まで真っ赤になっている。
ティエと出来なかったのは…レア以外としたくないから。
そんなことを考えるのすら、他の人じゃ嫌なの。

「好きです…大好きです」

酔った勢いは止まらない。何故か私は夢の中に居る気分になって、今までの制御とか感情のコントロールとかそういう理性は全部消えてしまった。もじもじとうずうずが交差して、気が付いたら、「レアは?」と聞き返す。

「大好き…愛してるよ」

ドクンと胸が高鳴って身体中の芯が熱くなった。

「クレハさん…よりも?」
「クレハよりも。誰よりも大好きだよ。馬鹿なところも、ドジなところも、お人好しなところも、嫌いな人には容赦ないところも、狡いところも女なところも、乙女なところも、全部全部好きだよ」

「嬉しい…夢でもいいから、抱きしめて…」

ふにゃと朗らかに笑うと、レアが照れくさそうに笑う。
眠くなってきたと思って、このままの態勢でうとうとしてたら、頬を抓られた。

「…んぅ?」
「寝かせるわけねーだろよ」

そうして、キスされ、状況にそれでも着いていけなかった。
レアが洋服を嬉しそうに脱がし始めて、「スーツ姿…可愛いな」と優しく微笑む。
「じゃあ、脱がさないでいいんじゃ…」と言うとやだと言い始めて、微睡む頭でしまったと思った。

「スーツ姿でしてみたかったんだよな~」とウキウキで脱がし始めた。

「いやいやいやいや…!!」

と遠慮がちに身をよじれば、

「…おいで」と顔を近づけ、耳元で囁いて、耳が甘い痺れで満たされる。

それを合図に私は、肩に手を自然に回した。

苦くて甘い起爆剤。
そのすべてを壊しても、
壊れてしまえば。

ああ、離したくないなぁ。
この細い首を舐めまわして、
俺のものに出来たらいいのに…。
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