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第62話 果奈のスペシャル
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――チンッ。
トーストが焼けたことを知らせる音がキッチンから聞こえてきた。
果奈が全員分の朝食を作ってくれるらしいので、俺たちはダイニングテーブルで料理が出来るのをまっている。
時間はもう正午になろうとしているので昼飯だとは思うけれど、妹が言うには朝食として考えたメニューらしく、昼に食べても昼飯にはならないらしい。
正直、ちょっと意味がわからない。
俺の隣に座る仲里さんは相当お腹が空いているのか、ずっと落ち着かない感じで、キッチンへ近づこうとするたび果奈に注意を受けている。
まるで果奈の方がお姉さんのようだ。
仲里さんと真宮さんがもとの身体に戻ったことにより、二人の見た目と行動にまだ違和感を感じるけれど、果奈は気がついてないみたい? どんだけ鈍感なんだろう……。
「ねね、春時。スペシャルなメニューらしいよ! どんな料理が出てくるんだろうね」
どんなと言われても俺は期待していないので答えに困る。
果奈はなんにでもスペシャルをつけるだけだし……以前だってインスタントラーメンに炒り卵が載っているだけだったからなぁ。
しかも焦げていた。
「うーん……トーストが焼けたみたいだし普通にパンだろ?」
「なにそのつまらない言い方。お楽しみって言われているんだから、パンだけなわけないじゃない。真宮さんだって、そう思うよね! ね!」
「え? えぇ……そうですね」
俺の向かいに座る真宮さんの答えを聞いた仲里さんは、その返事に満足そうに繰り返し頷く。
なんだか仲里さんの熱量に圧倒されて無理矢理、言わされているような感じだ。
それにしても今の真宮さんは、気のせいか仲里さんの中へ入っていたときよりも大人しくなっているように感じる。
見た目のせい? 仲里さんでいたときに比べて今の方が地味な感じを受けてしまう。
そんな彼女を見つめていたら俺の視線に気がついたのか、目を逸らされてしまった。
うーん、なんだか話しかけにくい。
仲里さんはいやでもガンガンくるから自然と話せるんだけど……。
「みなさん、おまたせしましたぁ! 果奈のスペシャルトーストが出来たよぉ!」
果奈は大きなトレイを手にキッチンから出てくると、トーストが載った皿をテーブルに並べた。
目の前に置かれたそのトーストには見覚えのある焦げた炒り卵が隙間なく載せられている。
予想はしていたがやっぱり炒り卵バージョンだったか……これからはスペシャル=炒り卵という認識で間違いなさそうだ。
「わぁ! 果奈ちゃんの炒り卵だ! あたし大好き!」
仲里さんはどこから出したのか、ごま塩をトーストに振りかけ『いただきまーす』と声をあげると一番にかぶりついた。
「おいちぃいいいっ! ねね! 春時のもかけてあげるね」
「おわっ!」
返事をする間もなく俺のトーストへごま塩がかけられる。
しかも盛り塩のような山になっていて明らかにかけすぎだ。
「食べてみて! ほら、早く!」
「わかった、わかった」
仕方がない……。
いただきますの言葉のあとにかぶりつくと、食パンと卵の甘みの中に塩みがきいて思ったより悪くはない。
失敗と思われる卵の焦げた部分も食感のアクセントになっている。
まぁ、ごま塩はかけすぎだとは思うけれど。
「どう? 美味しいでしょ?」
「う、うん。悪くないかな」
「仲里さん、果奈もごま塩ほしいです!」
「いいよ! はい、どうぞ」
果奈の差し出したトーストに仲里さんがごま塩をふりかける。
サッサッという音が耳に心地よい。
「ん?」
「春時どうしたの?」
「いや、果奈や仲里さんのごま塩をかける量にくらべて俺のは多過ぎじゃないかなって」
「それは手が……じゃなくて春時のはスペシャルバージョンだから」
「ふ、ふーん」
「なによ。文句でもあるの?」
「い、いえ……」
実はただ手が滑っただけなのでは……。
「あ、あの……」
果奈がむしゃむしゃとトーストを頬張っている横で真宮さんが小声で小さく手をあげた。
「あっ! マミマミもごま塩ほしい?」
マミマミってなんだ……まぁ、真宮さんにあだ名をつけたんだろうけど、唐突だなぁ。
仲里さんの言葉に小さく頷く真宮さんはトーストを差し出した。
「はいっ! あれ?」
「ん?」
「ご、ごめん、マミマミ。ごま塩、もう無くなっちゃったみたい……」
明らかに俺のトーストにかけ過ぎたからだろう。
分けてあげたいところだけど、もう食べ終わりそうなのでそれは出来ない。
うーん、気のせいか真宮さんの表情が落ち込んでいるようにみえる。
まぁ、ショックだよな……食べ物の恨みはなんとかって言うし、こ、これはどうしたものか。
「あ、あの、真宮さん。果奈の一口、食べますか?」
妹よ……歯形のついたトーストを差し出すのはやめなさい。
「う、ううん、大丈夫。ありがとう果奈ちゃん」
言うと真宮さんは、そのままトーストをもぐもぐと食べ始めた。
場の空気が……お、重い……。
「あ、そうだ! 春時、醤油ある? 醤油も合うかも! ねね、マミマミ醤油かけよ!」
「い、いえ……」
「そんなこといわないで、絶対に合うと思うよ! 果奈ちゃんもそう思うでしょ?」
「は、はい! 絶対に合います!」
「春時! 醤油もってきて!」
「え。あ、あぁ……ちょっとまっていて」
「結構ですっ!」
醤油を取りにキッチンへ向かおうと立ち上がった瞬間、真宮さんは突然、声を上げて立ち上がった。
「えっと……醤油いらないよな……」
「ごちそうさまでした……」
真宮さんは俯いたまま、一言いうと部屋から出て行ってしまう。
階段を上がる音が聞こえてくる。
テーブルの上には食べかけのトーストが残ったままになっていた……。
トーストが焼けたことを知らせる音がキッチンから聞こえてきた。
果奈が全員分の朝食を作ってくれるらしいので、俺たちはダイニングテーブルで料理が出来るのをまっている。
時間はもう正午になろうとしているので昼飯だとは思うけれど、妹が言うには朝食として考えたメニューらしく、昼に食べても昼飯にはならないらしい。
正直、ちょっと意味がわからない。
俺の隣に座る仲里さんは相当お腹が空いているのか、ずっと落ち着かない感じで、キッチンへ近づこうとするたび果奈に注意を受けている。
まるで果奈の方がお姉さんのようだ。
仲里さんと真宮さんがもとの身体に戻ったことにより、二人の見た目と行動にまだ違和感を感じるけれど、果奈は気がついてないみたい? どんだけ鈍感なんだろう……。
「ねね、春時。スペシャルなメニューらしいよ! どんな料理が出てくるんだろうね」
どんなと言われても俺は期待していないので答えに困る。
果奈はなんにでもスペシャルをつけるだけだし……以前だってインスタントラーメンに炒り卵が載っているだけだったからなぁ。
しかも焦げていた。
「うーん……トーストが焼けたみたいだし普通にパンだろ?」
「なにそのつまらない言い方。お楽しみって言われているんだから、パンだけなわけないじゃない。真宮さんだって、そう思うよね! ね!」
「え? えぇ……そうですね」
俺の向かいに座る真宮さんの答えを聞いた仲里さんは、その返事に満足そうに繰り返し頷く。
なんだか仲里さんの熱量に圧倒されて無理矢理、言わされているような感じだ。
それにしても今の真宮さんは、気のせいか仲里さんの中へ入っていたときよりも大人しくなっているように感じる。
見た目のせい? 仲里さんでいたときに比べて今の方が地味な感じを受けてしまう。
そんな彼女を見つめていたら俺の視線に気がついたのか、目を逸らされてしまった。
