悪役令嬢ってもっとハイスペックだと思ってた

nionea

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悪役令嬢、悪役令嬢止めるってよ

23.結末

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 ファランが断罪された時も、案外そんなものだったように、イカスは静かだった。
 周りを囲んだ司法局員をちらりと一瞥して肩を竦め、溜息を一つ吐いて、大人しく促されるままに歩き出す。
「叔父様」
 ファランの呼びかけに、イカスは半身で振り返った。
 その口元に微笑が浮かぶ。
 ファランとは似ても似つかぬ彫りの深い端正で美しい顔立ちと、よく似た髪と目の色。
(こんなものなのだろうか…)
 呼び止めるつもりはなかった。思わず声をかけたのも、別に、惜しむような気持ちからではない。ファランは、ただ不思議だったのだ。顔を合わせて、髪や目に自身に通じるものを認めて、それでもなお、こんなにも慕わしさが湧かないものなのかと。
(私…何かおかしいのかしら)
 こんな風に顔を合わせるのでなかったら、この人が唯一の叔父なのだと親しく思えただろうか。
 それとも、こんな時でなかったら、自分の叔父は美形だとはしゃぐ気持ちが湧いただろうか。
 ただ普通に、叔父と姪として、顔を合わせて挨拶し、抱擁でも交わしていたら、もっと心は動いたのだろうか。
「頑張りたまえよ、新しいグローリア侯」
 呼びかけて、だが言葉が続かないファランに向かって、イカスはそう告げると再び歩き出した。
 頑張れという励ましが、ここまで空虚に感じられたのは、今世で初めてだ。
(こんなものなの…?)
 命が奪われる刑罰が待っている訳ではない、と知っているから、平静なのかもしれない。そうでなかったら、自分は、どこかおかしいのかもしれない。
 そんな風に思ったファランだったが、視界に歩み去っていくイカスを見つめる母の存在が在る事に気付いた。
(現実感が希薄なだけなのかもしれない)
 イレーヌのどこか呆けたような静かさに、理解が追いついていないのかもしれない、と考えを改める。
(もっと、あんな風になると思ってた…)
 クレイターは、馬車で逃げようとしたらしく、取り押さえられ、離せ、と喚きながら引き立てられていく。ファランは、イカスも、そんな風に足掻くのではないかと思っていた。小説のファランが断罪の言葉を全て否定したように、言い訳をするのではないかと考え、それを否定する言葉すら用意していたというのに。
(そっか…断罪する側って、案外あっさり罪を認められると、安心とかじゃなくて、気が抜けるのね)
 壇上からファランを断罪した二人もこんな思いだったのかもしれない。
(それに…)
 母から、もっと責め立てられるものと予想していた。
「お母様…?」
 そろそろと近付いたファランは、いつまでもイカスが出て行った扉を見つめるイレーヌに声をかけた。
 振り返ったイレーヌは、感情の読めない表情をしている。
「お茶を…飲みたいのだけれど」
 こちらもまた感情の読めない声音で言われ、ファランはカトレアに声をかけた。母の様子は気になったが、自身は、アルフレッドと共にウォルターの元へ向かう。
(嘆願について話すのは…今日は無理かもしれない)
 事態を受け止められているとは思えなかったイレーヌの様子に、そんな風に思いながらも、事前に話し合っていたためウォルターとのやりとりはスムーズに終わった。というか、アルフレッドが必要な書類だの資料だのといったものは全て用意してくれていたので、ファランは署名をするだけなのだ。
 去っていく馬車を少しの間見送り、屋内へ戻れば、カトレアが客間でイレーヌが待っていると教えてくれる。
「嘆願の事など、お話されたいそうです」
「解ったわ」
 なんだかんだ言っても、母の方が人生経験は豊かだ。冷静に、状況を判断していたのだろう。自分が心配しなくても、ちゃんとしていたのだ。
「お母様」
 客間に入ると、テーブルに置かれた二つのカップでお茶が湯気を立てている。
「ああ、ファラン。待っていたのよ」
 イレーヌは、先ほどとは違い、そっと微笑んでファランを迎えてくれた。
「すみません」
「いいの、まぁ、座りなさいな。お茶を飲みましょう?」
「はい」
 お母様、と呼びかけている割には、自分でもよそよそしい態度だと思ってしまうが、ファランは借りてきた猫のような神妙さでお茶に口を付けた。
 カップを置き、顔を上げると、嬉しそうに微笑むイレーヌと目が合う。やはり、落ち着いているように思えた。ファランは今お茶を飲んで湿った口を恐る恐る開く。
「あの、嘆願のことですが」
「ああそのことなら、大丈夫よ。あの子の身内はわたくしだけですもの。わたくしがなんとでもします」
 どこか切りつけるような言い様に、ファランは違和感を覚えた。
「それは………?」
 だが、その疑問を追求する間も無く頭がぐらりと揺れる。
「…っ!」
 何かがおかしいと気付いた時には、もう上体を支えていられずテーブルに倒れこんでいた。
 手がカップを払うように倒して、お茶がかかってしまったが、熱いという感覚も無い。
「お嬢様!」
 カトレアの叫び声が、遠くなっていく。
「お嬢様! お嬢様! しっかりなさってください! お嬢様―――」
 目を開けているはずなのに、視界が白くぼやけて何も見えない。
 次第にキーンという耳鳴りが大きくなってきた。
 カトレアを呼んだのか、母に呼びかけたのか、自分でも何を言おうとしたのか解らないが、どちらにしろ、声は出ず、唇が微かに動くだけだ。
(何…が………起きた…の………?)
 思考すらどんどん鈍くなっていく。
(どう…な…ちゃう………)
 遠いような近いような場所で、女性の高らかな笑い声が響いている気がした。
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