悪役令嬢ってもっとハイスペックだと思ってた

nionea

文字の大きさ
48 / 84
侯爵閣下はそろそろアップを始めるようです

47.地道な草の根運動によって

しおりを挟む
 出がけもきゃっきゃっ、と楽しく過ごしたファランは、馬車を下りた建物の前で、その楽しさが吹き飛んだ。
「え………」
 呪いの館。
 そう言われればきっと信じた。そういう薄暗さというか虚しさのようなものが、その建物には、漂っている。他の家々が建ち並んでいる場所から僅かに外れている立地。明らかに手入れをしなくなってしばらく経っていると解る木が鬱蒼とした庭。罅が入っているのにそのままの石畳。
 門扉は開いていたので、馬車で入ってきたのはいいが、人の姿が見つからず、玄関前で呆然と立ち尽くす。
「住所…合ってるよね?」
「はい。こちらで、間違いございません。住所は…」
 傍らでカトレアも、半分呆然としたように呟いた。
 住所通りに主人を運んできた御者も、困惑している。
 それどころか、心持ち車を引いている馬さえ、なんだか居心地悪そうにしている気がした。
 住所を書き間違えていたのではないか、とファランが疑い出した時。意外にも静かに目の前の建物の扉が開く。
「おお、来たな、ファリィ!」
 出てきたのは幽霊でも化物でもなく、アルハルトだった。
(ここで合ってたぁ)
 おかしな場所に迷い込んでしまったのではない事に安堵していると。アルハルトの後から複数人の男女が出てきて、御者を誘導したり、ファラン達を案内するため先導してくれたりし始めた。
「悪いな、当初とは場所が変わって。解り辛かったろ?」
「いえ」
(解り辛いというより、入り辛かったです)
 否定しつつも苦笑を隠せないファランの表情をどう読み取ったのか、アルハルトはもう一度謝ってから続ける。
「まぁ、心配すんな。この建物は見た目ほど手を入れてないわけじゃない。崩れたりはしない」
「なるほど」
 アルハルトの言葉に、外観はともかく中はちゃんと掃除も行き届いているな、という感想が間違っていないかったと納得した。
「それに、此処はただの目隠しだからな」
「目隠し?」
「本命は中庭だ」
 玄関扉を入って、左右の廊下でも正面左右の階段でもなくまっすぐ突き進むので不思議に思っていたが、建物を突っ切って中庭に出ようとしていたらしい。
「ようこそ『隠された箱庭』へ」
 アルハルトがそう言いながら扉を開けた先の光景に、ファランは思わず息を飲んだ。
「綺麗…」
 蔦の絡まる薄汚れた石壁に四方を囲まれた空間には、これでもかと陽光が降り注ぎ、先ほどの鬱蒼とした雑木の庭を霞ませた。きちんとした庭ではないが、様々な花が咲き乱れる中庭には、素朴な白壁の平屋の建物がある。
「この屋敷は四方から入れるが、全面がさっきのように廃館じみた見た目にしてあってな。実際は見張りも置いてるし、定期的に手も入れてあるんだが、ぱっと見ただけではそうとは解らないようにしてある。全ては余人にあの家での事が漏れないための配慮だ」
「あの家?」
「家といっても誰も居住はしてないがな」
「トーリシア様式ですね」
 白い漆喰と思われる壁。赤から橙の間の色で焼かれた瓦屋根。もうそれだけでこの国では見かけないレベルにトーリシアを意識していると解るのだが、ご丁寧に屋根の先に風鐸まで揺れている。
 ファランの記憶している範囲での話だが、彼女は自宅以外で風鐸を初めて見た。
「俺の祖父が建てさせたものだ。家具の類も全てトーリシア風だ」
「マーヴェラス家の実家も、一室だけトーリシア調にしてありますけど…全て、ですか。流石ですね」
「あくまで、風、だがな。マーヴェラス家のは生粋だろう?」
「はい」
 頷いてから、少し首を傾げた。
(なるほど)
 しかしながら、風、が強調された意味は、中に入ってすぐに解った。祖母の遺品であるトーリシア製の家具とは、確かに違う。おそらくは、木の種類などの素材から。きっと全て国内で製造したのだろう。だから風なのだ。
「ファリィは本物を知ってるからな、違和感が酷いかもしれないが、これでも一流の職人の作だ」
「いえ、これはこれで良いものだと。この国にはこの国に合った木材や布がありますから、デザインだけがトーリシアでも、素敵だと思いますよ」
「そうか!」
 自分が褒められたかのように笑った後で、アルハルトが口元を覆った。
 それが、照れているとかではなく、笑い続けているのだと気付いて、ファランは首を捻る。
「あの…?」
「ああ、すまん。シクロンも同じ事を言ってくれたのを思い出していた」
「父が」
「ファリィは見た目は先夫人に似ているが、シクロン似だな」
「そう、ですか?」
「ああ」
「そうですか…」
 今となっては元のファランとも言い難い状況なのだが、父に似ているという言葉は、すとんと胸に落ちてきて、嬉しさが込み上げる。
「ふふ、そうですか」
 はにかむように微笑むファランを目を細めて見つめてから、アルハルトは一室の扉を開けた。
「おい! ファリィが来たぞ!」
「あの…その呼び方は」
「心配するな、此処に居るのは皆シクロンと旧知の仲だ」
「え…!」
 言葉に視線を室内で巡らせる。
 窓からも光が大きく取り込まれている室内には、四人の男女が居た。全員が同じ歳には見えないが、おそらく、アルハルトよりも歳上なのは確かだろう。シクロンと同じ歳くらいの者も居るように見える。
(お父様の知り合いの方々)
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

