悪役令嬢ってもっとハイスペックだと思ってた

nionea

文字の大きさ
49 / 84
侯爵閣下はそろそろアップを始めるようです

48.少しずつ行う方が

しおりを挟む
 一瞬惚けてしまったファランは、はっとして挨拶を始めた。身分を問わない集まりなのだから、最も遅く来た自分が挨拶をするべきだろうと気付いたのだ。
「ファラン・マーヴェラスです。蹄鉄については浅学でございますが、どうぞ、よろしくご教授くださいますようお願い申し上げます」
 相手の年齢層が高かったので、反射的に前世での仕事時の挨拶に近い言い回しをしてしまった。
(なんか…違う気がする)
 もう言ってしまったものを引っ込める事はできないが、少し後悔しつつ、反省する。
「まぁ! まぁまぁまぁ!」
 例の姿勢から体を戻しても、沈黙が落ちている事にどうしたものか考え始めると、不意にその声が沈黙を破った。
 窓辺に置かれた、トーリシア風の長椅子に腰掛けていた妙齢の女性だ。白髪まじりの金髪を、スッキリとまとめ、ファランと同じようにすっきりとしたドレス姿をしている。
 手を組んで微笑んでいたかと思うと、立ち上がってファランへ歩み寄った。
「こうして会うのはもう十数年ぶりだけれども、あの小さな女の子がこんなに素敵な女性になるなんて、私も歳を取るはずね」
 自分に近付いて来る左側の女性へ意識が向いていると、右側からも声が上がった。
 水盆に浮かんだ花びらを見ていた老齢の女性だ。真っ白な髪をして、だが大きな皺はありつつも張りのある肌を持ち、矍鑠としている。不思議とおかしいとは思わないが、何故か、喪服めいた黒いドレス姿をしていた。
「はじめまして。わたくし、アルティナ・モリアートよ」
 右側に意識を持って行かれている間に、傍らまで来ていた女性がそう挨拶をして、手をぎゅっと握った。
「はじめまして」
 ニコニコと笑う顔の、目尻にくしゃっと皺が寄り、丸みのある頬がふっくらと持ち上がる。
 アルティナの、何とも可愛らしい笑顔と握られた手の温かさに、思わずファランは微笑み返していた。
「貴方のお父様とは夫が親友だったのよ。はじめはね」
 ファランの手を取ったままくすくすと笑ったアルティナの視線が後に向かうと、ちょうど椅子から立ち上がった老齢の男性と目が合う。
「フィリックス・モリアートだ。学園で一緒だったのがシクロンとの縁でね。彼とはとても親しくなったのだが、気が付くと妻の方が私よりも彼の事をよく知るようになっていて…貴方の誕生を知ったのも何故か妻からだったよ」
 どうしてなかなか、という夫に、貴方は筆不精だからよ、と笑う妻。
 歳がそれなりに離れていそうな仲の良い夫婦の姿に、ファランはぎゅっと胸が締め付けられるような気がした。
「お二人が仲が良いのは結構ですけれど、彼女の前を開けて下さるかしら? ご挨拶ができないわ」
「やだ、ごめんなさい」
「今退くよ」
 二人の後から現れたのは、先ほど水盆の前で声を上げていた女性だ。
「私もシクロンとは学園で一緒だったのよ。貴方とは、二度目なのだけれど、憶えているかしら?」
 そう声をかけられて、ファランは真剣に記憶を掘り起こした。
 美しい弧を描く口元。青い瞳。今は白いが、おそらく元は銀髪だったと思われる髪。幼い頃、父の側にいて出会った人。
「………」
 全く思い出せなかった。
「ほほほ」
 女性が失笑するのを、ファランは少し驚いて見つめてしまう。クールな見た目をしているが、明るい人柄であるらしい。
「ごめんなさいね。まだ二つになる前の事だから、憶えている訳がないわ。マリアーナ・クロッシェよ」
「マリナ様は人をからかうのが好きなんだよ。昔からずっとね」
 そう言っていつの間にか近くに来ていたのは、この部屋で見知らぬ最後の男性。おそらくアルハルトと同じ程のこの中では一番若そうに見える壮年だ。
「ケイス・グレッグだよ。シクロン殿とは仕事でお世話になったのが縁でね」
「まっ、要するに全員シクロンの事をよく知ってる奴らって訳だ」
 背後に立っていたアルハルトがそう言って、ファランの肩を叩きながら結論付けた。
「蹄鉄はこの家の中に適当に飾ってある。好きに見て回ってくれ」
 つまり、好きに父の思い出を聞くと良い、という事だろう。
「はい。ありがとうございます」
 アルハルトの蹄鉄を持参した事を告げ、披露して、家を回って蹄鉄を見ながら、参加者から父の話を聞いて回る。
 四時間という時間は、思いがけず短く感じるほどの速さで過ぎていった。
 主催であるアルハルトと、途中で帰ったケイスを除く三人を見送って、ファランは改めて頭を下げる。
「今日は、お招きいただき、本当にありがとうございました」
「いや、こっちこそありがとな。お前の縁を広げるというより、こっち側が会いたがったってのが大きいからな。来てくれて良かったよ」
 こちらこそ来れて良かったですと、返して、首を傾けながら見上げる。実は話したい事があると言われたからこうして最後に留まっているのだが、言い難い事なのか、アルハルトからは用件が出てこない。
「あー…そういや、誰も誘わなかったんだな」
 これも、おそらくは本題ではないだろう。そうは思うが、普通に返す。
「いちおう、補佐人の方に声をかけたのですけれど。あまりに直前だったのでご都合がつかなくて」
「補佐人? どんなやつだ?」
「アルフレッドの口利きで入った、優秀な方ですよ」
「男か?」
「え? はい」
「若い?」
「はぁ、二十歳くらいの方ですけど」
 本題を切り出さない上に何故補佐人にこんなにも食いつくのか。ファランが眉を寄せつつも返答を重ねれば、アルハルトの眉も寄った。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

