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雑用係
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「すみません、もう一度言ってもらえますか?」
聞き間違いかと思い、もう一度と問えば明らかに機嫌悪そうに女神官長は鼻を鳴らした。
「ですから、三日後までに別館の掃除をし、使えるようにしなさいと言ったのです。全く、ローリアは本当に頭が悪いわね。これくらい一回で聞き取りなさいな」
でっぷりとした腹の上でその大きな胸を強調するように腕を組み、女神官長はあからさまに大きくため息を吐いた。
いつもならば居心地悪く思うそのため息も、今の私には気にしている暇がない。
それくらい、彼女の言葉は無茶がすぎるものだった。
「三日後!?そんな、あそこはもう二年も掃除をしていないんですよ?なんで今になってっ」
「掃除をしていなかったのは貴女の自業自得です。雑用係の貴女の仕事は教会内の掃除ですよ?それをサボっていて言い訳なんて………」
「神官長が使わないからしなくていいって言ったんじゃありませんか!」
そうだったかしら?とわざとらしく首を傾げる女神官長。口を不満そうに尖らせてはいるが、その目は確実に笑っていた。
— —絶対分かってて言ってる、この人!
思わず不満を叫びたくなる衝動をぐっと堪え、思考を働かせる。
教会敷地内にある別館は大きな屋敷と見紛う大きさで、本館に勝るとも劣らない部屋数を備えている。そこを私一人で完璧に掃除をし、多分日用品の類も運び入れて、ベットの手入れをして──うん、どう考えても無理がある。
ただでさえあそこは二年もの間掃除をしていないのだ。その分ホコリがたまりに溜まっているはずで、つまり、
— —三日で終わるわけがない。
「いくらなんでも無理があります!せめて人手を……」
「馬鹿おっしゃい!この教会に雑用係は貴女一人だけなのです!それはつまり、この仕事ができるのは貴女だけということ!神官たちは皆忙しく、暇してるのは貴女だけ!こういう時くらい働きなさいな!」
暇してる、って、何それ。
あんまりな言い分に、握っていた拳が震える。
毎日毎日馬鹿みたいに広い教会をこっちは一人で掃除してるのよ?なのに暇なわけあるかっ!──などと言い返せるわけもなく。
こうなった以上、私に従うしか道はない。これ以上あれこれ言えば、更なる無茶振りが飛んでくるだろう。
大人しく口をつぐむと、女神官長は気を良くしたようにまた鼻を鳴らす。
「そうそう、最初からそうやって従ってればいいのよ。あんまり言い訳ばかりしてると、いい加減ここを追い出されるわよ?そうしたら困るのは貴女でしょう。親が死んでるから行く場所もお金もない……追い出されたらすぐに野垂れ死んでしまうわ」
言い訳をしてるつもりはなかったが、追い出されたら困るのは最もなので、何も言い返せない。
雑用係なんて言われてはいるが、給金ももらったことがない私には有り金などゼロ。それに、まともに外に出ていない世間知らずな私をすぐさま雇ってくれる店はまずないだろう。
出ていきたいのは山々でも、死んでしまっては本末転倒。
悔しいが、ここは堪えるしかない。
「分かったらさっさと巫女候補さまたちを迎え入れる準備をなさい」
「——巫女候補?」
初めて聞く単語に俯きがちになっていた顔を上げ、首を傾げれば、一瞬キョトン、とした女神官長は「ああ」と手を打ち、
「そういえば言ってなかったわね。三日後、この教会は巫女候補さまたちを迎え入れるの。眷属さまにお仕えするべくね」
今日は機嫌がいいのか、彼女はいつもより饒舌にしゃべり出した。
「貴女ももちろん知ってるでしょう?『妖精の眷属』さまを。ーー魔法という力を授けつつも、あくまでも人間を平等に扱う妖精たちの唯一の例外………稀に生まれる、妖精たちに特別に愛され、大事にされる尊いお方。それが『妖精の眷属』さま。そんな特別なお方を、幸運にも我が教会はお迎えしているわ。それに報いるためにも、眷属さまには、何不自由のない快適な日々を過ごしてもらわなければならない。万が一にも不便がないよう、そしてお寂しい思いをなさらぬよう、巫女候補さまたちを迎えるの」
巫女候補なんて大仰な呼び方をしているが、要は、お友達候補ということだろうか。
まるで祈りを捧げるように手を組み、蕩々と語る女神官長の長々とした言葉をそう解釈する。
「それで別館を?」
「そうよ、加えて彼女たちは貴族。万が一にも失礼のないようになさい」
組んでいた手を解き、再び腰をそらすように仁王立ちし直すと、女神官長は声高くそう命令した。
その言葉に内心ため息を吐きながら、半ば諦めつつも私は口を開く。
「……………なら、余計に私一人じゃ役不足ですよ。万が一不備があったらそれこそ大変ですし、急いでやるなら尚のことです。もう少し早めに言ってもらわないと、一人では限界が……」
ついつい不満も一緒に出てしまい、ハッとして窺うようにそっと彼女を覗き見ると、女神官長はイライラと目の端を痙攣させ、私を鋭く睨み下ろしていた。
あ、口閉じてれば良かったかも、と思うも後の祭り。
私の反論が癪に障ったのか、唾を飛ばさんばかりの勢いで短気な女神官長は怒鳴った。
「いいからやれって言ってんのよ!この厄介ものの疫病神がっ!!」
聞き間違いかと思い、もう一度と問えば明らかに機嫌悪そうに女神官長は鼻を鳴らした。
「ですから、三日後までに別館の掃除をし、使えるようにしなさいと言ったのです。全く、ローリアは本当に頭が悪いわね。これくらい一回で聞き取りなさいな」
でっぷりとした腹の上でその大きな胸を強調するように腕を組み、女神官長はあからさまに大きくため息を吐いた。
いつもならば居心地悪く思うそのため息も、今の私には気にしている暇がない。
それくらい、彼女の言葉は無茶がすぎるものだった。
「三日後!?そんな、あそこはもう二年も掃除をしていないんですよ?なんで今になってっ」
「掃除をしていなかったのは貴女の自業自得です。雑用係の貴女の仕事は教会内の掃除ですよ?それをサボっていて言い訳なんて………」
「神官長が使わないからしなくていいって言ったんじゃありませんか!」
そうだったかしら?とわざとらしく首を傾げる女神官長。口を不満そうに尖らせてはいるが、その目は確実に笑っていた。
— —絶対分かってて言ってる、この人!