社畜の私は異世界でも社畜精神が残ったままだった

木嶋うめ香
恋愛
貴族学園の小さな部屋で、私は一人書類仕事に追われていた。 今日も寮には帰れそうにない、机の上には大量の未処理の書類。 せめて空腹を紛らわそうと、ビスケットを鞄から取り出し水を汲んでこようとして立ち上がった途端、視界が暗くなり倒れた。 床に倒れた反動で、頭を床にぶつける。 その衝撃で思い出した、私は前世ブラック企業に勤めていた社畜で、二十三連勤サービス残業付きの末、体調を崩し亡くなったアラサー営業職だった。 他サイトでもアップしています。

悪役令嬢がヒロインからのハラスメントにビンタをぶちかますまで。

倉桐ぱきぽ
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生した私は、ざまぁ回避のため、まじめに生きていた。 でも、ヒロイン(転生者)がひどい!   彼女の嘘を信じた推しから嫌われるし。無実の罪を着せられるし。そのうえ「ちゃんと悪役やりなさい」⁉ シナリオ通りに進めたいヒロインからのハラスメントは、もう、うんざり! 私は私の望むままに生きます!! 本編+番外編3作で、40000文字くらいです。 ⚠途中、視点が変わります。サブタイトルをご覧下さい。

【完結済】破棄とか面倒じゃないですか、ですので婚約拒否でお願いします

恋愛
水不足に喘ぐ貧困侯爵家の次女エリルシアは、父親からの手紙で王都に向かう。 王子の婚約者選定に関して、白羽の矢が立ったのだが、どうやらその王子には恋人がいる…らしい? つまりエリルシアが悪役令嬢ポジなのか!? そんな役どころなんて御免被りたいが、王サマからの提案が魅力的過ぎて、王宮滞在を了承してしまう。 報酬に目が眩んだエリルシアだが、無事王宮を脱出出来るのか。 王子サマと恋人(もしかしてヒロイン?)の未来はどうなるのか。 2025年10月06日、初HOTランキング入りです! 本当にありがとうございます!!(2位だなんて……いやいや、ありえないと言うか…本気で夢でも見ているのではないでしょーか……) ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽ ※小説家になろう様にも掲載させていただいています。 ※作者創作の世界観です。史実等とは合致しない部分、異なる部分が多数あります。 ※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係がありません。 ※実際に用いられる事のない表現や造語が出てきますが、御容赦ください。 ※リアル都合等により不定期、且つまったり進行となっております。 ※上記同理由で、予告等なしに更新停滞する事もあります。 ※まだまだ至らなかったり稚拙だったりしますが、生暖かくお許しいただければ幸いです。 ※御都合主義がそこかしに顔出しします。設定が掌ドリルにならないように気を付けていますが、もし大ボケしてたらお許しください。 ※誤字脱字等々、標準てんこ盛り搭載となっている作者です。気づけば適宜修正等していきます…御迷惑おかけしますが、お許しください。

