縛り勇者の異世界無双 ~腕一本縛りからはじまる異世界攻略~

延野 正行

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第1章

第18話 刺身と焼きと煮魚(前編)

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「ただいま」

 玄関のドアを開ける。
 俺の声が家に響いた。
 すると、奥の方からひょこりと顔が覗く。
 ルーナだ。
 俺の姿を認めると、部屋から飛び出してきた。

 たたたたたっ!

 廊下を走ってくる。
 何も言わず、ただ黙って俺の服にしがみついていた。
 小さな肩が震えている。
 ズボンが濡れていくのがわかった。

 泣いているのだ。

 この小さな身体で、俺を失うかもしれない恐怖に耐えていたんだろう。
 そう考えると、俺もうるっと来た。

 俺はルーナを抱きしめる。
 安心させるように、明るい声でもう1度言った。

「ただいま、ルーナ」

 すると、ルーナはようやく口を開く。

「おかえりなさい、リックお兄ちゃん」

 ようやく顔を上げる。
 やっぱり泣き虫のルーナは泣いていた。
 俺は逆に精いっぱいの笑顔を向ける。
 わしゃわしゃとルーナの頭を撫でた。
 気持ちがいい。
 何か安心できた。

「悪い魔物はやっつけてきたから、安心して」

「ホント? 怪我はない? お兄ちゃん」

「大丈夫。俺が強いのは知ってるだろ」

 俺は拳を差し出す。
 すると、ルーナも小さな拳を掲げる。
 小さな音を立てて、2つはこつりと打ち合った。

「うん」

 ようやく笑顔が灯る。

 すると……。

 きゅるるるるるる……。

 小さな腹の音が鳴った。
 俺じゃない。
 ルーナでもなかった。

 俺たちは同時に振り返る。

 廊下の奥で、ティレルが立っていた。
 お腹を隠している。
 耳まで真っ赤だ。

「えっと……。これは……」

 ティレルはしどろもどろになりながら、弁解する。
 俺とルーナは顔を見合わせ、笑った。

 ぐごごごごご……。
 きゅぅぅぅう……。

 腹音が玄関で鳴り響く。
 今度は、俺とルーナである。

「もしかして、ルーナもティレルもご飯を食べてないのか?」

「リックお兄ちゃんが帰ってくるまでまってた」

「ティレルも……」

「はい。その……願掛けと申しましょうか……」

 ティレルは少し困った顔で返答する。

 2人とも……。
 やばっ! マジで泣きそうだ。

「わかった。一緒に食べよう」

「はい。すでにご用意してますので」

「あー、あとさ。ティレル、ちょっと言いにくいんだけど……」

「…………?」

「あと、2人いいかな?」

「2人?」

 ティレルは首を傾げる。

「お邪魔するよ」

「すまん。邪魔するぜ」

 俺の後ろから大きな人影が現れた。
 赤狼族と、禿頭の男である。

 ウォルナーさんと、デレクーリさんだ。

 実は、王都に無事に帰ってきたのはいいが、時間は深夜。
 ほとんどの店が、閉店時間を迎えていた。
 唯一開いていたバーも、あっという間に冒険者に埋め尽くされてしまった。

 お腹も空いたのに、飯を食べる場所もない。
 そこで、俺は世話になった2人を、家に招待したというわけだ。

「というわけなんだけど……。いいかな、ティレル」

 俺は苦笑いを浮かべる。
 ティレルは1度、瞼を閉じた。
 もしかして怒ってる?
 そう思ったが、直後ティレルは笑った。

「ふふふ……。こんなこともあろうかと、たくさんご飯は用意してますよ」

 俺は、ウォルナーさんとデレクーリさんを伴って食堂へ行く。

 テーブルの上に、でんっ! と俺の背丈ぐらいの魚が載っていた。

「うぉおぉおぉおぉおぉおぉお!! こりゃ、ドラゴンフィッシュじゃねぇか!」

 それは魔物ではなく、歴とした魚類らしい。
 ドラゴンぐらい大きいということで、その名前がついたそうだ。

 それが三枚に下ろされている。
 一部は刺身、一部は焼き、一部は煮付け。
 めちゃくちゃ良い匂いが、食堂に漂っていた。

「やるじゃないか。嬢ちゃん」

 珍しくウォルナーさんが誉める。

 ティレルは横にいたルーナを引き寄せ、肩を抱いた。

「大変でしたけど、ルーナちゃんが手伝ってくれましたから」

「ルーナが?」

「うん! ルーナがんばった!」

 おー、という感じで両手を上げる。
 俺は「エラいぞ」と頭を撫でた。

「お、おい! 早く食べようぜ、兄ちゃん」

「デレクーリ、がっつくんじゃないよ」

 ウォルナーさんは、禿頭を叩いた。
 それでも、デレクーリさんには、ドラゴンフィッシュしか見えていないらしい。
 すでに箸と取り皿を持って構えている。

「でも、こんな大きな魚……。高かったんじゃないの?」

「はい。奮発しました。……でも、ご主人様がみんなを守るために戦ってるっていったら、値引きをしてくれて。最終的には5割引きになりました」

「5割も!?」

「はい。……少しずつですが、ご主人様を認める人が多くなってるんだと思います」

 そうか。
 最初は、「外れ勇者」とか散々言われてきたんだけど。
 少しずつだが、運が向いてきたのかな。

「よし。みんなでいただこう!」


「「「「「いただきます!」」」」」


 手を合わせた。


(※ 後編へ続く)
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