悪役令嬢ってもっとハイスペックだと思ってた

nionea

文字の大きさ
22 / 84
悪役令嬢、悪役令嬢止めるってよ

22.対応

しおりを挟む
 母と叔父の帰りを明日に控え、叔父を逮捕するべくやって来たのは、
「このような再会の形となりました事、何とも申し難く…」
 ウォルターだった。
「どうぞ、お気遣いなく」
 殊勝な表情に、すっかり表情豊かだな、などと冗談めかして考えつつ、思考のどこかで肯く。司法局第一分室の査察官であるウォルターは既にマーヴェラス家に関わった事があるのだ。彼が人員として適任と判断されるのは起こりえた事態だろう。
(きっと、もし今後私が何かやらかしたら、その時も現れるのよね、超合金で)
 妙な話だが、そう考えると気が楽になった。ウォルターは、真面目な誠意ある仕事をする人だと解っているからだろう。
 既に証拠固めは終わっており、ウォルターを含む十人の司法局員達は、イカスの逮捕と移送のために来ていた。明日の何時に帰ってくるか解らない相手を、道で張り込みつつ待つらしい。
「え…それは、家に泊まっていただく訳には行かないものなの?」
 家に入ってきたところを逮捕するものと思っていたファランは、女性を含む十人の司法局員達が道の影に馬車を潜ませ野宿の上待ち続けると聞いて、思わず傍らのカトレアにそう尋ねた。
 客間ならば整っております、という返答に、どうぞお使いくださいと告げれば、何故か全体的に戸惑い気味の反応をされる。
「有難いお申し出ですが…よろしいのですか?」
「客間なら空いておりますからどうぞ?」
 司法局員なんかを家に泊めるわけ無いでしょう、とでも言い出す高慢ちきだと思われているのだろうか。もしそうならちょっとショックだ。そこそこ常識はあると思ってもらえていると信じていたのに。
(まぁ、そう思われても仕方ない小娘だったもんね)
 何はともあれ、無事司法局員達を客間に泊める事には成功した。
 今は、ゆったりと入浴を終え、直後の火照りもとれ、寝るだけ、という状況だ。
 全く眠気は感じないが。
「お嬢様?」
 いつもなら灯を消す時間になっても、ソファから動かないファランに、カトレアが呼びかけた。
「んー…」
 どうしても眠る気にはなれず、生返事のような気の抜けた反応をしてしまった。
 カトレアは、側にやってきて、ファランの両手を温かな両手で包んでくれる。
 浅いハンドクリームの知識だったが、彼女達自身が改良を加えて仕上げた物だからだろう。近頃、カトレアの手は仕事をしている人の手なのに、柔らかくて、元々の高い体温も相まって、とても心地良い。
「安眠を促す香油でマッサージなどいたしましょうか?」
「んーん…大丈夫…でも………もう少し、こうしててくれる?」
「はい」
 いつでもお嬢様の側にいます。それが口癖なのかと思うほど、何度もカトレアは言ってくれる。はっきりとした言葉と態度で示してもらえる事が、どれほど救いだったかしれない。
 ありがとう、と口にしかけて、顔を上げた時。違う手が伸びてきてカトレアの手ごとファランの手をぎゅっとした。
「…ミモザ?」
「お嬢様が大変な事、今は解ります。学園をご卒業なされば、すぐにご当主として責任有るお立場になられる事が決まっていたお嬢様が、どれほどご不安を抱え、悩まれ、眠れずに過ごされていたか…」
 目を潤ませながらミモザは言った。
(いやぁ、それは………でも…そんなに好意的に捉えてくれるのは、ミモザの、愛だよね…)
 真剣な表情と、真摯な言葉が、嬉しかった。
「カトレアさんほど役には立たないと思いますが、それでも、お嬢様をお支えしていきたいと思っています! どうか、頼りないかもしれませんが、沢山、わがままを仰ってください!」
「っ」
 ありがとう、と言うはずだったが、涙がボロボロと溢れていた。
「ずるいですよぉ」
「ニー…ア」
 カトレアとミモザの間から、にゅっと顔を出した。
 ぎゅっと、また、手が重ねられていく。
「難しいことはぁ、よく解りませんけどぉ。私だってお嬢様が大好きですよぉ」
「…ふっぐ…」
 もう堪えられなかった。嗚咽を漏らすと、言葉が上手く出てこない。それでも、なんとかして礼を言いたい、と顔を上げる。
 自分もなんとか加わりたいが三人の中に割って入る事は出来ないマグリットが、三人の背後でオロオロと首を振っていた。
(ああ、もう!)
 なんて、優しい人達だろう。
「マグリット」
 右手はそのままに、左手を抜いて、マグリットへ伸ばす。
「お嬢様!」
 カトレアよりは少し低い体温が、ぎゅっと左手を包んだ。
「みん、な…あり、がとね」
 こんな風になれると思っていなかった。目が覚めて、自分の状況を理解した時。きっと、独りぼっちの嫌われ者人生を進んでいくのだと思いつめた。
 だが、どうだろう。
 頑張ろうと思えたら、手を差し伸べてくれる他人達が居た。支えてくれる身内が居た。ただ仕事だからというだけではない。優しい、愛に溢れた手が、こんなにも沢山有る。
「がんばれる、よ…みんな、が、いてくれるからっ…」
 否定ではなく、肯定してもらえる。ただそれだけで、幸せな気持ちに成れた。頑張る事が、苦痛ではなくなって、やる気が体を軽くする。
 明日、何があっても、ちゃんと立って見届ける、と心が決まった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

