16 / 78
第3章
夏休みの前に 5
しおりを挟む
七月の終わり、連日30度を軽く超える気温の中で、県大会は行われた。
僕は、100mと4×100mリレーに出場する。
富山市のはずれにある競技場は何度も大会に出場したことのある場所だった。
去年、二年のときもここで県大会があり、僕は100mで2位、200mで4位となった。相性も悪くない。
サブトラックで、同じ中学の文哉とアップをして、芝生の上で柔軟を終えた頃だった。
「佑」
名前を呼ばれて後ろを向くと、美咲がいた。
「おう」
「観にきたよ」
「あれ? 彩夏も来るんじゃなかったん?」
「なんかバタバタしてるって。あとでくるみたいだよ」
「そっか、ありがとな」
僕は芝生から立ち上がり、ジャージについた短い芝を手で払った。
「調子は?」
「うーん……可もなく不可もなく」
「何それ。やる気あるん?」
「やる気はもちろんある。予選は通過したし」
そう、やる気はちゃんとある。
午前中にあった3年100m走予選では、2着までに入ると決勝に進めるレースで、僕は第3組で1位だった。中盤で1位になることを確信できた僕は後半はスピードを緩めてもリードを保ったままゴールすることができた。
ただ、予選を突破できたからと喜んでいるわけにもいかない。僕が目指すべきは八月の全国大会なのだから。もっと高いレベルで戦わなければ、予選の1位にはほとんど意味がない。
「部活がまだ続けられる人はいいなー」
美咲のいた女子バスケ部は、地区大会の準決勝で敗れている。
「惜しい試合だったよな。あと2ゴール差だったんだし」
地区大会を優勝したチームと4点差でウチの中学は敗れた。僕も試合を観に行ったが優勝候補を相手に接戦を演じ、美咲はチームの半分近くの得点を挙げる活躍を見せていたがわずかに及ばなかった。
「負けは負けだよ」
地区大会から一ヶ月近く経っているので、美咲の中では整理できていることなのかもしれない。
「高校でもバスケやるのか? 小学校からやってんだし」
「うん、やるつもり」
美咲は小学校の頃からミニバスをやっており、所属していたクラブチームは強豪だったが、美咲はレギュラーだった。中学も一年からレギュラーで個人としては県でも十分通用するらしい。
「まずは高校に受かるとこからだけど」
「そんなに成績やばいのかよ」
「間違っても佑と同じ高校には入れんわ」
「いや、別にオレと同じじゃなくていいだろ。レベルの合うとこに行けばいい」
僕がそう言うと、美咲は少しむくれた表情をした。バカにされたと思ったのかもしれない。
「別に嫌味とかじゃないよ?」
「ふーん、どうせ私は佑みたく成績よくないですよ」
「成績……オレもいまは微妙なんだけどな」
声にしてしまってから、こんなことを美咲に言ってどうするんだ、と思ってしまった。
美咲もどう反応すればいいのかわからないのか、少し困ったような顔をしていた。
「佑先輩、そろそろ招集の時間ですよ」
文哉に呼ばれた。
「あ、美咲先輩、久しぶりっす」
「あれ? 文哉も県大に出とったん?」
文哉がいることに美咲は少し驚いた様子だった。同じ小学校なので、美咲も幼い頃から文哉を知っている。
「出ますよ! 出るだけじゃなくて通過する予定っすから。2年100mの決勝に出ますから」
僕は3年100m走の決勝、文哉も2年100m走の決勝に出場する。
「マジでー? 佑はともかく、あんたが出れるんなら、私でも出れた気がするわ、高校から陸上部にしよっかな」
「オレの走りも見てないくせに!」
「せいぜいフライング2回で失格にならないよーに」
「2回? いまはフライング1回で失格だし!」
文哉と美咲のじゃれ合いのような言い合いに僕は苦笑するしかなかった。ただ、文哉が変な空気を消してくれたのはよかったかなと思う。
「文哉、招集行くんだろ」
「あ、はい。行きましょう」
「頑張って」
僕は美咲の声に頷き、僕はスパイクの入ったカバンを持って文哉とサブトラックを出た。
競技場まで歩く間、アスファルトの上を陽炎が揺れていた。やけに喉が渇くような気がした。僕はスポーツドリンクを一口飲み、招集場所に向かった。
僕は、100mと4×100mリレーに出場する。
富山市のはずれにある競技場は何度も大会に出場したことのある場所だった。
去年、二年のときもここで県大会があり、僕は100mで2位、200mで4位となった。相性も悪くない。
サブトラックで、同じ中学の文哉とアップをして、芝生の上で柔軟を終えた頃だった。
「佑」
名前を呼ばれて後ろを向くと、美咲がいた。
「おう」
「観にきたよ」
「あれ? 彩夏も来るんじゃなかったん?」
「なんかバタバタしてるって。あとでくるみたいだよ」
「そっか、ありがとな」
僕は芝生から立ち上がり、ジャージについた短い芝を手で払った。
「調子は?」
「うーん……可もなく不可もなく」
「何それ。やる気あるん?」
「やる気はもちろんある。予選は通過したし」
そう、やる気はちゃんとある。
午前中にあった3年100m走予選では、2着までに入ると決勝に進めるレースで、僕は第3組で1位だった。中盤で1位になることを確信できた僕は後半はスピードを緩めてもリードを保ったままゴールすることができた。
