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彼の仮面

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「すごく広いんじゃね、ここ……」

 りゅーさんに連れて来ててもらった場所は、前回よりももっと大人な雰囲気のあるダーツバーだった。

「そうだよ。この店は前のところよりもカクテルの種類が多くてオススメなんよ。勿論お料理も美味しいけぇ料理得意のアサちゃんも参考になるかもしれんね」
「そんな……料理得意だなんて褒めすぎよぉ」
「ゆーきさんから聞いとるんじゃけどねぇ」
「夕紀さんの方が上手じゃけぇ、うちなんて夕紀さんに比べたらまだまだって感じよ」

 ダーツもあるし、連休中だからか店内は賑わっていて席もほとんど埋まっていた。

「個室の予約してるけぇ、僕らはこっちの奥の方ね♪」

 りゅーさんは私の手を繋いだまま奥へと連れられていく。

「ダーツバーに個室なんてあるんじゃね」
「ここはそれが特徴かなぁ。会員制でね、VIPってヤツ」
「びっぷ……?」

 店員さんに案内されながら、りゅーさんの口から「この店のVIP客である事」を初めて知らされた。

(常連……なんだろうな)

 りゅーさんはダーツが得意だから、すぐにその説明を飲み込んだんだけど……でも何故か、ほんの少しの違和感を持った。

「混んでいたのに奥の個室が空いとって良かったね」

 ふかふかの大きなソファに腰掛けて私はりゅーさんを見上げると

「ほんと……この店の会員になって良かったよ」

 りゅーさんはそう言い、綺麗でスラリとした指で私の鎖骨をスッと撫でた。

「アサちゃんって……デコルテ綺麗よね♪」
「へ?」
「こういう……服装からチラ見えするからこそ、グッとくるというか。
 僕、そういうアサちゃんがずっと好きだったんよね」
「おぼこい……?」

 りゅーさんの言葉の節々に違和感があるものの、鎖骨を撫でられたくすぐったさで頭の中がまたふわふわホワホワとする。

「綺麗だよ、アサちゃん」

 それに、ニッコリ笑うりゅーさんの顔がとにかく眩しい。

「ありがとう♡」

(イケメンで素敵なりゅーさんに「綺麗」を連呼されたら私おかしくなっちゃうよ……)

 りゅーさんは私の隣に座るものの肌に触れるのは一旦止めてメニューに目を通しだした。

「お腹空いたよね。今夜は僕が奢るからいっぱい食べて飲んで過ごそうね♪」
「う、うん……」

(良かった……あのまま鎖骨を撫で撫でされちゃったら、ドキドキしたまま個室でりゅーさんとずーっと過ごさなきゃいけないから。
 りゅーさんは「友達」だもん。普通にしておかないとね!)

 ふわふわホワホワした頭を切り替えなければ!と、私はりゅーさんとの関係性を再認識してドキドキを落ち着かせる努力をする。

「カクテルとか飲む? アサちゃんは苦手な食べ物ある?」

 メニューから目をこちらに移したりゅーさんは、ニコニコした微笑みで私に確認してくれた。

「カクテルは全然分からないからりゅーさんのオススメがいいな」
「ホント? アルコール強めでも平気?」
「平気平気! 彼と喧嘩してるイライラもあって、ここのところストロング系のチューハイをいっぱい飲んでるから!」

 ストロング系チューハイを沢山飲むだなんて、ちょっと恥ずかしいエピソードかな?と喋った直後に後悔したんだけど

「ストロング系かぁ~それは良い事聞いた!かっこいいねアサちゃん♪」

 りゅーさんは気にせずメニューを楽しげに見つめている。

「あっ! ちなみに苦手な食べ物はないけぇね! クセが強すぎなければ大体平気だよ!」
「ふふ♪ほいじゃったらエスニック系はやめとく♪」

 ところどころりゅーさんが変だなって思ったりもしたんだけど、そこはあまり気にしちゃいけないかな?って思う事にした。

「じゃあ料理はエスニック以外で適当に頼むね。アサちゃんの一杯目はこの『ホワイト・ルシアン』にしてみよっか?」

 りゅーさんはメニュー表のカクテル一覧のページを私に向けながら提案してくれる。

「ホワイトルシアン?」
「そう、コーヒーリキュールと生クリームを使ったカクテルだよ。大人のアイスコーヒーって感じで飲めちゃうヤツ」
「大人のアイスコーヒーかぁ……」

 りゅーさんの説明を聞いて、即座に「カルーア・ミルク」を思い浮かべた。

(カルーア・ミルクの牛乳を生クリームに替えた感じかな? それなら飲みやすくてクイクイいけちゃいそう♪)

 私はカクテルレシピをざっくりとそう解釈した。
 アレンジコーヒーを学ぶものとしては、この時点でちゃんとスマホで検索してアルコール度数や使うお酒の種類を確認した方がいい。

(でもりゅーさんがオススメするカクテルだし、アルコール度数が高過ぎるなんて事もないだろうし信用してみようかな)

「じゃあ、その『ホワイト・ルシアン』で♪」

 私はそれ以上何も考えずにりゅーさんのオススメのままそのカクテルをお願いした。

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