社畜の私は異世界でも社畜精神が残ったままだった

木嶋うめ香
恋愛
貴族学園の小さな部屋で、私は一人書類仕事に追われていた。 今日も寮には帰れそうにない、机の上には大量の未処理の書類。 せめて空腹を紛らわそうと、ビスケットを鞄から取り出し水を汲んでこようとして立ち上がった途端、視界が暗くなり倒れた。 床に倒れた反動で、頭を床にぶつける。 その衝撃で思い出した、私は前世ブラック企業に勤めていた社畜で、二十三連勤サービス残業付きの末、体調を崩し亡くなったアラサー営業職だった。 他サイトでもアップしています。

悪役令嬢がヒロインからのハラスメントにビンタをぶちかますまで。

倉桐ぱきぽ
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生した私は、ざまぁ回避のため、まじめに生きていた。 でも、ヒロイン(転生者)がひどい!   彼女の嘘を信じた推しから嫌われるし。無実の罪を着せられるし。そのうえ「ちゃんと悪役やりなさい」⁉ シナリオ通りに進めたいヒロインからのハラスメントは、もう、うんざり! 私は私の望むままに生きます!! 本編+番外編3作で、40000文字くらいです。 ⚠途中、視点が変わります。サブタイトルをご覧下さい。

【完結済】破棄とか面倒じゃないですか、ですので婚約拒否でお願いします

恋愛
水不足に喘ぐ貧困侯爵家の次女エリルシアは、父親からの手紙で王都に向かう。 王子の婚約者選定に関して、白羽の矢が立ったのだが、どうやらその王子には恋人がいる…らしい? つまりエリルシアが悪役令嬢ポジなのか!? そんな役どころなんて御免被りたいが、王サマからの提案が魅力的過ぎて、王宮滞在を了承してしまう。 報酬に目が眩んだエリルシアだが、無事王宮を脱出出来るのか。 王子サマと恋人(もしかしてヒロイン?)の未来はどうなるのか。 2025年10月06日、初HOTランキング入りです! 本当にありがとうございます!!(2位だなんて……いやいや、ありえないと言うか…本気で夢でも見ているのではないでしょーか……) ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽ ※小説家になろう様にも掲載させていただいています。 ※作者創作の世界観です。史実等とは合致しない部分、異なる部分が多数あります。 ※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係がありません。 ※実際に用いられる事のない表現や造語が出てきますが、御容赦ください。 ※リアル都合等により不定期、且つまったり進行となっております。 ※上記同理由で、予告等なしに更新停滞する事もあります。 ※まだまだ至らなかったり稚拙だったりしますが、生暖かくお許しいただければ幸いです。 ※御都合主義がそこかしに顔出しします。設定が掌ドリルにならないように気を付けていますが、もし大ボケしてたらお許しください。 ※誤字脱字等々、標準てんこ盛り搭載となっている作者です。気づけば適宜修正等していきます…御迷惑おかけしますが、お許しください。