ただ、予選を突破できたからと喜んでいるわけにもいかない。僕が目指すべきは八月の全国大会なのだから。もっと高いレベルで戦わなければ、予選の1位にはほとんど意味がない。
「部活がまだ続けられる人はいいなー」
美咲のいた女子バスケ部は、地区大会の準決勝で敗れている。
「惜しい試合だったよな。あと2ゴール差だったんだし」
地区大会を優勝したチームと4点差でウチの中学は敗れた。僕も試合を観に行ったが優勝候補を相手に接戦を演じ、美咲はチームの半分近くの得点を挙げる活躍を見せていたがわずかに及ばなかった。
「負けは負けだよ」
地区大会から一ヶ月近く経っているので、美咲の中では整理できていることなのかもしれない。
「高校でもバスケやるのか? 小学校からやってんだし」
「うん、やるつもり」
美咲は小学校の頃からミニバスをやっており、所属していたクラブチームは強豪だったが、美咲はレギュラーだった。中学も一年からレギュラーで個人としては県でも十分通用するらしい。
「まずは高校に受かるとこからだけど」
「そんなに成績やばいのかよ」
「間違っても佑と同じ高校には入れんわ」
「いや、別にオレと同じじゃなくていいだろ。レベルの合うとこに行けばいい」
僕がそう言うと、美咲は少しむくれた表情をした。バカにされたと思ったのかもしれない。
「別に嫌味とかじゃないよ?」
「ふーん、どうせ私は佑みたく成績よくないですよ」
「成績……オレもいまは微妙なんだけどな」
声にしてしまってから、こんなことを美咲に言ってどうするんだ、と思ってしまった。
美咲もどう反応すればいいのかわからないのか、少し困ったような顔をしていた。
「佑先輩、そろそろ招集の時間ですよ」
文哉に呼ばれた。
「あ、美咲先輩、久しぶりっす」
「あれ? 文哉も県大に出とったん?」
文哉がいることに美咲は少し驚いた様子だった。同じ小学校なので、美咲も幼い頃から文哉を知っている。
「出ますよ! 出るだけじゃなくて通過する予定っすから。2年100mの決勝に出ますから」
僕は3年100m走の決勝、文哉も2年100m走の決勝に出場する。
「マジでー? 佑はともかく、あんたが出れるんなら、私でも出れた気がするわ、高校から陸上部にしよっかな」
「オレの走りも見てないくせに!」
「せいぜいフライング2回で失格にならないよーに」
「2回? いまはフライング1回で失格だし!」
文哉と美咲のじゃれ合いのような言い合いに僕は苦笑するしかなかった。ただ、文哉が変な空気を消してくれたのはよかったかなと思う。
「文哉、招集行くんだろ」
「あ、はい。行きましょう」
「頑張って」
僕は美咲の声に頷き、僕はスパイクの入ったカバンを持って文哉とサブトラックを出た。
競技場まで歩く間、アスファルトの上を陽炎が揺れていた。やけに喉が渇くような気がした。僕はスポーツドリンクを一口飲み、招集場所に向かった。
22
あなたにおすすめの小説
【完結】イケメンが邪魔して本命に告白できません
竹柏凪紗
青春
高校の入学式、芸能コースに通うアイドルでイケメンの如月風磨が普通科で目立たない最上碧衣の教室にやってきた。女子たちがキャーキャー騒ぐなか、風磨は碧衣の肩を抱き寄せ「お前、今日から俺の女な」と宣言する。その真意とウソつきたちによって複雑になっていく2人の結末とは──
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら
瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。
タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。
しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。
剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について
おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である
そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。
なんと、彼女は学園のマドンナだった……!
こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。
彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。
そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。
そして助けられた少女もまた……。
二人の青春、そして成長物語をご覧ください。
※中盤から甘々にご注意を。
※性描写ありは保険です。
他サイトにも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる