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証拠探し①
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入って来たのは城付きの医者パージスと宰相のゲラン・ハイネ公爵様だ。攻略対象だったセドリックの父親だ。かなりの美男子で有名で、最後に会った時も30代後半にはとても見えない若々しさだった。だが・・・今の彼は疲れた顔をしていて白髪が目立つ。あまりの変貌ぶりに驚いた。
先に、パージスに手当をしてもらう。パージスには、王妃教育で宮廷に登城するようになってから何度か診てもらったことがあった。
「アーリス様、本当にアーリス様なんですね!」涙を浮かべながら治療してくれた。幽霊!と叫ばれなくて良かったが、涙して喜んでくれる姿を見ると、何だか申し訳ないような気がした。
「ええ。私よ。何だか心配を掛けてしまって・・・私もこうなった理由が分からないのよ。」
治療が終わると宰相がパージスを促して退出させた。疲れた顔に加えて表情も若干青くなってる気がする。
「アーリス様、失礼ですが貴方様は亡くなられたはず。私も貴方様の亡骸をこの目で見ています。申し訳ありませんが、まず本物であるかどうか、お調べさせていただきます。」
「宰相、この方はアーリス・イソラ嬢に間違いない。私が保証する。」
「・・・。アレン様、お気持ちは分かります。私もこの方が本物だと感じています。だからこそ証拠を探さないと、死者が蘇るなんて他の者が納得するはずがないでしょう。後からアーリス様が糾弾される可能性がありますので、不穏な者どもに対抗する意味も込めて、本物である証拠を押さえておかねばなりませぬ。」
宰相から、値踏みするような鋭い目線でしげしげと見詰められ、思わず目線を逸らした。何も悪いことしていないのに居心地が悪い。
「アーリス様、覚えている限りで結構です。目覚める前に何があったのか教えて頂けますか?」
「お父様から卒業式の舞踏会の日に、謹慎しているように申し付けられておりましたのでずっと自室におりました。自室では、何かしていないと落ち着かなかったので、部屋の片付けとお世話になった方々に手紙を書いておりました。そんな時に首の後ろに何かが刺さって、手をやった所までは覚えているのですが・・・そのあと、この宮殿の庭で目覚めたんです。」
「首の後ろですか?失礼ですが、傷口をあらためさせて頂いてもよろしいでしょうか?」
「どうぞ。」
髪をかきあげうなじが見えやすくするために俯く。
「これは、確かに跡がありますね。針かもしれません。何かの薬物を盛られた可能性があります。魔術師団の者に痕跡を辿らせてみます。」手を叩くと宰相補佐に魔術師団長を呼ぶように指示を出した。
「宰相様、魔術師団って?以前はございませんでしたよね?」魔術は廃れたものと呼ばれていた為、トバルズ国には魔術師団は存在していなかった。
「3年前まではございませんでした。あの事件後、必要性を痛感して新設したのです。」
「必要性?あの事件?」
小首を傾げて訝る私を見て、宰相はため息を着いた。
「アーリス様はあの事件の顛末を何もご存知無かったのですよね。長い話になりますので、調査が終わりましたらお話いたしましょう。」
「宰相、あの事件については私からアーリス嬢に話す。調査に集中してくれ。」
「承知致しました。アーリス様あの事件については、アレン様にお聞きください。」
宰相はアレン様に会釈をすると話を続けた。
「そのドレスについてですが、本物か確認させていただきたいのですがよろしいでしょうか?以前、クリストファー殿下から、その服の内側に本物にしかない特徴を伺っておりますので、それが証拠になると思います。只今、代わりになる衣装と靴をご用意させていますので、お着替えをお願い致します。」
「分かりました。でも、ドレスに証拠が?」
「はい。殿下と貴女様だけに意味が分かるような細工をしてあったそうです。・・・実は仮の棺に納める時、そのドレスを着せるか揉めまして・・・特にイソラ公爵が反対されました。私がイソラ公爵を説得したのですが、その時に殿下が私にその証のことを仰られました。それを聞いたイソラ公爵はやっとドレスを着せることを承諾したのです。このことは、王子、イソラ公爵、私、ドレスを仕立てた衣装係しか知らないはずです。」
「見える限りそんな細工があるようには見えませんが。」
「ある手順を踏むと見えるようになっています。今はそれが何かは言えません。」
「・・・分かりました。」
「今、侍女に新しいドレスと靴を用意させます。脱いだドレスはその侍女にお渡し下さい。それでは、私は色々手配がありますのでこれにて下がらせていただきます。後ほど魔術師団長が参りますので、お待ちください。」
その後、侍女が代わりのドレスと新しい靴を持って来てくれたので、そのまま侍女の手を借りて着替えた。脱いだドレスを裏地を含めてひと通り見てみたが、見た限りでは何か証拠になるものは見つからなかった。この状態で調査して問題無いのか少し不安を感じながら侍女に着ていた紫のドレスを託したのだった。
アレン様は着替える間だけ退出していただいていたが、それ以外はずっと付き添って頂いていた。飲み物や食事について尋ねられたが、食事は喉を通らない気がして飲み物だけお願いした。気遣わしそうにしている表情に過去の姿が重なる。(王宮で労りのお言葉をかけていただく時、よくこんな表情をしていらした。身体は成長されても、お優しいのは変わられない。なんだが安心する。)
「アレン様、魔術師団長が参りました。」
「わかった通せ。」
魔術師団!かつて傾倒していた魔術の言葉に少しワクワクする気持ちが湧いてくる。
(魔術師ならローブ姿かな?)
