【R18本編完結&番外編更新中】この雨が上がったら一緒にコーヒーを飲みませんか?

silverchaff

文字の大きさ
128 / 171
番外編

落ち葉降る4

しおりを挟む


「りょーくんってさぁ」
「ん?」
「…………なんでも、ない」

 電車で移動中。
 ベッドの上ではあんなにいやらしい行動をとっていたというのに、今の亮輔は涼しげな表情で朝香の小さな身体を優しく包み込み人混みから守るような体勢をキープしている。

(髪色も髪型も変わったから、変態りょーくんとのギャップが凄いんだよぅ……)

 駅の改札口を通る時から今まで、朝香は密かに感じている。金髪ウェーブの頃よりも黒髪マッシュショートの亮輔の方が他者からの視線を多く浴びている、と……。
 それは彼の後頭部の傷痕が露わになっているのも理由にあるのだろう、ギョッとした表情で斜め上へ目線を向ける者も多いから。

(金髪りょーくんはワイルドさがあって素敵だったけど、今のりょーくんは男性アイドルっぽい見た目になってるから特に……)

 朝香が心配しているのは、女性からの熱い視線だ。イメチェンを図った彼がどんな人物像を参考にして今のヘアスタイルに変えたのかはよく知らないが「今のトレンド」にバッチリ当てはまっているのだからモテない筈がない。

(まぁ、大学だと私と恋人同士なのは周知の事実って感じになっちゃってるから心配はないんだけど)

 入学時より「女を取っ替え引っ替えしている野獣」という噂を広められていた上原亮輔は学内の有名人だ。11月も終わりを迎えようとする現在「野獣」の渾名は取れたが「珈琲屋店員を溺愛している王子」に評価が様変わりし注目され続けている。
 朝香にとって恥ずかしくてたまらないその変化は、逆に亮輔にとってのイメージ向上に繋がったし「溺愛王子の恋を邪魔してはならないだろう」と皆が空気を読んでくれているので非常に有難い状況となっている。キャンパス内ではモテていたとしても横恋慕する者は出てきていないのだ。
 ……が、学外ではそうもいかないだろう。

(私よりも綺麗な女性いっぱい居るんだもん)

 いつ、彼からの熱い視線が薄れてしまうのか……朝香はそこも心配になってしまうのだ。

(かといって、外でも変態りょーくんで居られるのも困るし。気持ちは複雑だよぅ)

 素直な気持ちを彼に伝えたくとも、言語化出来ないくらいに複雑。だから言い淀んでしまったのだ。

 そんな気持ちを抱えたまま首を斜め上に向けて彼の顔を見つめるしかない状況となり、しばらく黙って見つめ続けていた。


 すると

(えっ?!)

 とある駅名がアナウンスされた直後、亮輔の表情がガラリと変わった。

「っ……」

 喉仏をクンと動かし、切ない表情で窓の景色へ視線を向けている。

「ぁ」

 朝香はハッとして振り向き、車窓から見える景色を視界に入れた。

(ここって……)

 上原亮輔がであると知る前までは気が付かなかった。

(この路線、夏のデートでも何回か利用したけど、のは初めてかも)

 朝香の目に映っているのは陸橋と……それから、大きく聳え立つタワーマンション。

「……」

 すぐにそれは駅ホームの影に隠れて見えなくなったが、代わりに亮輔と自分の顔が窓に反射し

(皐月さんが亡くなった場所だ……)

 今この瞬間、亮輔が自分と全く同じ内容を頭に思い浮かべているのだろうと察する。

「りょーくん」

 咄嗟に朝香は顔を向き直し彼の名を呟いたのだが……

 亮輔は無理矢理笑顔を作って朝香の頭を撫でるのみ。

「……」
「…………」

 それ以降、目的地に到着するまで朝香も亮輔も黙っているしかなく

 あれほど観たかった映画にも集中出来ず、ランチの時間も重苦しい空気が流れた。





「ごめん」


 食事を終え、店を出たタイミングで謝りの言葉を発したのは亮輔だった。

「ううん、私も悪いから……」

 すぐにかぶりを振って「亮輔ばかりが悪いわけではない」と態度で示してみせたのだが

「いや……今日のは、本当に……
 俺が悪い。本当にごめん、あーちゃん」

 両目に涙を溜めながら亮輔は謝り続け

「今までは本当に……平気、だったんだ。お姉さんみたいに電車に乗れないほど怖いとか思ったことはなくて。
 でも……金髪やめて、中学生の頃と似た頭になった状態であの陸橋見たらちょっと……色々、思うところがあって」