うーん、なんだか話しかけにくい。
仲里さんはいやでもガンガンくるから自然と話せるんだけど……。
「みなさん、おまたせしましたぁ! 果奈のスペシャルトーストが出来たよぉ!」
果奈は大きなトレイを手にキッチンから出てくると、トーストが載った皿をテーブルに並べた。
目の前に置かれたそのトーストには見覚えのある焦げた炒り卵が隙間なく載せられている。
予想はしていたがやっぱり炒り卵バージョンだったか……これからはスペシャル=炒り卵という認識で間違いなさそうだ。
「わぁ! 果奈ちゃんの炒り卵だ! あたし大好き!」
仲里さんはどこから出したのか、ごま塩をトーストに振りかけ『いただきまーす』と声をあげると一番にかぶりついた。
「おいちぃいいいっ! ねね! 春時のもかけてあげるね」
「おわっ!」
返事をする間もなく俺のトーストへごま塩がかけられる。
しかも盛り塩のような山になっていて明らかにかけすぎだ。
「食べてみて! ほら、早く!」
「わかった、わかった」
仕方がない……。
いただきますの言葉のあとにかぶりつくと、食パンと卵の甘みの中に塩みがきいて思ったより悪くはない。
失敗と思われる卵の焦げた部分も食感のアクセントになっている。
まぁ、ごま塩はかけすぎだとは思うけれど。
「どう? 美味しいでしょ?」
「う、うん。悪くないかな」
「仲里さん、果奈もごま塩ほしいです!」
「いいよ! はい、どうぞ」
果奈の差し出したトーストに仲里さんがごま塩をふりかける。
サッサッという音が耳に心地よい。
「ん?」
「春時どうしたの?」
「いや、果奈や仲里さんのごま塩をかける量にくらべて俺のは多過ぎじゃないかなって」
「それは手が……じゃなくて春時のはスペシャルバージョンだから」
「ふ、ふーん」
「なによ。文句でもあるの?」
「い、いえ……」
実はただ手が滑っただけなのでは……。
「あ、あの……」
果奈がむしゃむしゃとトーストを頬張っている横で真宮さんが小声で小さく手をあげた。
「あっ! マミマミもごま塩ほしい?」
マミマミってなんだ……まぁ、真宮さんにあだ名をつけたんだろうけど、唐突だなぁ。
仲里さんの言葉に小さく頷く真宮さんはトーストを差し出した。
「はいっ! あれ?」
「ん?」
「ご、ごめん、マミマミ。ごま塩、もう無くなっちゃったみたい……」
明らかに俺のトーストにかけ過ぎたからだろう。
分けてあげたいところだけど、もう食べ終わりそうなのでそれは出来ない。
うーん、気のせいか真宮さんの表情が落ち込んでいるようにみえる。
まぁ、ショックだよな……食べ物の恨みはなんとかって言うし、こ、これはどうしたものか。
「あ、あの、真宮さん。果奈の一口、食べますか?」
妹よ……歯形のついたトーストを差し出すのはやめなさい。
「う、ううん、大丈夫。ありがとう果奈ちゃん」
言うと真宮さんは、そのままトーストをもぐもぐと食べ始めた。
場の空気が……お、重い……。
「あ、そうだ! 春時、醤油ある? 醤油も合うかも! ねね、マミマミ醤油かけよ!」
「い、いえ……」
「そんなこといわないで、絶対に合うと思うよ! 果奈ちゃんもそう思うでしょ?」
「は、はい! 絶対に合います!」
「春時! 醤油もってきて!」
「え。あ、あぁ……ちょっとまっていて」
「結構ですっ!」
醤油を取りにキッチンへ向かおうと立ち上がった瞬間、真宮さんは突然、声を上げて立ち上がった。
「えっと……醤油いらないよな……」
「ごちそうさまでした……」
真宮さんは俯いたまま、一言いうと部屋から出て行ってしまう。
階段を上がる音が聞こえてくる。
テーブルの上には食べかけのトーストが残ったままになっていた……。
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