社畜の私は異世界でも社畜精神が残ったままだった

木嶋うめ香
恋愛
貴族学園の小さな部屋で、私は一人書類仕事に追われていた。 今日も寮には帰れそうにない、机の上には大量の未処理の書類。 せめて空腹を紛らわそうと、ビスケットを鞄から取り出し水を汲んでこようとして立ち上がった途端、視界が暗くなり倒れた。 床に倒れた反動で、頭を床にぶつける。 その衝撃で思い出した、私は前世ブラック企業に勤めていた社畜で、二十三連勤サービス残業付きの末、体調を崩し亡くなったアラサー営業職だった。 他サイトでもアップしています。

悪役令嬢がヒロインからのハラスメントにビンタをぶちかますまで。

倉桐ぱきぽ
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生した私は、ざまぁ回避のため、まじめに生きていた。 でも、ヒロイン(転生者)がひどい!   彼女の嘘を信じた推しから嫌われるし。無実の罪を着せられるし。そのうえ「ちゃんと悪役やりなさい」⁉ シナリオ通りに進めたいヒロインからのハラスメントは、もう、うんざり! 私は私の望むままに生きます!! 本編+番外編3作で、40000文字くらいです。 ⚠途中、視点が変わります。サブタイトルをご覧下さい。

【完結済】破棄とか面倒じゃないですか、ですので婚約拒否でお願いします

恋愛
水不足に喘ぐ貧困侯爵家の次女エリルシアは、父親からの手紙で王都に向かう。 王子の婚約者選定に関して、白羽の矢が立ったのだが、どうやらその王子には恋人がいる…らしい? つまりエリルシアが悪役令嬢ポジなのか!? そんな役どころなんて御免被りたいが、王サマからの提案が魅力的過ぎて、王宮滞在を了承してしまう。 報酬に目が眩んだエリルシアだが、無事王宮を脱出出来るのか。 王子サマと恋人(もしかしてヒロイン?)の未来はどうなるのか。 2025年10月06日、初HOTランキング入りです! 本当にありがとうございます!!(2位だなんて……いやいや、ありえないと言うか…本気で夢でも見ているのではないでしょーか……) ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽ ※小説家になろう様にも掲載させていただいています。 ※作者創作の世界観です。史実等とは合致しない部分、異なる部分が多数あります。 ※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係がありません。 ※実際に用いられる事のない表現や造語が出てきますが、御容赦ください。 ※リアル都合等により不定期、且つまったり進行となっております。 ※上記同理由で、予告等なしに更新停滞する事もあります。 ※まだまだ至らなかったり稚拙だったりしますが、生暖かくお許しいただければ幸いです。 ※御都合主義がそこかしに顔出しします。設定が掌ドリルにならないように気を付けていますが、もし大ボケしてたらお許しください。 ※誤字脱字等々、標準てんこ盛り搭載となっている作者です。気づけば適宜修正等していきます…御迷惑おかけしますが、お許しください。

