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侯爵閣下はそろそろアップを始めるようです
46.信頼回復とは
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三度目の登城の翌日。
ファランは、クライフから学ぶ山野局並びに他局の仕事についての勉強会中、机にへばりついた。
見間違いようがないほど解り易く、よく頑張りました、という見守り先生な表情のクライフの事も、もう気にならない。子供扱いされた事に赤面して悔しがった昨日の事はなんだったのか。勉強という分野において、脳みその疲労がファラン至上過去最高なのだから、どうしようもない。
(もう子供で良い…疲れた。疲れたよぅ)
今頭を揺すられたら耳から記憶が漏れ出ていくような気さえする。もう目盛りギリギリいっぱいに満杯だ。記憶容量が飽和臨界点だ。
(あああああ…なんかもう発熱してる気さえしてきた)
タイミング良くカトレアが運んできてくれた、ハーブティーを飲んで、ようやく少しだけ落ち着いた。
「すみません。ご理解が早いので、あれもこれもとなってしまいました」
「んー…大丈夫です。教えてもらいたかったのは私の方で…ありがたいです。ただ、もう、今日はもう」
声にならない声で勘弁してください、と伝えると、苦笑を浮かべたクライフが机の上を片付けながら言う。
「はい。もう終わりにしましょう」
ゆっくりなさってください、と続いた言葉にゆっくりと頷いた。
しばらく何もせずぽわぽわしていたファランだったが、だいぶ落ち着いてくると、思考が動き始める。
「そういえば…クライフさんは、蹄鉄はお好きですか?」
「蹄鉄、ですか?」
唐突な質問にクライフは首を傾げたが、ファランは、アルハルトから誰か誘うのなら、と余分にもらった招待状の事を考えていたのだ。勿論、蹄鉄愛好家達の集いへの招待状だ。
「突然すみません。実は、明日、蹄鉄の鑑賞会に参加するんですが、もし、お好きでしたら、ご一緒にいかがですか?」
笑顔のファランに、クライフは、微苦笑で答える。
「…申し訳ありません。お誘いは大変嬉しいのですが、明日は用事がありまして」
「そうですか。こちらこそ、急にお誘いしてしまって」
申し訳ない、と続けようか迷って間が空くと、クライフが先に口を開く。
「いえ、本当に、お誘いは嬉しく思います。もしまたの機会がありましたら、是非」
「解りました。そうした際は是非」
「ありがとうございます」
それから少しだけ雑談をして、クライフは帰っていった。
ファランは、残った部屋で、余分にもらった招待状を弄ぶ。封筒の対角の角を指の腹で支え、ふぅっと息を吹きかけてくるくると回しているのだ。特に意味はない。
(クライフさん蹄鉄好きなんだなぁ。私が思ってるより蹄鉄愛好家って多いのかな?)
もし考えている事が口に出ていたら、茶器を片しているカトレアが聞き咎めただろうが、生憎とファランは口には出していなかった。クライフはあくまで誘われた事を喜んでいたのであって、蹄鉄が好きだとは一言も言っていないのだが、すっかり蹄鉄好きに認定してしまっていた。
(まぁ、貴族でなくても必ず家にあるものだし。一人一つ持っててもおかしくないんだから、好きな人が多くても納得か)
もしかしたらこの蹄鉄愛好家の集いの招待状は、実は価値あるものかも知れない。何せ、表面上はともかく、実態は元国王が主催しているのだ。
(そう考えればとても重い招待状のような気がする)
遊ぶ手を止め、そっと机に鎮座させる。
封筒は、心持ち、先程より神々しいオーラを放っていた。
(でもその貴重な招待状が猫小判あるいは豚真珠状態な訳で…)
茶器を下げて戻ってきたカトレアに声をかけてみる。
「カトレアは、蹄鉄好き?」
「私はお嬢様の侍女として参加させていただきますので」
「そうだよねー…」
カトレアの父親はグローリア領内で男爵位を持っている。貴族令嬢としてパーティに出席してもなんの問題にもならない。が、彼女にその気は無いようだ。
(家にはカトレア以外に私が仲良しな貴族子弟はいないのよね。一応主催が職人だから規定も無い事にしてるみたいだけど…蹄鉄が好きだって言ってた人もいなかったと思うしなぁ………私に人脈があれば、なんかすごい貴重な招待状として色々利益を生んだかもしれないのに)
いや、人脈などといわずとも、せめて一人くらい友人がいれば。きっと有益な何かを、引き寄せたのではないか。つい、貧乏性が顔を覗かせ、招待状を無価値にするのはもったいない、と訴えてくるが、ファランにはどうする事もできない。
結局。二枚の招待状を一人で持って、蹄鉄愛好家達が集うパーティへ向かう事になる。
「どうかした?」
準備を万端整え、馬車に乗り込むぞ、という段になっているのだが。ミモザが、じっとこちらを見ているのに気付き問いかけた。
「いえ、あの…本当にアクセサリーはなさらなくてよろしいんですか?」
