悪役令嬢ってもっとハイスペックだと思ってた

nionea

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悪役令嬢、バカ止めるってよ

14.疑惑

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 様々な事に思いを馳せながらまとめていたデータは、十日ほどの奮闘の末に父の代に行き着き、その堅実な経営を知らせてくれた。
 見知らぬはずの、だが、間違いなく父親なのだと感じる相手のその実績に、誇らしさを感じていた矢先。
(んん?)
 父の死後からデータがおかしい事に気付いてしまった。
(下がってる? 何で…?)
 災害や疫病などによる急下降ではない緩やかに、だが、確実に右下がりになっている。
 現在グローリア領で一番支出をしているのは、件の治水工事だ。だが、重機も無いこの時代の治水工事は数十年スパンが普通で、父の作成した事業計画も三十五年をかけるものだ。
(この事業計画は税収を圧迫する事がないようにこれだけの期間を取られてる。着工が三十三年前で、予定より遅れているけどせいぜい半年、まだそもそもの計画予定を終えていない内から緊急の支出を必要とする訳がない。そうだよ。表面上支出は大きく増えてない。ただ、税収が下がってるだけだ…でも。税制改正があったわけでも、不作に見舞われたわけでもない)
 数字を遡っていけば、おかしな場所は、すぐに解った。各農地から報告されている収穫量とそれにかかる税の報告書と、それらをまとめた報告書との間に差異があったのだ。
(これ…もしかして、横領?)
 この世界の収支は、結構な丼勘定で行われている。一円単位での誤差さえ許さない帳簿がある訳ではなく、そうした収支を監査する任を担っている人間が居る訳でもない。はっきり言って、やろうと思えば簡単に横領が出来る。額が膨れ上がらなければそれに気付く事も無いだろう。 
(まず考えられるのは、この報告書をまとめた人間が横領してるって可能性だけど………)
 報告書を作成しているのは執事だ。
(でも、こんなすぐ解るようなの…叔父様が気付かないなんて事あるの?)
 年々下がっていく数字を不審に思わないものだろうか。父が死んでから、既に十年ほど、その間下がり続け税収を確認しないなど考えられない。そして、確認すればすぐに解る。
(そもそも今の執事は、叔父様が連れてきたはず)
 先代執事はアルフレッドの薫陶を受け、父親と共にマーヴェラス家を支えていた人物で、ファランの父親は自分が数字に強くやりくりをするのが好きだったため家令を置くことはなかったが、アルフレッド同様家令としての能力も十分に持っていた。その有能さを埋もれさせるのは惜しい、と叔父は彼に家令としての就職先を口利きし、自身が気心のしれている執事を迎えたのだ。
 だが、もし、それらが、嘘だったら。
 帳簿の不正に気付きそうな人物を排して、不正を働き易い環境を作った、ということだったとしたら。
(いや、それは考え過ぎでしょ…というか、疑い過ぎ。信頼している執事からの報告だから、信じているのかもしれない。そう、そうよ。とにかく執事の事を聞いて回ってみよう)
 ファランは湧き上がった疑念をどうする事もできず、あまり関わる事のなかった執事クレイターの情報を集める事に決めた。
(そうよ、だって、叔父様はお母様の弟じゃない。たった一人の肉親なのよって、お母様言ってた…じゃない)
 決意したものの、動けずに居たファランは、扉をノックする音に反射的に応えてから、まずいと気付く。
(あ…まずいっ!)
 カトレアはファランに付き合ってアルフレッドから散々帳簿の見方を教えられているのだ。今テーブルに広げているものが何なのか、きっと気付いてしまう。
 ひとまず、テーブルを視界から隠そうと、慌てて席を立ってカトレアが入って来た扉の方に歩き出したファランは、四歩目でがっくりと膝から崩れ落ちた。
「お嬢様っ!」
「あ、大丈夫…」
 注意を逸らそうとしたのではなく、本当にくらっとしたのだが、大した事はないので内心で結果オーライ、とガッツポーズを決める。
「大丈夫よカトレア。ちょっと、立ち眩みがしただけ、大丈夫」
 支えてもらいながら、このまま部屋に戻るわ、と誘導に成功した。
(まず…何をすれば良いんだろう。えっと…)
「ねぇ、カトレア」
「はい」
「クレイターって、どんな人かしら? 今後は彼が私の執事になるのよね?」
「申し訳ございませんお嬢様。私も御領地へ来たのはこれが初めてで。まだお会いしていないのです。ただ、館の家政長は隅々まで目配りの利く方だと仰っていましたよ」
「そう」
 手近なところから、と思ったファランだったが、考えてみればカトレアはずっとファラン付きの侍女だったのだから、主人が会った事のない領地在住が常の執事と面識があろうはずがなかった。
(目配りできる執事が…あんな雑な帳簿付けるかしら………)
 帳簿の読み方が解らなかったという前提を覆し、勉強した後で見直しても、あの帳簿はお世辞にも良いと言える物ではなかったはずだ。
「あ、そうだ。執務室なのだけど。作業途中だから、散らかってるけど触って欲しくないの。誰も入らないように鍵をかけておいてくれる?」
 部屋で椅子に座ってから、カトレアに告げる。こういう言い方をすれば、彼女は中に入らずに鍵をかけてきてくれるだろう。
「畏まりました。すぐに行ってまいります」
「ありがとう」
 去っていくカトレアを見送ってから、ファランは頭を抱えた。
(………荷が重すぎるよぉ…)
 問題が山積していた。
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