 両手で顔を覆い、その場にしゃがみ込んでしまった。

「…………」

(そんなの……仕方ないよ)

 亮輔はおそらく「今日のデートを台無しにしてごめん」と言いたいのだろう。けれど、車窓から見えたあの陸橋とタワーマンションの存在が大きく感じてしまい、目の前の彼女に対しストレートな気持ちを言葉に発せないのだ。

「りょーくん」

 今この瞬間恋人である自分を一番大切に出来ていない亮輔の行動を責められないでいる。

(夕紀さんもだから……)

 遠野皐月が転落した陸橋。
 そこは、皐月を愛した人間なら心を囚われてしまう場所であると朝香は理解しているのだから。

(ううん、夕紀さんよりもりょーくんは強い。夕紀さんは陸橋を視界に入れることが未だに出来ないんだもん)

 墓を参って皐月を弔う事は出来ても、となると事情は変わってくる。現実に目を背けてしまいたいのではなく、言い表せない感情によって今まで拒否してしまっていたのだろう。

「…………ねぇ、あーちゃん」

 うずくまってしばらく涙を流していた亮輔であったが、覆っていた手をゆっくりと顔から外し



 頬に流れる涙を拭う間もなく、朝香に懇願した。

「うん」

 反射的に、朝香は頷き了承する。

(ダメ、なんて言えないよ……)

 亮輔は今すぐにでも、あの陸橋と向き合うべきだと……朝香は思ったからであった。

 

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

年齢の差は23歳

蒲公英
恋愛
やたら懐く十八歳。不惑を過ぎたおっさんは、何を思う。 この後、連載で「最後の女」に続きます。

愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました

蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。 そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。 どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。 離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない! 夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー ※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。 ※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜

紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。 連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。

コワモテ軍人な旦那様は彼女にゾッコンなのです~新婚若奥様はいきなり大ピンチ~

二階堂まや♡電書「騎士団長との~」発売中
恋愛
政治家の令嬢イリーナは社交界の《白薔薇》と称される程の美貌を持ち、不自由無く華やかな生活を送っていた。 彼女は王立陸軍大尉ディートハルトに一目惚れするものの、国内で政治家と軍人は長年対立していた。加えて軍人は質実剛健を良しとしており、彼女の趣味嗜好とはまるで正反対であった。 そのためイリーナは華やかな生活を手放すことを決め、ディートハルトと無事に夫婦として結ばれる。 幸せな結婚生活を謳歌していたものの、ある日彼女は兄と弟から夜会に参加して欲しいと頼まれる。 そして夜会終了後、ディートハルトに華美な装いをしているところを見られてしまって……?

エリート課長の脳内は想像の斜め上をいっていた

ピロ子
恋愛
飲み会に参加した後、酔い潰れていた私を押し倒していたのは社内の女子社員が憧れるエリート課長でした。 普段は冷静沈着な課長の脳内は、私には斜め上過ぎて理解不能です。 ※課長の脳内は変態です。 なとみさん主催、「#足フェチ祭り」参加作品です。完結しました。

優しい紳士はもう牙を隠さない

なかな悠桃
恋愛
密かに想いを寄せていた同僚の先輩にある出来事がきっかけで襲われてしまうヒロインの話です。

暴君幼なじみは逃がしてくれない~囚われ愛は深く濃く

なかな悠桃
恋愛
暴君な溺愛幼なじみに振り回される女の子のお話。 ※誤字脱字はご了承くださいm(__)m

処理中です...