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悪役令嬢、悪役令嬢止めるってよ
25.これからを
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脈をとられ、口や目を確認されて、医者なのだと理解した。
「うん。大丈夫そうだね。カトレアさん、水を持ってきてくれるかな?」
「はい」
「体を起こせるかい?」
声をかけられたが、ファランの体には、自分自身が戸惑ってしまうほど力が入らなかった。
「お嬢様、手を引きますね」
「背をお支えします」
ミモザとマグリットが体を起こすのを手伝ってくれ、クッションを背に入れてくれたので上体を起こせたが、お礼を言うにはあまりに喉が渇いていた。カトレアが、少しとろみのついた水を持ってきてくれ、それを飲んで初めて、少し声が出せる。
「皆ありがとう」
掠れていたからだろう、お礼を言ったが、三人が一様に涙ぐんで言葉を詰まらせた。
「何があったか、覚えているかね?」
医者にそう尋ねられて、ファランは数度瞬きをしてから、自分の手のひらを見る。
「ファランに…」
会っていた。
幼い彼女を抱きしめた。
何とかして、泣いているファランを助けたくて、手をとって連れ出そうとした。
「ん?」
「あ………いえ………えっと」
医者の不思議そうな顔に、夢の話だったと思い出す。
ちゃんと考えなくては、何があったのか。
「お茶を飲んで」
風邪にかかった。
そんなはずが無い。
「お茶を…飲んだん、です」
そして、倒れたのだ。
「………あの…もしかして…」
毒が入っていたのか、と確認しようとして、言葉が止まった。
両目から、涙が流れ出す。
「あれ?」
いったいどれくらい寝ていたのか、乾いてしわっとした手を持ち上げて、涙が伝う頬に触れようとした。
「お嬢様!」
ガッ、とその手を柔らかな手が掴んだ。鼻に、檸檬の良い匂いが届く。
「…ニーア?」
ベッドに乗り上げて、ニーアがファランの手を掴んでいた。
「ニーア! 下りなさい!」
「ダメですよ!」
カトレアとミモザが慌ててニーアに手を伸ばし、マグリットは困惑して口を開いて手を宙に彷徨わせる。
「大丈夫ですから! お嬢様には、ニーアが付いてますから! 誰が何と言ったって、ニーアは、お嬢様のお側に居ます!」
いつもの、少し間延びした喋り方ではなく、顔を真っ赤にして涙を浮かべて叫ぶニーアに、ファランは微笑んだ。
「うん。うん………ありがとね」
カトレアにベッドから下ろされ、ぽろぽろと涙を零し始めたニーアから、医者へと視線を動かす。
「自分の身に起きた事を、解っているね?」
確認され、深く頷く。
「今、生きている。それが全てです」
医者は微笑むと、
「それが大事だよ」
と、言った。
帰った後で、その医者が自分が産まれた瞬間に取り上げてくれた、ジャン・クリシアだと知る。グローリア領でのマーヴェラス家のかかりつけ医でもある人物だ。
それから、自分が一週間近く生死の境を彷徨っていた事も知った。
「そんなに寝てたのね」
夢現に目覚めては薬湯の類は飲んで居たらしいが、全く記憶にない。
「ずっとぉ、うなされてましたぁ」
目を覚ましてから、何故だかずっと離れなくなったニーアが、ベッドサイドでファランの手を握り締めながら答えた。
「ずっと?」
「どこにも行かないでってぇ、ずっとぉ…お父様ってぇ」
「…そう。そっか」
熱に浮かされてなお、呼んだのは父親だけだったのだ。
ファランは、もうその理由を知っている。
本当は、ずっと、知っていたはずだ。
夢の中でさえ、母と叔父が居るとは言わなかった。
「ニーアはお父さんにはなれませんけどぉ。お嬢様の側にずっと居ますからぁ…もう、泣かないでくださいねぇ………」
看病疲れが溜まっているのに、それでもファランを安心させるために、ずっと側にいてくれるつもりだったらしい。
手を握ったままベッドに顔を伏せて眠ったニーアの頭を、握られていない手でそっと撫でる。
「眠りました?」
「うん」
