グラジオラスを捧ぐ

斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中

文字の大きさ
8 / 9

8.

しおりを挟む
「ではここで。失礼いたします」
「ええ、ゆっくり身体を休めてちょうだい」

 フィリスと別れて寮へ向かう道中、最も会いたくない人と目があった。
 といっても待ち伏せしていたわけではない。アレックスは仕事中で、そこには他の騎士達もいる。

 小さく頭を下げてから過ぎ去ろうとする。けれど腕を強く掴まれた。

「待ってくれ」

 アレックスが捨てられた犬のような目でリヒターを見るものだから、掴まれた腕だけじゃなくて胸までもがズキリと痛む。

 リヒターは知らないふりをして終わりにしようとしているのに、なぜ関わろうとするのか。

 口止め? フィリスには伝えてしまったが、他の誰かに告げるつもりはない。

 この先もひっそりと神官として働くつもりだ。

 帰ってきてすぐにアレックスを避けた時点で、リヒターにこれ以上関わる意思がないことは伝わっているはず。

 彼のように仲のいい相手が多い訳ではない。それにアレックスに利用されたのだと言い回ったところで信じる者などいるはずがない。

 それだけの価値がお前にあるのかと聞かれても、正解の言葉を用意することはできない。泣いてしまいそうになるのが関の山だ。

「王都に帰ってきたからって付き纏ったりなんてしませんよ」

 アレックスの手をゆっくりと剥がしながら、これ以上関わるつもりはないと遠回しに告げる。すると彼の表情がみるみるうちに歪んでいった。

「付き纏うってなんだよ」
「だからしませんって。僕とアレックス様はただ職場が近いだけの他人ですから」
「……俺の、何が悪かったんだ?」

 救いを乞うように問われたところで、その答えを持っているのはリヒターではない。
 いくら神官が聖女のサポート役とはいえ、アレックスを拒んだ聖女が誰かすら分からないのだ。推測することすら出来やしない。

 知りたかったら自分で聞くしかないのだ。

「僕に聞かれても困ります。それでは失礼します」

 無情に切り捨てて、その場を後にする。

 背後からアレックスの叫び声が聞こえた。けれど知らないふりをしてズンズンと進んでいく。

 そして神官服のままベッドに寝転んだ。リヒターが帰ってくるからと軽く掃除と洗濯をしておいてくれたらしい。久々でも全く埃っぽくない。

 お陰でこのまま溺れるように夢の世界に逃げていくことが出来る。

「求められたのが僕だったらいいのに」

 意見を求める相手としてではなく、恋愛感情を向ける相手として求めて欲しかった。

 地味で何一つ取り柄がないことはリヒター自身がよく分かっている。
 アレックスから求められるはずがないことも。けれど勝手に夢見るのは自由だ。

「好きです、アレックス様……」

 キスの合間に溢した言葉を今度は一人きりの部屋でポツリと溢す。遅れて頬につうっと涙が伝う。

 返事は返ってこない。



 ーーはずだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

手切れ金

のらねことすていぬ
BL
貧乏貴族の息子、ジゼルはある日恋人であるアルバートに振られてしまう。手切れ金を渡されて完全に捨てられたと思っていたが、なぜかアルバートは彼のもとを再び訪れてきて……。 貴族×貧乏貴族

長年の恋に終止符を

mahiro
BL
あの人が大の女好きであることは有名です。 そんな人に恋をしてしまった私は何と哀れなことでしょうか。 男性など眼中になく、女性がいればすぐにでも口説く。 それがあの人のモットーというやつでしょう。 どれだけあの人を思っても、無駄だと分かっていながらなかなか終止符を打てない私についにチャンスがやってきました。 これで終らせることが出来る、そう思っていました。

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

誰よりも愛してるあなたのために

R(アール)
BL
公爵家の3男であるフィルは体にある痣のせいで生まれたときから家族に疎まれていた…。  ある日突然そんなフィルに騎士副団長ギルとの結婚話が舞い込む。 前に一度だけ会ったことがあり、彼だけが自分に優しくしてくれた。そのためフィルは嬉しく思っていた。 だが、彼との結婚生活初日に言われてしまったのだ。 「君と結婚したのは断れなかったからだ。好きにしていろ。俺には構うな」   それでも彼から愛される日を夢見ていたが、最後には殺害されてしまう。しかし、起きたら時間が巻き戻っていた!  すれ違いBLです。 初めて話を書くので、至らない点もあるとは思いますがよろしくお願いします。 (誤字脱字や話にズレがあってもまあ初心者だからなと温かい目で見ていただけると助かります)

ブレスレットが運んできたもの

mahiro
BL
第一王子が15歳を迎える日、お祝いとは別に未来の妃を探すことを目的としたパーティーが開催することが発表された。 そのパーティーには身分関係なく未婚である女性や歳の近い女性全員に招待状が配られたのだという。 血の繋がりはないが訳あって一緒に住むことになった妹ーーーミシェルも例外ではなく招待されていた。 これまた俺ーーーアレットとは血の繋がりのない兄ーーーベルナールは妹大好きなだけあって大いに喜んでいたのだと思う。 俺はといえば会場のウェイターが足りないため人材募集が貼り出されていたので応募してみたらたまたま通った。 そして迎えた当日、グラスを片付けるため会場から出た所、廊下のすみに光輝く何かを発見し………?

契約結婚だけど大好きです!

泉あけの
BL
子爵令息のイヴ・ランヌは伯爵ベルナール・オルレイアンに恋をしている。 そんな中、子爵である父からオルレイアン伯爵から求婚書が届いていると言われた。 片思いをしていたイヴは憧れのベルナール様が求婚をしてくれたと大喜び。 しかしこの結婚は両家の利害が一致した契約結婚だった。 イヴは恋心が暴走してベルナール様に迷惑がかからないようにと距離を取ることに決めた。 ...... 「俺と一緒に散歩に行かないか、綺麗な花が庭園に咲いているんだ」  彼はそう言って僕に手を差し伸べてくれた。 「すみません。僕はこれから用事があるので」  本当はベルナール様の手を取ってしまいたい。でも我慢しなくちゃ。この想いに蓋をしなくては。  この結婚は契約だ。僕がどんなに彼を好きでも僕達が通じ合うことはないのだから。 ※小説家になろうにも掲載しております ※直接的な表現ではありませんが、「初夜」という単語がたびたび登場します

【BL】声にできない恋

のらねことすていぬ
BL
<年上アルファ×オメガ> オメガの浅葱(あさぎ)は、アルファである樋沼(ひぬま)の番で共に暮らしている。だけどそれは決して彼に愛されているからではなくて、彼の前の恋人を忘れるために番ったのだ。だけど浅葱は樋沼を好きになってしまっていて……。不器用な両片想いのお話。

繋がれた絆はどこまでも

mahiro
BL
生存率の低いベイリー家。 そんな家に生まれたライトは、次期当主はお前であるのだと父親である国王は言った。 ただし、それは公表せず表では双子の弟であるメイソンが次期当主であるのだと公表するのだという。 当主交代となるそのとき、正式にライトが当主であるのだと公表するのだとか。 それまでは国を離れ、当主となるべく教育を受けてくるようにと指示をされ、国を出ることになったライト。 次期当主が発表される数週間前、ライトはお忍びで国を訪れ、屋敷を訪れた。 そこは昔と大きく異なり、明るく温かな空気が流れていた。 その事に疑問を抱きつつも中へ中へと突き進めば、メイソンと従者であるイザヤが突然抱き合ったのだ。 それを見たライトは、ある決意をし……?

処理中です...