お言葉を返すようですが、私それ程暇人ではありませんので

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<あなた方を相手にするだけ、時間の無駄です> 【私に濡れ衣を着せるなんて、皆さん本当に暇人ですね】 今日も私は許婚に身に覚えの無い嫌がらせを彼の幼馴染に働いたと言われて叱責される。そして彼の腕の中には怯えたふりをする彼女の姿。しかも2人を取り巻く人々までもがこぞって私を悪者よばわりしてくる有様。私がいつどこで嫌がらせを?あなた方が思う程、私暇人ではありませんけど?

幼馴染みが描いた悪役令嬢ものの世界に「メイド」として転生したので、6年後の断罪イベントをどうにか回避したい

ゆずまめ鯉
恋愛
通勤途中、猫好きではないのに轢かれそうな黒猫をうっかり助けてしまい、死んでしまった主人公──水縞あいり(26) 鳥の囀りで目を覚ますとそこは天国……ではなく知らない天井だった。 狭い個室にはメイド服がかかっている。 とりあえず着替えて備えつけの鏡を見ると、そこには十代前半くらいの子どもの姿があった。 「この顔……どこか見覚えが……」 幼馴染みで漫画家、ミツルギサイチ(御剣才知)が描く、人気漫画「悪役令嬢が断罪されるまで」の登場人物だということに気がつく。 名前はミレア・ホルダー(本名はミレア・ウィン・ティルベリー) 没落貴族の令嬢で、現在、仕えているフランドル侯爵によって領地と洋館を奪われ、復讐のために、フランドル侯爵の長女イザベラが悪役令嬢になるのを止めず、むしろ後押しして見事断罪されてしまうキャラだった。 原作は未完だが、相談を受けていたのでどういう結末を迎えるのか知っている。 「二期アニメもまだ見てないし、どうせ転生するなら村人Aとかヒロインの母親がよかった……!!」 幼馴染みの描く世界に転生してしまった水縞あいり=ミレアが、フランドル侯爵家で断罪回避するべく、イザベラをどうにかお淑やかな女性になるように導いている途中。 病弱で原作だと生死不明になる、イザベラの腹違いの兄エミールに、協力してもらっているうちに求愛されていることに気づいてしまい──。 エミール・ディ・フランドル(20)×ミレア・ウィン・ティルベリー(18) 全30話の予定で現在、執筆中です。2月下旬に完結予定です。 タイトルや内容が変更になる場合もあります。ご了承ください。

婚約破棄された悪役令嬢の心の声が面白かったので求婚してみた

夕景あき
恋愛
人の心の声が聞こえるカイルは、孤独の闇に閉じこもっていた。唯一の救いは、心の声まで真摯で温かい異母兄、第一王子の存在だけだった。 そんなカイルが、外交(婚約者探し)という名目で三国交流会へ向かうと、目の前で隣国の第二王子による公開婚約破棄が発生する。 婚約破棄された令嬢グレースは、表情一つ変えない高潔な令嬢。しかし、カイルがその心の声を聞き取ると、思いも寄らない内容が聞こえてきたのだった。

処理中です...