【R18本編完結&番外編更新中】この雨が上がったら一緒にコーヒーを飲みませんか?

silverchaff

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本編

これからは一緒に……3

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「ぇ……」

 突然の真面目なお願いに朝香は戸惑い

「いきなり何て事言うんだよ俊哉くん!」

 亮輔も驚きを表す声を発する。

「『何て事言うんだよ』とか言うお前が一番に望んでいるんだろ? お前は朝香さんとずっと一緒に居たいって強く思っているんだから!」

 俊哉は頭を下げ続けながら亮輔にピシャリと言い放つ。

「っ……」
「俺は亮輔の兄として、家族として朝香さんにお願いしてるんだよ。俺はお前が本来のお前らしく生きて欲しいと願っているんだからっ……」

 兄として……それから家族として。

 その言葉に亮輔は胸を詰まらせ涙を流す。

「亮輔こそお願いすべきだろう。お前が何を……いや、望んでいるかなんて一目瞭然なんだから」

「……」

 俊哉の強い言葉に小さく頷いた亮輔は、俊哉に頭を上げさせると……

「あーちゃん……ううん、村川朝香さん」

 朝香の前で跪き、真っ直ぐな瞳で彼女を捉え……それから

「俺には村川朝香さんが必要なんです。大好きや愛してるの言葉だけでは言い表せないくらい、貴女の事が大切なんです。貴女のそばにずっとずっと居させてください。
 どうしようもなくて、間違いばかりおかしてる俺だけど……一緒に、俺のそばにずっとずっと居てください」

 熱烈な愛の言葉を朝香に告げた。

「…………私がずっとずっとそばに居たら……あなたは、幸せになれますか?」

 朝香は涙を幾筋も流しながら、恐る恐る質問をする。

 それは朝香にとって一番の願いでもあった。

 何故なら朝香は彼を「向日葵さん」と呼ぶずっとずっと前から彼の身を案じ、幸せを願っていたのだから。

「幸せになれるし、俺も貴女を幸せにしたい!!」

 だから、亮輔の返答に感極まり

「絶対に幸せにするぅ!!」

 彼にガバッと抱きついてしまった。


「ううぅぅ」
「うっ……うわああぁん」


 しばらくわんわんと泣く2人の姿を、数歩離れた位置から俊哉が眺めているのが分かる。
 恐らく呆れているのだろうが、それでも優しく見守ってくれていた。


 2人の気持ちが落ち着いたところで、俊哉が「良かった」と呟き

「そろそろ仕事に戻るよ。申し訳ないね」

 と、明るい声で朝香達に告げる。

「あっ……お忙しい中ありがとうございました」

 元々俊哉は忙しい身。朝香達が泣いていた時間だって惜しいくらいだった筈だ。
 朝香はハッとして俊哉に向き直りペコペコと頭を下げ、亮輔も申し訳なさそうに

「ごめん……色々迷惑かけて」

 と謝ったのだが

「いやいや、いいんだよ。俺は俺のやりたい事をそのまんまやってるだけだから。
 ここの部屋は元々、俺の親父が趣味部屋として使っていてね……俺にとっても思い出の多かった場所でもある。親父が亡くなって、ここは俺がもらう形になったんだけどなんか上手く活用出来なくてどうしようかと悩んでいたんだ。俺じゃ手に負えないからリフォームし直して亮輔にプレゼントしちゃおうって勝手にやっただけ。2人は気にしなくていいからね」

 俊哉は明るい表情のまま2人にそう言い残し、足早に部屋を出て行ってしまった。



「あ…………そうだ、ここ」

 俊哉が居なくなってしばらくした後、亮輔は何かを思い出したように周囲を見渡した。

「えっ? 何か思い出したの?」

 朝香が不思議そうに彼を見上げると

「俊哉くんのお父さんに昔、何かある毎にここに連れて来てくれてたんだよ」

 ……と、思い出話をし始めた。

 それはまだ、亮輔が肉料理も食べる事が出来ていた幼少期の頃。
 血縁上の兄は亮輔が歩けるくらいの月齢になった頃に大きな手術をしたのだそうだ。それをきっかけに回復していったのだそうだが、術後経過を過剰に心配に笠原の両親は兄にかかりきりになっていた。亮輔の世話は家政婦が必要最低限のことをしていたそうだが家族愛は充分ではない。なので見兼ねた上原家が時折様子を見て当時趣味部屋にしていたこの部屋で遊ばせていたのだという。絵も伯父から描き方や色彩の表現方法を学んだらしい。
 俊哉の父……つまり亮輔にとって母方の伯父は上原家へ婿入りしてきた人物だそうで、資産運用や数多の才能に恵まれているだけでなく食への探究心も人一倍あったのだという。伯父の作る料理はどれも絶品でビーフシチューが得意料理だったそうだ。

「そうだ……もしかしたら俺が肉料理食べられなくなったのは笠原の家の事もあるけど伯父さんが亡くなったのも理由にあるかもしれない」

 2人並んで革張りのソファに腰掛けながら話をしている中、亮輔は思い詰めた表情になり

「えっ」

 朝香は心配になって亮輔の手を包む。

「俺に逃げ道が全くなくなったから……」
「そうなんだ……」

 逃げ道がなくなった以降の話は俊哉から聞いた内容と差異はないのだろう。朝香の目にまた涙がじわりと浮かぶ。

「あーちゃんが泣いたらダメだよ、俺の話なんだから」

 亮輔はギュッと朝香を抱き締め、背中を撫でて宥めようとしてくれる。

(一番辛いのはりょーくんなのに)

 すぐに泣いてしまう自分が情けない気持ちでいっぱいになった朝香は彼の背中に腕を回し、彼と同じように優しく撫でて

「この部屋はりょーくんにとって安らぎの場所だったんだね。りょーくんが本来の自分らしく居られる場所。
 その場所を俊哉さんはりょーくんの為に20歳のお誕生日を迎えるまでずっと守ってくれてていたって事なのかな……」

 自分なりに理解した内容を亮輔に話すと

「俊哉くんの性格的にそういう事なんだと思うし……多分伯父さんが亡くなる直前俊哉くんに『後々俺に渡せるように』って事付けたまであるかもしれない。俊哉くんも伯父さんも……上原家の人達はみんな良い人だから。こんな俺を家族にしてくれたくらいだし」

 と、また申し訳なさそうに眉を下げて返事をした。

「りょーくんの周りは優しい人でいっぱいだね」

 亮輔の心がこれ以上苦しくならないように朝香が励ますと

「うん……あーちゃんもすごく優しいし俺は幸せ者だよ」

 ギュウウッと強く抱き締め返され、耳元で「ありがとう」と囁かれてしまった。

「うん♡」


 



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