魔術師の少女が仕事にも恋愛にも全力でぶつかっていくお話。

imu

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「今日は、宿に泊まるか。」


遠征の帰り、日が暮れた中森を抜け帰るのは危険だろうと言うことで、アレクサンダー団長がそう言った。

今回は、第4騎士団の殆どの団長・副団長が揃っての遠征だったとは言え、人数は18名の編成で8日間ほどぶっ続けでの討伐は皆疲労が隠しきれていない。

今日もテント泊だろうかと思っていた所に、アレクサンダー団長の言葉は本当にありがたく、皆、瞳を輝かせたのである。

遠征先から軍馬で走って50分程で着いたその町で泊まれる宿があるかを確認する。

この町に三つあると言う宿にバラバラに泊まることにはなったが、全員が泊まることができるようだ。



「セシリアー、行くよー。」

「あ、待ってください!アリア副団長!」

私とアリア副団長、それに同じ魔術師の女性2人と一緒に宿に入る。

取り敢えず汗を流し、新しい魔術師の軍服に着替える。

遠征先ではいつ、何が起こるか分からないから、基本的に軍服での生活なのである。

久しぶりのシャワーと着替えにスッキリし、浴室を出る。

先にシャワーを済ませていたアリア副団長が、夕ご飯は外に食べに行くよ。と言った。

いきなり、しかも夕方遅くの時間帯だった為、宿でご飯の準備ができないらしい。

他の二人も私より先に聞いていたのか、宿の入り口で私達が来るのを待っていてくれた。

遅れました、すみません。と声をかければ、いいよいいよ、じゃあ行こうか。と先を歩いた。

二人の後を追いながら町を見れば、夜特有の活気に満ちていた。




カランカラン

二人が見つけた場所は、村の人々にも人気があるのだろう、賑わっている場所だった。

人は多いが見た目よりも広い店内は、カウンター席とテーブル席に分かれている。
運良く席が空いており、4人掛けのテーブルに案内された。

ここではお酒も出されているのか、ビールや綺麗な色をしたお酒を持っている人を見かける。

この王国では16歳から飲酒を許可されているが、以前お酒を飲んだ時に、私はなにかをやらかしてしまったらしい。
ノア団長とアリア副団長に、もう飲むな、と厳しく言われてしまった。

まぁ、僕は飲んでも良いと思ってはいるんだけどぉ…、と言うノア団長は、アリア副団長に怒られていたのには、自分が原因とは言え笑ってしまった。

「セシリアはどれにする?」

「えっと…私は……。」

メニューを見れば、結構たくさんあるようだ。

私が昔のことを思い出している間に、皆、食べるものを決めてしまったらしい。

果物を使ったサラダにポタージュ、町で採れたという季節の野菜を使ったキッシュを頼んだ。



「おっ!お前達もここに来ていたのか!」

食事を取っていると、店にオギンスキ団長が入ってきた。

アリア副団長がお一人ですか?と聞くと、いや、アレク達と約束していてな、と奥に視線を向ける。

その視線を辿れば、アレクサンダー団長に、ノア団長、他数名の魔剣士・剣士の者に、なんとシャロン様までいた。

入り口近くにいた私達は、奥の席にいる彼等に気付かなかった。

シャロン様!と席を立ち声を上げれば、こちらに気付いた彼等が手を振ってくれた。

じゃあ、俺は向こうに行くな。と言うオギンスキ団長に私も行きたい!と言えば、ははっ、それを食べ終わったら来い、と言われる。
わかりました!と元気に返事をすれば、頭を撫でられた。




「……もう、お腹に入らない…。」

残り3分の1となったキッシュを、フォークで突きながら言えば、隣から、それ食べないとシャロン副団長の所に行けないわよ、と脅される。

じゃあたべてください。と言えば、じゃあこの肉食べる?とステーキ肉を差し出してくる。

ウプッ、と口を押さえれば、あははっと笑われた。


私がキッシュに苦戦している中、店内はお酒が回った人々で陽気な雰囲気となっている。

「はぁ…シャロン様に会いたい。」

キッシュを突きながら、願望を口にすれば、呼んだか、セシリア。と声が聞こえた気がした。

ついに私の妄想はここまで来たか。…あ、すでに来てたんだった。と自分の頭を心配していたら、ねぇ、無視しないで?セシリア。とフォークを持っている手を掴まれた。

驚いて手を掴んだ人物を見れば、そこには、私が望む人物が視線を合わせて背をかがめている姿だった。


「しゃ、シャロン様⁉︎」

「なに?セシリア?」

「あ、あの…!これは一体…!」

どう言う状況なのでしょうか…と問えば、ん?そんなことより、ほら、あーん。と言われ、先ほどまで突かれていたキッシュを口元に運ばれる。

反射的に口を開ければ、冷めてしまったキッシュが口に入ってきた。

「おいしい?」

「んっ、…はい。」

「ふふっ、良かった。」

そう綺麗な笑みを向けられ、赤くなっていた顔が、さらに真っ赤になるのがわかった。

「あ、あの、シャロン様…。私、もうお腹いっぱいで…。」

私の隣に座っているシャロン様からの珍しい行動が惜しいとは言え、私の胃はすでに限界を迎えている。

フォークに新しくキッシュを取るシャロン様にそう告げれば、シャロン様はフォークを置き、下を向いた。
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