先に、パージスに手当をしてもらう。パージスには、王妃教育で宮廷に登城するようになってから何度か診てもらったことがあった。
「アーリス様、本当にアーリス様なんですね!」涙を浮かべながら治療してくれた。幽霊!と叫ばれなくて良かったが、涙して喜んでくれる姿を見ると、何だか申し訳ないような気がした。
「ええ。私よ。何だか心配を掛けてしまって・・・私もこうなった理由が分からないのよ。」
治療が終わると宰相がパージスを促して退出させた。疲れた顔に加えて表情も若干青くなってる気がする。
「アーリス様、失礼ですが貴方様は亡くなられたはず。私も貴方様の亡骸をこの目で見ています。申し訳ありませんが、まず本物であるかどうか、お調べさせていただきます。」
「宰相、この方はアーリス・イソラ嬢に間違いない。私が保証する。」
「・・・。アレン様、お気持ちは分かります。私もこの方が本物だと感じています。だからこそ証拠を探さないと、死者が蘇るなんて他の者が納得するはずがないでしょう。後からアーリス様が糾弾される可能性がありますので、不穏な者どもに対抗する意味も込めて、本物である証拠を押さえておかねばなりませぬ。」
宰相から、値踏みするような鋭い目線でしげしげと見詰められ、思わず目線を逸らした。何も悪いことしていないのに居心地が悪い。
「アーリス様、覚えている限りで結構です。目覚める前に何があったのか教えて頂けますか?」
「お父様から卒業式の舞踏会の日に、謹慎しているように申し付けられておりましたのでずっと自室におりました。自室では、何かしていないと落ち着かなかったので、部屋の片付けとお世話になった方々に手紙を書いておりました。そんな時に首の後ろに何かが刺さって、手をやった所までは覚えているのですが・・・そのあと、この宮殿の庭で目覚めたんです。」
「首の後ろですか?失礼ですが、傷口をあらためさせて頂いてもよろしいでしょうか?」
「どうぞ。」
髪をかきあげうなじが見えやすくするために俯く。
「これは、確かに跡がありますね。針かもしれません。何かの薬物を盛られた可能性があります。魔術師団の者に痕跡を辿らせてみます。」手を叩くと宰相補佐に魔術師団長を呼ぶように指示を出した。
「宰相様、魔術師団って?以前はございませんでしたよね?」魔術は廃れたものと呼ばれていた為、トバルズ国には魔術師団は存在していなかった。
「3年前まではございませんでした。あの事件後、必要性を痛感して新設したのです。」
「必要性?あの事件?」
小首を傾げて訝る私を見て、宰相はため息を着いた。
「アーリス様はあの事件の顛末を何もご存知無かったのですよね。長い話になりますので、調査が終わりましたらお話いたしましょう。」
「宰相、あの事件については私からアーリス嬢に話す。調査に集中してくれ。」
「承知致しました。アーリス様あの事件については、アレン様にお聞きください。」
宰相はアレン様に会釈をすると話を続けた。
「そのドレスについてですが、本物か確認させていただきたいのですがよろしいでしょうか?以前、クリストファー殿下から、その服の内側に本物にしかない特徴を伺っておりますので、それが証拠になると思います。只今、代わりになる衣装と靴をご用意させていますので、お着替えをお願い致します。」
「分かりました。でも、ドレスに証拠が?」
「はい。殿下と貴女様だけに意味が分かるような細工をしてあったそうです。・・・実は仮の棺に納める時、そのドレスを着せるか揉めまして・・・特にイソラ公爵が反対されました。私がイソラ公爵を説得したのですが、その時に殿下が私にその証のことを仰られました。それを聞いたイソラ公爵はやっとドレスを着せることを承諾したのです。このことは、王子、イソラ公爵、私、ドレスを仕立てた衣装係しか知らないはずです。」
「見える限りそんな細工があるようには見えませんが。」
「ある手順を踏むと見えるようになっています。今はそれが何かは言えません。」
「・・・分かりました。」
「今、侍女に新しいドレスと靴を用意させます。脱いだドレスはその侍女にお渡し下さい。それでは、私は色々手配がありますのでこれにて下がらせていただきます。後ほど魔術師団長が参りますので、お待ちください。」
その後、侍女が代わりのドレスと新しい靴を持って来てくれたので、そのまま侍女の手を借りて着替えた。脱いだドレスを裏地を含めてひと通り見てみたが、見た限りでは何か証拠になるものは見つからなかった。この状態で調査して問題無いのか少し不安を感じながら侍女に着ていた紫のドレスを託したのだった。
アレン様は着替える間だけ退出していただいていたが、それ以外はずっと付き添って頂いていた。飲み物や食事について尋ねられたが、食事は喉を通らない気がして飲み物だけお願いした。気遣わしそうにしている表情に過去の姿が重なる。(王宮で労りのお言葉をかけていただく時、よくこんな表情をしていらした。身体は成長されても、お優しいのは変わられない。なんだが安心する。)
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