悪役令嬢ってもっとハイスペックだと思ってた

nionea

文字の大きさ
13 / 84
悪役令嬢、バカ止めるってよ

13.まずは勉強

しおりを挟む
 しかしながら、悲しいかな、母も叔父もこの館にはいなかった。
「お二人共、治水工事の関係で、西の館にご滞在されているそうです」
 領地を単純な図形で表すと、東西に長い楕円となるグローリア領には、大型の領主の館が東と西にある。今ファランが居る方が、東の館だ。
(アルフレッドが言ってたやつね…グローリア領で唯一水害頻発地区の治水工事)
 それはグローリア領の西方、領内最大の河川が大きく曲がっている場所だ。先祖代々結構な額をかけて治水工事を行ってきたらしいのだが、父の若い頃に、百年に一度というような大雨があり、堤防が大決壊したらしい。その結果を受けて、当然百年に一度なら目を瞑る、などという訳にはいかない。だから、父が生前特に力を入れていたそうだ。
(治水工事のプロフェッショナルを雇って、進めてるって言ってたやつよね。お二人とも忙しくしてるのだわ)
 それは、自分の決意表明など、二の次の大事である。
「お二人が戻ってきたら、目を見張るくらい、立派になって、驚かせましょう!」
 領地には、これまでのグローリア領の足跡が解る資料が全て揃っている。ファランは、それらを読み込んで、少しでも領主として一人前に近付けるよう勉強する事に決めた。
「ご立派です。お嬢様」
 幸い、この上なくファランに合った家庭教師が一緒だ。きっと難しい事だろうが、無理な事ではないだろう。
 母と叔父が東の館に来るのは、およそ二ヶ月後だ。
(じゃあ、その二ヶ月で、見違えるように賢いファランになって見せようじゃないの!)
 そうした訳で、ファランは日夜せっせとグローリア領の歴史や過去帳簿を学習し始めた。
 滑り出しは順調だった。
 グローリア領をマーヴェラス家が治める事になって三百九十八年。三十二代目のグローリア侯爵は、まず初代から書き続けられている領史を読み始める。約四百年もの歴史がある訳だが、基本が穏やかな領なので、災害や疫病を追うのはそれほど苦にはならない。
(江戸時代の方がまだ色々起きてた気がするな…三百年で内乱収束からの内乱勃発で転覆だもんなぁ、それ考えたら平和だわ。基本人災は無いみたいだし。疫病については衛生革命以降はほぼ蔓延は無いな)
 衛生革命というのは、この国で百五十年ほど前に有った、聖女マリアによる衛生観念に関する国民の意識改革の事だ。今のファランとしては、転生者だったんじゃないかと睨んでいるが、確証はない。
(災害は、過去は色々有ったけど、未対策の事案は無し。経年劣化による見直し目安の来ているものは、有るけど、把握されてるから税収をやり繰りして実行すれば良いわけね)
 過去の災害記録は、古いほど被害が大きく、対策にも四苦八苦していた様が見て取れる。だが、常に対策は行われ、現在に近付くほど件数が減っていた。また、件数だけでなく、実際に災害が起きてしまった後の対応も常に改善され続けているようだ。
(災害は無くならないけど、常に対策対応は最善を尽くそうとしてる。すごいなぁ…)
 かつての侯爵達の足跡は、その努力をはっきりとファランに伝えてくれた。