お言葉を返すようですが、私それ程暇人ではありませんので

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<あなた方を相手にするだけ、時間の無駄です> 【私に濡れ衣を着せるなんて、皆さん本当に暇人ですね】 今日も私は許婚に身に覚えの無い嫌がらせを彼の幼馴染に働いたと言われて叱責される。そして彼の腕の中には怯えたふりをする彼女の姿。しかも2人を取り巻く人々までもがこぞって私を悪者よばわりしてくる有様。私がいつどこで嫌がらせを?あなた方が思う程、私暇人ではありませんけど?

幼馴染みが描いた悪役令嬢ものの世界に「メイド」として転生したので、6年後の断罪イベントをどうにか回避したい

ゆずまめ鯉
恋愛
通勤途中、猫好きではないのに轢かれそうな黒猫をうっかり助けてしまい、死んでしまった主人公──水縞あいり(26) 鳥の囀りで目を覚ますとそこは天国……ではなく知らない天井だった。 狭い個室にはメイド服がかかっている。 とりあえず着替えて備えつけの鏡を見ると、そこには十代前半くらいの子どもの姿があった。 「この顔……どこか見覚えが……」 幼馴染みで漫画家、ミツルギサイチ(御剣才知)が描く、人気漫画「悪役令嬢が断罪されるまで」の登場人物だということに気がつく。 名前はミレア・ホルダー(本名はミレア・ウィン・ティルベリー) 没落貴族の令嬢で、現在、仕えているフランドル侯爵によって領地と洋館を奪われ、復讐のために、フランドル侯爵の長女イザベラが悪役令嬢になるのを止めず、むしろ後押しして見事断罪されてしまうキャラだった。 原作は未完だが、相談を受けていたのでどういう結末を迎えるのか知っている。 「二期アニメもまだ見てないし、どうせ転生するなら村人Aとかヒロインの母親がよかった……!!」 幼馴染みの描く世界に転生してしまった水縞あいり=ミレアが、フランドル侯爵家で断罪回避するべく、イザベラをどうにかお淑やかな女性になるように導いている途中。 病弱で原作だと生死不明になる、イザベラの腹違いの兄エミールに、協力してもらっているうちに求愛されていることに気づいてしまい──。 エミール・ディ・フランドル(20)×ミレア・ウィン・ティルベリー(18) 全30話の予定で現在、執筆中です。2月下旬に完結予定です。 タイトルや内容が変更になる場合もあります。ご了承ください。

婚約破棄された悪役令嬢の心の声が面白かったので求婚してみた

夕景あき
恋愛
人の心の声が聞こえるカイルは、孤独の闇に閉じこもっていた。唯一の救いは、心の声まで真摯で温かい異母兄、第一王子の存在だけだった。 そんなカイルが、外交(婚約者探し)という名目で三国交流会へ向かうと、目の前で隣国の第二王子による公開婚約破棄が発生する。 婚約破棄された令嬢グレースは、表情一つ変えない高潔な令嬢。しかし、カイルがその心の声を聞き取ると、思いも寄らない内容が聞こえてきたのだった。

処理中です...