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お兄ちゃんとお出かけです。
しおりを挟む目覚ましが鳴る直前に目が覚め、起き上がる。
顔を洗い、タオルを取ろうとするが、いつも掛けてある場所に見当たらない。
「はい、セシリー、タオルはここだよぉ。」
「ありがとー。」
「どういたしましてぇ。」
受け取ったタオルで顔を拭いていると、あれ、と思う。
「……なんでノア団長がここにいるんですか。」
「もぉ、今は仕事中じゃないんだから、お兄ちゃん、って呼んでよぉ。」
「はいはい。」
「あー!もぉ、適当にしないでよぉ。」
ぶうぶう言っている兄を無視し、仕事着に着替えようとクローゼットを開ける。
「あ、セシリー。今日はお休み取ったからぁ、魔術師の服じゃなくて、おめかし、しよっかぁ。」
「……え?」
「さぁさぁ!これに着替えてぇ。」
「あっ!ちょっと!お兄ちゃん⁉︎」
「ふふっ、かわいー!かわいいよぉ、セシリー」
化粧しなくても可愛くて綺麗だけどぉ、たまにはねぇ、と言う兄は、毎回毎回、飽きないのだろうかと思う。
たまにひどく怖い時もあるが、今はその姿が思いつかないほど、嬉々として私に化粧を施している。
「はーい!完成でぇす!」
「おぉ…!」
部屋にある鏡に映った自分を見て、相変わらず兄の技術はすごいな、とただ驚く。
そこに映っている私は、完璧に化粧を施されており、髪はハーフアップで、花柄の髪飾りをつけている。
着ているドレスは、髪より濃い色をした桃色で、ハイネックなその部分はレース地となっている。裾部分には金の刺繍が施されおり、耳にはお揃いのピアスが付いている。
足元は、少し高さのあるピンクベージュの靴を履いている。
兄は、薄グレーのシャツに、薄桃色のベスト。白のパンツにグレーのショートブーツである。
ちなみに、言わずもがな、髪がかけられ良く見える左耳には、私と同じ、色違いのピアスが光っている。
「よしっ、じゃあ、早速行きましょうか、お姫様。」
そう言って、片手を差し出す兄に、思わず笑ってしまう。
差し出された手に、自分の手を重ねれば、ふふっ、デートだねぇ、と微笑まれた。
馬車に乗り、街に出る。
朝も食べずに出てきた私達は、近くのお店に入る。
「このサンドウィッチのBセットとぉ、コーヒー。セシリーはぁ?」
「私はサンドウィッチのCセットとオレンジジュースでお願いします。」
かしこまりました、席までお持ちしますね。と笑顔で言う店員さんに、はい、と言って窓際の席に座った。
数分して出てきた朝食を食べ、店を出る。
先ほどまで疎らだった人は、店を出る頃にはいつもの活気ある街になっていた。
「んー…この服も可愛いけどぉ、これもセシリーに似合いそうだねぇ…。あ、これも……。」
「お悩みですか?彼女さん、美人ですからね。…こちらなんてどうでしょう?」
「あ、いや、私は…。」
「本当だぁ!それもいいねぇ!うん、全部買おうかぁ。」
「いやいや、お兄ちゃん!そんなにあっても着ないから!」
えぇー!そんなぁ!、という兄を無視し、服を見る。
街で一番人気のこの服屋は、本当に沢山あって見ているだけでも楽しい。
「ねぇ、セシリー、これはぁ?」
「あっ、かわいい!」
「ね!…お姉さーん!これくださーい!」
私のドレスを3着と兄の服を2着、購入した。
「あ、あそこ行きたい。」
「うん?どこぉ?…あ、ピアスショップだねぇ、行こうかぁ。」
店に入れば、いらっしゃいませ。と男性店員の声が聞こえる。
落ち着いた雰囲気のその店は、以前、私達がつけているピアスを買った場所だ。
一つ一つが手作りで、同じ物はこの世に二つと無い。
「久しぶりに来たねぇ。」
「2年半ぶりかな?」
「そうだねぇ。もうそんな経つんだねぇ。」
セシリーの卒業式の日に来たもんねぇ、と兄は懐かしむように私を見る。
お互いの髪色をしたリングピアスがキラリと光った。
「…これにしようかな。」
十数分ほどピアスを眺めていた時、花の細工がされたリングピアスを見つける。
「あ、本当だぁ、綺麗だねぇ。」
星型の花を象ったその細工は、私の名前に似ている。
店員さんを呼び、色が特注できるか確認する。
ひと月ほどいただければできますよ、との返事に、じゃあ白銀と薄桃色で一つずつお願いします、と注文した。
店を出ると、兄がふふっ、と笑う。
何?と隣の顔を見上げれば、えー?ふふっ、僕は幸せ者だなぁって思って、と笑っていた。
その後、アクセサリーショップで髪飾りを買ったり、私がトイレに行っている間に兄が逆ナンされていたり、逆に私がナンパされて兄が笑顔でキレたり、カフェに行ったり。
行く先々で、素敵な恋人同士ですね、と微笑む店員さんに、違います、と訂正するのが大変だったこと以外は、とても楽しい一日だった。
____________________
「あら?兄妹でお出かけだったの?おかえりなさい。」
「あっ!アリア副団長!お疲れ様です!これ、お土産です!」
「ありがとー!え⁉︎これ、最近噂になってるケーキ!よく買えたわね!」
「ふっふーんっ。兄の力で買ってきました!」
「さすが!でかした、セシリア!これからもその力、存分に使ってらっしゃい!」
「……最近ー、アリア副団長ぉ、セシリアに似てきてませーん?」
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