思わず不満を叫びたくなる衝動をぐっと堪え、思考を働かせる。
教会敷地内にある別館は大きな屋敷と見紛う大きさで、本館に勝るとも劣らない部屋数を備えている。そこを私一人で完璧に掃除をし、多分日用品の類も運び入れて、ベットの手入れをして──うん、どう考えても無理がある。
ただでさえあそこは二年もの間掃除をしていないのだ。その分ホコリがたまりに溜まっているはずで、つまり、
— —三日で終わるわけがない。
「いくらなんでも無理があります!せめて人手を……」
「馬鹿おっしゃい!この教会に雑用係は貴女一人だけなのです!それはつまり、この仕事ができるのは貴女だけということ!神官たちは皆忙しく、暇してるのは貴女だけ!こういう時くらい働きなさいな!」
暇してる、って、何それ。
あんまりな言い分に、握っていた拳が震える。
毎日毎日馬鹿みたいに広い教会をこっちは一人で掃除してるのよ?なのに暇なわけあるかっ!──などと言い返せるわけもなく。
こうなった以上、私に従うしか道はない。これ以上あれこれ言えば、更なる無茶振りが飛んでくるだろう。
大人しく口をつぐむと、女神官長は気を良くしたようにまた鼻を鳴らす。
「そうそう、最初からそうやって従ってればいいのよ。あんまり言い訳ばかりしてると、いい加減ここを追い出されるわよ?そうしたら困るのは貴女でしょう。親が死んでるから行く場所もお金もない……追い出されたらすぐに野垂れ死んでしまうわ」
言い訳をしてるつもりはなかったが、追い出されたら困るのは最もなので、何も言い返せない。
雑用係なんて言われてはいるが、給金ももらったことがない私には有り金などゼロ。それに、まともに外に出ていない世間知らずな私をすぐさま雇ってくれる店はまずないだろう。
出ていきたいのは山々でも、死んでしまっては本末転倒。
悔しいが、ここは堪えるしかない。
「分かったらさっさと巫女候補さまたちを迎え入れる準備をなさい」
「——巫女候補?」
初めて聞く単語に俯きがちになっていた顔を上げ、首を傾げれば、一瞬キョトン、とした女神官長は「ああ」と手を打ち、
「そういえば言ってなかったわね。三日後、この教会は巫女候補さまたちを迎え入れるの。眷属さまにお仕えするべくね」
今日は機嫌がいいのか、彼女はいつもより饒舌にしゃべり出した。
「貴女ももちろん知ってるでしょう?『妖精の眷属』さまを。ーー魔法という力を授けつつも、あくまでも人間を平等に扱う妖精たちの唯一の例外………稀に生まれる、妖精たちに特別に愛され、大事にされる尊いお方。それが『妖精の眷属』さま。そんな特別なお方を、幸運にも我が教会はお迎えしているわ。それに報いるためにも、眷属さまには、何不自由のない快適な日々を過ごしてもらわなければならない。万が一にも不便がないよう、そしてお寂しい思いをなさらぬよう、巫女候補さまたちを迎えるの」
巫女候補なんて大仰な呼び方をしているが、要は、お友達候補ということだろうか。
まるで祈りを捧げるように手を組み、蕩々と語る女神官長の長々とした言葉をそう解釈する。
「それで別館を?」
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その言葉に内心ため息を吐きながら、半ば諦めつつも私は口を開く。
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ついつい不満も一緒に出てしまい、ハッとして窺うようにそっと彼女を覗き見ると、女神官長はイライラと目の端を痙攣させ、私を鋭く睨み下ろしていた。
あ、口閉じてれば良かったかも、と思うも後の祭り。
私の反論が癪に障ったのか、唾を飛ばさんばかりの勢いで短気な女神官長は怒鳴った。
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