開けたままの扉の向こうから、そっとマグリットが顔を出した。実は、少し前に彼女が持ってきてニーアに飲ませたお茶の中に、眠りを促す薬が入っていたのだ。睡眠薬というほどの効果はないはずのそれが、こんなにすぐ効いたという事は、ニーアの体は眠りたかったという事だろう。
「もし、すぐに起きても、もう大丈夫だからゆっくり休んで、って伝えてね」
「はい。解りました」
もうずっと寝ていたはずだが、滋養食であるプリンをクリーム状にしたような温かい流動食を腹に入れたからか、その前に飲んだ口の中を唾液でいっぱいにしてくれた薬湯のおかげか、眠気はすぐにやって来た。
次に目を覚ましたのは、額に誰かの手が触れているのが解ったからだ。
「申し訳ございません」
「平気…自分で起きたとこだから」
カトレアが、また熱が高くなっていないかを確認していたらしい。
先ほどまでより、更に体調が良くなった気がして、自分でも額に触れてみる。
「熱、下がったよね?」
「下がっていると思います」
「良かった」
手伝ってもらいつつも、自分の腕で上体を押し上げて起こせた。
「元気…ではないけど、もう大丈夫そう」
「はい」
「というか、寝過ぎで体がおかしい感じなの、ちょっと、歩きたいんだけど」
「クリシア医師も、熱が下がればもう動いても平気だと仰っていました。用意してまいります」
「お願い」
カトレアを見送って、ベッドの上で思い切り体を伸ばす。ベッドを下りて、もう一度伸びをした。主に腰がだるいので、摩りながら反らし、体を戻して捻ってみる。
(うん。なんか、急に血が巡りだした感じで、心臓ドクドクいってるけど、大丈夫そう)
それから、腰を摩っている間に気になった事を確かめるため鏡の前に立った。
「うわぁ~…」
痩せている、というより、窶れている。
「こういう痩せ方はなぁ…」
ファランの理想は健康美だ。
「お嬢様?」
「今行くわ」
カトレアの声に、返事をして歩き出す。
(やっぱりファランの頬は少しくらい丸くないとね)
頬を摘んで伸ばしながら、ファランは泣いていた小さなファランの頬を思い出す。
今なら、これからなら、仕方がないからではなく、ファランとして幸せになってみせようと心から思えた。
「うん。大丈夫そうだね。カトレアさん、水を持ってきてくれるかな?」
「はい」
「体を起こせるかい?」
声をかけられたが、ファランの体には、自分自身が戸惑ってしまうほど力が入らなかった。
「お嬢様、手を引きますね」
「背をお支えします」
ミモザとマグリットが体を起こすのを手伝ってくれ、クッションを背に入れてくれたので上体を起こせたが、お礼を言うにはあまりに喉が渇いていた。カトレアが、少しとろみのついた水を持ってきてくれ、それを飲んで初めて、少し声が出せる。
「皆ありがとう」
掠れていたからだろう、お礼を言ったが、三人が一様に涙ぐんで言葉を詰まらせた。
「何があったか、覚えているかね?」
医者にそう尋ねられて、ファランは数度瞬きをしてから、自分の手のひらを見る。
「ファランに…」
会っていた。
幼い彼女を抱きしめた。
何とかして、泣いているファランを助けたくて、手をとって連れ出そうとした。
「ん?」
「あ………いえ………えっと」
医者の不思議そうな顔に、夢の話だったと思い出す。
ちゃんと考えなくては、何があったのか。
「お茶を飲んで」
風邪にかかった。
そんなはずが無い。
「お茶を…飲んだん、です」
そして、倒れたのだ。
「………あの…もしかして…」
毒が入っていたのか、と確認しようとして、言葉が止まった。
両目から、涙が流れ出す。
「あれ?」
いったいどれくらい寝ていたのか、乾いてしわっとした手を持ち上げて、涙が伝う頬に触れようとした。
「お嬢様!」
ガッ、とその手を柔らかな手が掴んだ。鼻に、檸檬の良い匂いが届く。
「…ニーア?」
ベッドに乗り上げて、ニーアがファランの手を掴んでいた。
「ニーア! 下りなさい!」
「ダメですよ!」
カトレアとミモザが慌ててニーアに手を伸ばし、マグリットは困惑して口を開いて手を宙に彷徨わせる。
