悪役令嬢ってもっとハイスペックだと思ってた

nionea

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悪役令嬢、バカ止めるってよ

12.が、いつまでもバカと思うなよ

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 婚約破棄、もとい、卒業から半年。
 参政期間が終了した。
 この国で参政期間と呼ばれているのは、各地を領地として経営している爵位を持つ家々から、国政に参加するべく人員が国王の住む都へやって来る期間の事だ。その期間は一年間。そして、同じ役職の別の領地の人間と交代して、一年間領地に戻る。
 ちなみに、高校で世界史ではなく日本史を選考していた彼女は、この国の政治形態を江戸時代に似ていると考えていた。なので、参勤交代だな、と納得している。
(遂に領地で一年か…)
 忙しく働き続けていて、顔を合わせる事が無かった母と叔父とはバラバラに領地へ帰る事になっているので、ファランも一人、せっせと準備を整えて、領地へと帰って行った。
 老齢のアルフレッドは、
「どうせ何時死ぬかも解らない身の上なのです。お嬢様のお役に立てるなら、それに越した事はありません」
と、領地への旅路に付き合ってくれた。
 侍女達とも、勿論一緒だ。
(見渡す限り、自然いっぱいの田舎だわ)
 マーヴェラス家、もとい、グローリア侯爵の領地であるグローリア領は、国の西、王都からはゆっくりした馬車旅で六日ほどの場所に有る。
 領土は王都の十倍以上あるが、人口は十分の一以下。半分は未開の森林で、残りの半分の内九割で畜産農業といった一次産業に従事している長閑な領だ。
(この領地で幼少期を過ごしていれば、こうはならなかったんじゃないかなぁ…)
 馬車の窓から外を眺めて、ファランは内心でぼやいた。
 王侯貴族は、十四歳から十六歳までの二年ほど学園に入るため、必ず王都で過ごさなくてはならない訳だが。逆に、十四歳までは領地に居ても何の問題も無いのだ。ところが、ファランは母の希望や王族との婚約関係があって、ほぼずっと王都に居た。
(まぁ、もう全部何もかも今更なんだけどさ)
 ファランはぼんやりとしていた。
「お嬢様。今日泊まる村の長が、ご挨拶をしたいと」
「え、ああ。今行くわ」
 後悔ばかりが、頭を過ぎっていたファランに、カトレアが声をかけた。いつの間にか馬車は止まっていて、今日泊まるグローリア領で最初の村にたどり着いたのだ。
「ご領主様!」
 そう呼びかけられて、初めは大いに戸惑った。
 広さはあるが、質素な村長の家は、きっと彼らにとっては精一杯のご馳走なのだろう。滋味に富んでいそうな、豊富な野菜と少々の肉を様々に手をかけた形で、テーブルは埋め尽くされていた。
「ご領主様のお口に合いますかどうか」
「とても美味しいわ」
 恐縮する村人に見守られる食事は大いに緊張したが、ファランが笑顔になれば皆安心したように場が和む。
(私が、領主なんだ…本当に)
 行く先々の街や村でも、ファランは歓待を受け続けた。
 それは、身分が上の人間に媚びへつらうような、どこか壁を感じるふれあいではなく。お金は無いが気持ちはこれでもかとかけました、という素朴で温かな歓待であった。
(私が、領主)
 人々から与えられる温かさは、次第にファランの中でじんわりと心を温めていった。
(本当いうと、領主とか、人々の生活を支える長とか、全然向いてないって解ってるんだけど…)
 もう取り戻せないものはどうしようも無いのだから、今後はこの人達が幸せに暮らしていけるよう努めようという思いが湧き上がる。
(向いてないからって役割を放棄するんじゃ、今までのファランと何一つ変わらない。せめてもの救いはアルフレッドの話ではグローリア領は気候温暖で安定してる初心者向け領地って事。私がありえないやばさを発揮しなければきっと大丈夫。そう、今の私なら大丈夫。堅実に、着実に、出来る事を誠実に、確実にやっていく!)
 前世の記憶が目覚めてみれば、何もかもを失う直前で、人生が詰んだと思っていた。
 だが、蓋を開けてみれば、ファランは自分が解っていなかっただけで、多くの優しい人々に恵まれ、支えられている。彼女が踏み倒し続けてきたものを、今なら感謝を持って応じられる気がした。
(頑張るって、辛かった気がするのに。今は全然辛くない)
 本当にそれが正しい道かは解らない。
(出来る事じゃない。やらなきゃいけない。頑張るんだ)
 贅肉と一緒に悪いものは全て捨てて、これまで酷い目に合わせてしまった人々への贖罪も兼ねて、困難でも正しいと思われる道を選択して生きていこう。ファランは、今ならそう思えた。そのための苦労なら、頑張れる気がした。
(きっと!)
 ようやく辿り着いた、初めて見るグローリア領の館を前に、ファランは体中をやる気が満たしていくのが解る。
 日々、額に汗して畑を耕し、人々の生活を支える領民達の、一度も領地を訪れた事のなかった新領主への優しい言葉。勿論、全てがそのまま鵜呑みに出来る訳ではないだろう。おべっかも、気遣いも有ったと思う。それでも、とても嬉しかった。ファランにとって、ここまでの道中は、自分のこれからを形作る大切なものになったのだ。
「私、頑張るわ!」
「はい。その意気です。お嬢様」
 傍らのカトレアが、優しく微笑んでくれた。
(よし! お母様と叔父様にもこの決意を聞いてもらおう!)
 ついでにホワイトハムからぽっちゃりになれた自分を見てもらおう、と気合を込めてファランは領館へ足を踏み入れた。
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