浮気された妻は死んでも夫に復讐する

畔本グラヤノン

文字の大きさ
7 / 12

捜索

 
 ――姑が事故にあった。
 電話を切った私はすぐに姑の部屋へ向かう。

 頭は妙に冷えていて、胸の鼓動だけが騒々しい。
 
 ……もし、事故にあった姑が介護を必要とする状態になっていたら?
 舅の時のように、無理やりその担当を押し付けられてしまったら?

 そうなる前にスマホと財布を取り返して、今度こそ逃げなくてはならない。


 年季の入ったドアノブをくるりと回せば、その先はフローリングの洋室になっていた。
 このお屋敷は畳を敷いた和室が多い。舅の部屋も和室で、介護用ベッドが畳の上に置いてあった。だから私は勝手にここもそうだと思い込んでいたのだが、こんなに雰囲気の違う部屋だったとは。
 猫足の家具、豪華なシャンデリア、ペルシャ絨毯。調度品も西洋風に統一されている。

 この部屋で隠し物をするとしたら……。

 ベッドの奥にある本棚が気になる。
 並んでいる辞書の外箱の中、というのは定番すぎるだろうか。

 辞書の部分をまとめて引き出したところ、外箱のひとつにサイズの合わない小さめの本が入っていた。
 古い日記帳のようだ。
 適当に開いたページには『今日はあの議員のパーティーが』『お父様がまた町長になった』などのどうでもいい内容が並んでいる。しかも飽きたらしく、日記帳の中ほどから先は白紙のままだった。

 しかし、パラリとめくれた最後のページには不気味な文字が躍っていた。

『本当に腹が立つ あの男 偉そうにしやがって こんな腐った村 全員死ねばいい』

 驚くほど乱れた字で書きなぐってある。

 あの高慢な姑も私と似たような思いをしていたのかもしれない。そう考えるとほんの少しだけ胸のモヤモヤが晴れたような気がした。

 日記帳を元に戻した時、棚にうっすらとホコリが付いているのが見えた。でも一番下の段の一部にだけホコリがない。
 これは……最近ここで何か・・を動かしたのではないか。

 下の段には客用の茶菓子として購入している銘菓の空き箱が置いてあった。開けると大きく「すてる」と書かれた紙の包みが入っている。

 その包みの中から、私の薄汚れた財布とスマホが出てきた。

 モヤモヤした気分が一気に大きく膨れ上がる。
 どういうつもりで他人の物に「すてる」などと書いているのか。

「でも……見つかって良かった」

 怒りと喜びが入り混じる中、涙が自然にこぼれ落ちていった。


 ◇〇△


 意外にも財布の中身は無事だった。
 タクシーを呼んで町の病院へ向かったが、事故のあった道が通れなかったこともあって、着いた頃にはすでに日が暮れかけていた。

「すみません、遅くなりました」

 受付へ駆け込むと、姑は病室ではなく霊安室にいると案内を受けた。私はちゃんと驚いた表情ができていただろうか。

 地下の霊安室には若い男性がひとり待機していて、挨拶の後、事故の簡単な説明をしてくれた。

 電話では伏せられていたが、姑はタクシーの運転手と共に即死状態だったらしい。見通しの悪い峠のカーブで車ごと転落したということだった。運転手の操作ミスか車の不具合かはまだ特定されていない。詳しく調べてから遺体を返すので葬儀等はその後になるそうだ。

 姑は白い布で顔を覆われ、霊安室には線香のにおいが立ち込めていた。布を取って姑の顔を見る気にはなれなかった。

 舅の時は動転していたけれど、今はゆっくりと姑のことを考えることができる。
 彼女が純和風のお屋敷に洋室を作ったのは、本当はあの家が嫌いだったからではないのか。忙しいと言って舅の介護をしなかったのは、舅に対するわだかまりがあったからではないのか。

 そのしわ寄せで夫の前妻は死んで、私もひどい目に遭わされたのだけど――


 バタバタと忙しない足音が廊下に響き、霊安室のドアが乱暴に開かれる。

「おふくろ……!」

 現れたのは一週間前に会ったばかりの夫だった。
感想 1

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

【完結】陛下、花園のために私と離縁なさるのですね?

ファンタジー
ルスダン王国の王、ギルバートは今日も執務を妻である王妃に押し付け後宮へと足繁く通う。ご自慢の後宮には3人の側室がいてギルバートは美しくて愛らしい彼女たちにのめり込んでいった。 世継ぎとなる子供たちも生まれ、あとは彼女たちと後宮でのんびり過ごそう。だがある日うるさい妻は後宮を取り壊すと言い出した。ならばいっそ、お前がいなくなれば……。 ざまぁ必須、微ファンタジーです。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

6年前の私へ~その6年は無駄になる~

夏見颯一
恋愛
モルディス侯爵家に嫁いだウィニアは帰ってこない夫・フォレートを待っていた。6年も経ってからようやく帰ってきたフォレートは、妻と子供を連れていた。 テンプレものです。テンプレから脱却はしておりません。