 正直、グローリア侯爵達の業績を見れば見るほど今のファランには、かつてのファランが解らなくなる。
 何故、彼女は自分がグローリア侯爵になる事が解っていて、まともに勉強してこなかったのだろう。ただ、結婚相手の王子が実務を担うから問題ないと考えていただけなのだろうか。
(何か、変な感じなんだよなぁ記憶に感情が伴わないなんてあるかな普通。私が自分をファランだと思い切れてないからファランの感情は解らないとか?)
 不思議な話だが、記憶はあるのだが、そこに感情は無いのだ。
 父を失ったという事実の記憶はあるが、その事をファランがどう思ったかは解らない。母が忙しくしていて構ってもらえなかった事は解るが、それをファランがどう感じていたのかは解らない。何をしても周りから怒られた事は無いが、その事をどう考えて、今までの行動を取っていたのかは、全く解らないのだ。
 時折そんな事を考えて脇道に逸れたりもしたが、後続のために見易くまとめられた領史を確認する作業は二日で終わった。
 そして、三日目からは、帳簿を確認する作業に入る。
(ふふふ、私がファランになったからには好き放題してやるわ)
 ちょっと夢見ていた転生チートを発揮するべく、ファランは過去データを使って表やグラフを作り始めた。
(ファランの記憶の中にグラフの乗った本の記憶があるんだけど、一般的ではないみたいだから、もしかしたらアルフレッドもカトレアも褒めてくれるかも、なんて)
 普段から大いに褒めてもらているが、いつもは赤ん坊が立ったのを褒めてもらうようなものなので、本当に賢くなったのだというところを見て褒めてもらいたい、という下心ばりばりだった。
 とはいえ、羅列ではなく数字を時系列にそってまとめたいと思ったのも事実だ。表やグラフによるデータ分析に慣れきっている今のファランには、そうしないと理解が難しい。
(数字データは表とかグラフにするのが一番よ。消去法の学科選択とは言え、これでも経済学部の情報学科出身者なんだから、パソコンがあれば嬉しいけどなくても表とかグラフくらいは作れるわよ!)
 マーヴェラス家が保管しているグローリア領のデータは約四百年分だが、まず初期の五十年程は、国そのものが動乱期だったせいもあり、ちゃんとしたデータが無いので省いた。
 動乱後、五十年から百年をかけてグローリア領は成長期になる。人口はほぼ倍になり、税収は約四倍になった。そして、安定期に入る。全体を見ると僅かに右上がりのほぼ横這い線が続くグラフを書きながら、初心者向け領地が事実だなと納得した。
(あ、また…ここは確か疫病ね…)
 そして、疫病や災害の度にぐっと下がる線に責任の重さを感じた。
(今後は、出生率とか平均寿命とかも出していきたい。税制も見直せるところとかあるかな…誰でもそれなりに治められる優良領地だけど、どうせなら、皆がより良く生活できるようになって欲しい)
 より良いという事がどういう事か、それは人それぞれだと考えている。だが、幸せを感じられる。あるいは、幸せになるために何をすれば良いのか考えられるようになって欲しいと思うのだ。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

