悪役令嬢ってもっとハイスペックだと思ってた

nionea

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悪役令嬢、婚約者辞めるってよ

5.断罪の果

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 黙々と、ファランが書き付けた紙と証拠の束とを見て、更に何事か書き付けているウォルターの作業は、半ばを超えないあたりだ。
(ちゃんと見てくれるのね。まぁ、ポーズじゃなければ、だけど)
 時間はかかりそうだが、勝手にこの場を離れるのもまずいと解るので、ファランは大人しく対面に座っていた。その耳に、騒がしいかな、と思う声が聞こえたのは、ウォルターの作業が残り四分の一ほどになった頃だ。
 ウォルターが手を止め、廊下に出て行く。
(何かしら?)
 出て行く際に、何故か扉が閉められたので、ファランには廊下での出来事はよく解らない。だが、男性が怒鳴っているらしい事は解る。
(よく聞こえないけど、何回か『あの女』って言ったような気はするから。私に怒鳴り込みかけに来た人でも居たのかな…ホントにさ、ファランってばどんだけ嫌われてんだよ。もしかして私じゃ思い出せてない記憶でもあんのかな? もう本当にお前として生きてく私の身にもなってくれよ。あー…しんどいわぁ)
 げんなりして待っていると、やがて廊下の騒ぎか聞こえなくなり、ノックの音と入室を求める声が聞こえた。
「どうぞ」
「失礼いたします。申し訳ありませんでした。少々悶着がありまして」
「構いませんわ。どうせ、今日急いでやらなくてはならない事もありませんので」
「恐れ入ります」
 再び扉は開け放たれ、廊下は騒動前の静けさを取り戻している。
 作業を再開したウォルターをちらりと見て、ファランは内心で溜息を吐いた。
(扉が閉まってる時に伸びとかしておけば良かった。ちょっと体が固まってきたわ)
 肥満体型のファランは、人前では絶対に伸びなどできない。ちょっとした動きでシャツがスカートから出てしまうのだ。人前でシャツをスカートの中に入れる訳にいかないが、だらしなくそのままにもできない。つまり、彼女には人前で伸びをする自由はないのだ。
 ちなみに、元ファランは侍女に体を隠せるよう布で壁を作らせて伸びをし、出たシャツを戻させる、という具合にやっていた。
(彼女達の精神衛生上一緒に居ない方が良いかと思って、付いてこなくて良いって言っちゃったもんね、今回は…ああ、いや、トイレにでも行けば良いのか)
 思いついて許可を得ようとしたファランだが、そろそろ終わりそうになっている手元が見えてしまった。
(タイミング悪いな、私)
 自分で自分に呆れていると、最後の紙を見ていたウォルターの手が止まる。すっと視線が上がり、目が合った。
「これから質問をしたいのですが」
「どうぞ?」
 面談という単語も聞いていたし、いくら少々頭がアレなファランでも、査察官という職業くらいは知っている。彼らは、言わば取調のための人員だ。
(私は真っ黒な被疑者って事よね、いや、もう疑いの段階じゃないから、容疑者、か?)
 状況を前世知識で認識カバーしつつ、ファランは真剣にウォルターと向き合う。ここでヘマをしたら奴隷落ちかも知れないのだ、一言一句聞き逃す訳にはいかない。
「まず。今回の事をどう思われましたか?」
(ん? 予想外な方向から質問きたな…雑談から入って口を柔らかくしよう作戦か? 別に身に覚えの有る件は認めるつもりなんだけど)
「どう、か、思わなくてはいけません?」
「いえ、そういう事では…では、どうとも思ってらっしゃらないのですか?」
「回りくどいなとは思いましたけど、さほど、何とも」
(断罪劇場は要するにヒロインと結ばれるための回り道だもんね。大分さっさと進んだ気はするけど…それでも回り道は回り道だよ。婚約破棄自体は家の人間に言えば済む話だし。その後でヒロインと王子付き合おうと、私は、なんにも言わないし)
「回りくどい?」
「婚約破棄くらい家に申し入れて頂ければ受諾いたしますから。あのような場をわざわざ設けていただかなくても、仲良くされている事くらい解っていますし」
「では貴方は、婚約破棄に同意なさるのですか?」
「勿論」
 ファランが肩を竦めると、ウォルターは傍らに置いていた鞄から書類を取り出す。
「では、こちらに、署名を」
 それは、婚約破棄の同意書だった。
(手回し良いのねー…)
 ファランは、念のためしっかりと目を通しはしたが、躊躇いは無く署名を終えた。
「これでよろしいかしら?」
「はい。それから、もう一つ、こちらに」
「は?」
 ウォルターが取り出した書類は、爵位継承と財産相続に関するものだった。
 元々卒業と同時に成人となるのだから、グローリア侯爵を継ぐ予定ではあったが、その書類を査察官から提示されるとは意外だった。
(何これ、どういう事? いや、まぁ、でもここで侯爵を継いでおくと、奴隷落ちの芽は完全に潰せるか)
 先程よりもしっかりと読み込み、記載におかしな点が無い事を確認する。
「目録を確認したいところなのですが」
 相続する財産については、別途目録を参照と記載されているので、一応声をかけた。だが、どうぞ、と見せられたのは、広辞苑か、という分厚さの紙束だった。広辞苑ほどの紙の薄さではないのでページ数はそこまでではないが、それでもぱっと確認できる量ではない。
(もうここは公的機関を信じるしかないか…)
 目録の作成には、公文書作成のプロである公儀書記官の認印があった。つまり、正当な手順で書かれた正式なものであるはずだ、と仮定する。
(日付も、数日前だし。たぶん最新版だろうし…もしかしたら叔父様が用意してくださったのかしら)
「解りました」
 ファランは目録の表紙と次頁を見て、書類に署名をした。
 こうして、婚約破棄はされたものの、無事にグローリア侯爵を継いだファランは、世間様からはあれこれ言われるだろうが特に法的には何事もなく、ひとまずマーヴェラス家の屋敷に戻る事が出来たのだ。
(意外と、なんとかなるものだった!)
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