「大丈夫ですから! お嬢様には、ニーアが付いてますから! 誰が何と言ったって、ニーアは、お嬢様のお側に居ます!」
いつもの、少し間延びした喋り方ではなく、顔を真っ赤にして涙を浮かべて叫ぶニーアに、ファランは微笑んだ。
「うん。うん………ありがとね」
カトレアにベッドから下ろされ、ぽろぽろと涙を零し始めたニーアから、医者へと視線を動かす。
「自分の身に起きた事を、解っているね?」
確認され、深く頷く。
「今、生きている。それが全てです」
医者は微笑むと、
「それが大事だよ」
と、言った。
帰った後で、その医者が自分が産まれた瞬間に取り上げてくれた、ジャン・クリシアだと知る。グローリア領でのマーヴェラス家のかかりつけ医でもある人物だ。
それから、自分が一週間近く生死の境を彷徨っていた事も知った。
「そんなに寝てたのね」
夢現に目覚めては薬湯の類は飲んで居たらしいが、全く記憶にない。
「ずっとぉ、うなされてましたぁ」
目を覚ましてから、何故だかずっと離れなくなったニーアが、ベッドサイドでファランの手を握り締めながら答えた。
「ずっと?」
「どこにも行かないでってぇ、ずっとぉ…お父様ってぇ」
「…そう。そっか」
熱に浮かされてなお、呼んだのは父親だけだったのだ。
ファランは、もうその理由を知っている。
本当は、ずっと、知っていたはずだ。
夢の中でさえ、母と叔父が居るとは言わなかった。
「ニーアはお父さんにはなれませんけどぉ。お嬢様の側にずっと居ますからぁ…もう、泣かないでくださいねぇ………」
看病疲れが溜まっているのに、それでもファランを安心させるために、ずっと側にいてくれるつもりだったらしい。
手を握ったままベッドに顔を伏せて眠ったニーアの頭を、握られていない手でそっと撫でる。
「眠りました?」
「うん」
開けたままの扉の向こうから、そっとマグリットが顔を出した。実は、少し前に彼女が持ってきてニーアに飲ませたお茶の中に、眠りを促す薬が入っていたのだ。睡眠薬というほどの効果はないはずのそれが、こんなにすぐ効いたという事は、ニーアの体は眠りたかったという事だろう。
「もし、すぐに起きても、もう大丈夫だからゆっくり休んで、って伝えてね」
「はい。解りました」
もうずっと寝ていたはずだが、滋養食であるプリンをクリーム状にしたような温かい流動食を腹に入れたからか、その前に飲んだ口の中を唾液でいっぱいにしてくれた薬湯のおかげか、眠気はすぐにやって来た。
次に目を覚ましたのは、額に誰かの手が触れているのが解ったからだ。
「申し訳ございません」
「平気…自分で起きたとこだから」
カトレアが、また熱が高くなっていないかを確認していたらしい。
先ほどまでより、更に体調が良くなった気がして、自分でも額に触れてみる。
「熱、下がったよね?」
「下がっていると思います」
「良かった」
手伝ってもらいつつも、自分の腕で上体を押し上げて起こせた。
「元気…ではないけど、もう大丈夫そう」
「はい」
「というか、寝過ぎで体がおかしい感じなの、ちょっと、歩きたいんだけど」
「クリシア医師も、熱が下がればもう動いても平気だと仰っていました。用意してまいります」
「お願い」
カトレアを見送って、ベッドの上で思い切り体を伸ばす。ベッドを下りて、もう一度伸びをした。主に腰がだるいので、摩りながら反らし、体を戻して捻ってみる。
(うん。なんか、急に血が巡りだした感じで、心臓ドクドクいってるけど、大丈夫そう)
それから、腰を摩っている間に気になった事を確かめるため鏡の前に立った。
「うわぁ~…」
痩せている、というより、窶れている。
「こういう痩せ方はなぁ…」
ファランの理想は健康美だ。
「お嬢様?」
「今行くわ」
カトレアの声に、返事をして歩き出す。
(やっぱりファランの頬は少しくらい丸くないとね)
頬を摘んで伸ばしながら、ファランは泣いていた小さなファランの頬を思い出す。
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