社畜の私は異世界でも社畜精神が残ったままだった

木嶋うめ香
恋愛
貴族学園の小さな部屋で、私は一人書類仕事に追われていた。 今日も寮には帰れそうにない、机の上には大量の未処理の書類。 せめて空腹を紛らわそうと、ビスケットを鞄から取り出し水を汲んでこようとして立ち上がった途端、視界が暗くなり倒れた。 床に倒れた反動で、頭を床にぶつける。 その衝撃で思い出した、私は前世ブラック企業に勤めていた社畜で、二十三連勤サービス残業付きの末、体調を崩し亡くなったアラサー営業職だった。 他サイトでもアップしています。

悪役令嬢がヒロインからのハラスメントにビンタをぶちかますまで。

倉桐ぱきぽ
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生した私は、ざまぁ回避のため、まじめに生きていた。 でも、ヒロイン(転生者)がひどい!   彼女の嘘を信じた推しから嫌われるし。無実の罪を着せられるし。そのうえ「ちゃんと悪役やりなさい」⁉ シナリオ通りに進めたいヒロインからのハラスメントは、もう、うんざり! 私は私の望むままに生きます!! 本編+番外編3作で、40000文字くらいです。 ⚠途中、視点が変わります。サブタイトルをご覧下さい。

【完結済】破棄とか面倒じゃないですか、ですので婚約拒否でお願いします

恋愛
水不足に喘ぐ貧困侯爵家の次女エリルシアは、父親からの手紙で王都に向かう。 王子の婚約者選定に関して、白羽の矢が立ったのだが、どうやらその王子には恋人がいる…らしい? つまりエリルシアが悪役令嬢ポジなのか!? そんな役どころなんて御免被りたいが、王サマからの提案が魅力的過ぎて、王宮滞在を了承してしまう。 報酬に目が眩んだエリルシアだが、無事王宮を脱出出来るのか。 王子サマと恋人(もしかしてヒロイン?)の未来はどうなるのか。 2025年10月06日、初HOTランキング入りです! 本当にありがとうございます!!(2位だなんて……いやいや、ありえないと言うか…本気で夢でも見ているのではないでしょーか……) ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽ ※小説家になろう様にも掲載させていただいています。 ※作者創作の世界観です。史実等とは合致しない部分、異なる部分が多数あります。 ※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係がありません。 ※実際に用いられる事のない表現や造語が出てきますが、御容赦ください。 ※リアル都合等により不定期、且つまったり進行となっております。 ※上記同理由で、予告等なしに更新停滞する事もあります。 ※まだまだ至らなかったり稚拙だったりしますが、生暖かくお許しいただければ幸いです。 ※御都合主義がそこかしに顔出しします。設定が掌ドリルにならないように気を付けていますが、もし大ボケしてたらお許しください。 ※誤字脱字等々、標準てんこ盛り搭載となっている作者です。気づけば適宜修正等していきます…御迷惑おかけしますが、お許しください。

お言葉を返すようですが、私それ程暇人ではありませんので

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<あなた方を相手にするだけ、時間の無駄です> 【私に濡れ衣を着せるなんて、皆さん本当に暇人ですね】 今日も私は許婚に身に覚えの無い嫌がらせを彼の幼馴染に働いたと言われて叱責される。そして彼の腕の中には怯えたふりをする彼女の姿。しかも2人を取り巻く人々までもがこぞって私を悪者よばわりしてくる有様。私がいつどこで嫌がらせを?あなた方が思う程、私暇人ではありませんけど?

幼馴染みが描いた悪役令嬢ものの世界に「メイド」として転生したので、6年後の断罪イベントをどうにか回避したい

ゆずまめ鯉
恋愛
通勤途中、猫好きではないのに轢かれそうな黒猫をうっかり助けてしまい、死んでしまった主人公──水縞あいり(26) 鳥の囀りで目を覚ますとそこは天国……ではなく知らない天井だった。 狭い個室にはメイド服がかかっている。 とりあえず着替えて備えつけの鏡を見ると、そこには十代前半くらいの子どもの姿があった。 「この顔……どこか見覚えが……」 幼馴染みで漫画家、ミツルギサイチ(御剣才知)が描く、人気漫画「悪役令嬢が断罪されるまで」の登場人物だということに気がつく。 名前はミレア・ホルダー(本名はミレア・ウィン・ティルベリー) 没落貴族の令嬢で、現在、仕えているフランドル侯爵によって領地と洋館を奪われ、復讐のために、フランドル侯爵の長女イザベラが悪役令嬢になるのを止めず、むしろ後押しして見事断罪されてしまうキャラだった。 原作は未完だが、相談を受けていたのでどういう結末を迎えるのか知っている。 「二期アニメもまだ見てないし、どうせ転生するなら村人Aとかヒロインの母親がよかった……!!」 幼馴染みの描く世界に転生してしまった水縞あいり=ミレアが、フランドル侯爵家で断罪回避するべく、イザベラをどうにかお淑やかな女性になるように導いている途中。 病弱で原作だと生死不明になる、イザベラの腹違いの兄エミールに、協力してもらっているうちに求愛されていることに気づいてしまい──。 エミール・ディ・フランドル(20)×ミレア・ウィン・ティルベリー(18) 全30話の予定で現在、執筆中です。2月下旬に完結予定です。 タイトルや内容が変更になる場合もあります。ご了承ください。

婚約破棄された悪役令嬢の心の声が面白かったので求婚してみた

夕景あき
恋愛
人の心の声が聞こえるカイルは、孤独の闇に閉じこもっていた。唯一の救いは、心の声まで真摯で温かい異母兄、第一王子の存在だけだった。 そんなカイルが、外交(婚約者探し)という名目で三国交流会へ向かうと、目の前で隣国の第二王子による公開婚約破棄が発生する。 婚約破棄された令嬢グレースは、表情一つ変えない高潔な令嬢。しかし、カイルがその心の声を聞き取ると、思いも寄らない内容が聞こえてきたのだった。

処理中です...