お言葉を返すようですが、私それ程暇人ではありませんので

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<あなた方を相手にするだけ、時間の無駄です> 【私に濡れ衣を着せるなんて、皆さん本当に暇人ですね】 今日も私は許婚に身に覚えの無い嫌がらせを彼の幼馴染に働いたと言われて叱責される。そして彼の腕の中には怯えたふりをする彼女の姿。しかも2人を取り巻く人々までもがこぞって私を悪者よばわりしてくる有様。私がいつどこで嫌がらせを?あなた方が思う程、私暇人ではありませんけど?

幼馴染みが描いた悪役令嬢ものの世界に「メイド」として転生したので、6年後の断罪イベントをどうにか回避したい

ゆずまめ鯉
恋愛
通勤途中、猫好きではないのに轢かれそうな黒猫をうっかり助けてしまい、死んでしまった主人公──水縞あいり(26) 鳥の囀りで目を覚ますとそこは天国……ではなく知らない天井だった。 狭い個室にはメイド服がかかっている。 とりあえず着替えて備えつけの鏡を見ると、そこには十代前半くらいの子どもの姿があった。 「この顔……どこか見覚えが……」 幼馴染みで漫画家、ミツルギサイチ(御剣才知)が描く、人気漫画「悪役令嬢が断罪されるまで」の登場人物だということに気がつく。 名前はミレア・ホルダー(本名はミレア・ウィン・ティルベリー) 没落貴族の令嬢で、現在、仕えているフランドル侯爵によって領地と洋館を奪われ、復讐のために、フランドル侯爵の長女イザベラが悪役令嬢になるのを止めず、むしろ後押しして見事断罪されてしまうキャラだった。 原作は未完だが、相談を受けていたのでどういう結末を迎えるのか知っている。 「二期アニメもまだ見てないし、どうせ転生するなら村人Aとかヒロインの母親がよかった……!!」 幼馴染みの描く世界に転生してしまった水縞あいり=ミレアが、フランドル侯爵家で断罪回避するべく、イザベラをどうにかお淑やかな女性になるように導いている途中。 病弱で原作だと生死不明になる、イザベラの腹違いの兄エミールに、協力してもらっているうちに求愛されていることに気づいてしまい──。 エミール・ディ・フランドル(20)×ミレア・ウィン・ティルベリー(18) 全30話の予定で現在、執筆中です。2月下旬に完結予定です。 タイトルや内容が変更になる場合もあります。ご了承ください。

婚約破棄された悪役令嬢の心の声が面白かったので求婚してみた

夕景あき
恋愛
人の心の声が聞こえるカイルは、孤独の闇に閉じこもっていた。唯一の救いは、心の声まで真摯で温かい異母兄、第一王子の存在だけだった。 そんなカイルが、外交(婚約者探し)という名目で三国交流会へ向かうと、目の前で隣国の第二王子による公開婚約破棄が発生する。 婚約破棄された令嬢グレースは、表情一つ変えない高潔な令嬢。しかし、カイルがその心の声を聞き取ると、思いも寄らない内容が聞こえてきたのだった。

処理中です...