「ああ。主目的は蹄鉄の鑑賞との事だから、いらないの」
髪だけは、ハーフアップのまとめた部分に銀製の髪飾りをつけてはいるが、それ以外の装身具は一切着けていない。
「基本的に、美術品や工芸品などの目に見える物を鑑賞する会の場合は、その目的物以外は控えめにするものだから」
自分も数日前にカトレアに教えてもらった知識を、訳知り顔で披露してみたファランは、感心顔のミモザに見つめられて内心で鼻を伸ばす。
「へぇ…」
「『はい』でしょう?」
「はいっ!」
思わずつぶやいてしまったミモザの返事とも言えないような返事を聞き咎め、いつの間にそこに居たのか、カトレアが背後に立っていた。
(あ、カトレアって、同僚部下への指導は結構厳しい感じなのかな…笑顔でスパスパ切れ味鋭い感じが垣間見えたぁ………いや、よく考えたら私に対しても笑顔だけど笑ってないって事はあるな。全部私のためだけど)
カトレアは、良い部下であると同時に良い上司でもあるんだな、と垣間見た侍女達の関係に微笑ましさを覚えたファランであった。
ファランは、クライフから学ぶ山野局並びに他局の仕事についての勉強会中、机にへばりついた。
見間違いようがないほど解り易く、よく頑張りました、という見守り先生な表情のクライフの事も、もう気にならない。子供扱いされた事に赤面して悔しがった昨日の事はなんだったのか。勉強という分野において、脳みその疲労がファラン至上過去最高なのだから、どうしようもない。
(もう子供で良い…疲れた。疲れたよぅ)
今頭を揺すられたら耳から記憶が漏れ出ていくような気さえする。もう目盛りギリギリいっぱいに満杯だ。記憶容量が飽和臨界点だ。
(あああああ…なんかもう発熱してる気さえしてきた)
タイミング良くカトレアが運んできてくれた、ハーブティーを飲んで、ようやく少しだけ落ち着いた。
「すみません。ご理解が早いので、あれもこれもとなってしまいました」
「んー…大丈夫です。教えてもらいたかったのは私の方で…ありがたいです。ただ、もう、今日はもう」
声にならない声で勘弁してください、と伝えると、苦笑を浮かべたクライフが机の上を片付けながら言う。
「はい。もう終わりにしましょう」
ゆっくりなさってください、と続いた言葉にゆっくりと頷いた。
しばらく何もせずぽわぽわしていたファランだったが、だいぶ落ち着いてくると、思考が動き始める。
「そういえば…クライフさんは、蹄鉄はお好きですか?」
「蹄鉄、ですか?」
唐突な質問にクライフは首を傾げたが、ファランは、アルハルトから誰か誘うのなら、と余分にもらった招待状の事を考えていたのだ。勿論、蹄鉄愛好家達の集いへの招待状だ。
「突然すみません。実は、明日、蹄鉄の鑑賞会に参加するんですが、もし、お好きでしたら、ご一緒にいかがですか?」
笑顔のファランに、クライフは、微苦笑で答える。
「…申し訳ありません。お誘いは大変嬉しいのですが、明日は用事がありまして」
「そうですか。こちらこそ、急にお誘いしてしまって」
申し訳ない、と続けようか迷って間が空くと、クライフが先に口を開く。
「いえ、本当に、お誘いは嬉しく思います。もしまたの機会がありましたら、是非」
「解りました。そうした際は是非」
「ありがとうございます」
それから少しだけ雑談をして、クライフは帰っていった。
ファランは、残った部屋で、余分にもらった招待状を弄ぶ。封筒の対角の角を指の腹で支え、ふぅっと息を吹きかけてくるくると回しているのだ。特に意味はない。
(クライフさん蹄鉄好きなんだなぁ。私が思ってるより蹄鉄愛好家って多いのかな?)
もし考えている事が口に出ていたら、茶器を片しているカトレアが聞き咎めただろうが、生憎とファランは口には出していなかった。クライフはあくまで誘われた事を喜んでいたのであって、蹄鉄が好きだとは一言も言っていないのだが、すっかり蹄鉄好きに認定してしまっていた。
(まぁ、貴族でなくても必ず家にあるものだし。一人一つ持っててもおかしくないんだから、好きな人が多くても納得か)
もしかしたらこの蹄鉄愛好家の集いの招待状は、実は価値あるものかも知れない。何せ、表面上はともかく、実態は元国王が主催しているのだ。
(そう考えればとても重い招待状のような気がする)
遊ぶ手を止め、そっと机に鎮座させる。
封筒は、心持ち、先程より神々しいオーラを放っていた。
(でもその貴重な招待状が猫小判あるいは豚真珠状態な訳で…)
茶器を下げて戻ってきたカトレアに声をかけてみる。
「カトレアは、蹄鉄好き?」
「私はお嬢様の侍女として参加させていただきますので」
「そうだよねー…」
カトレアの父親はグローリア領内で男爵位を持っている。貴族令嬢としてパーティに出席してもなんの問題にもならない。が、彼女にその気は無いようだ。
(家にはカトレア以外に私が仲良しな貴族子弟はいないのよね。一応主催が職人だから規定も無い事にしてるみたいだけど…蹄鉄が好きだって言ってた人もいなかったと思うしなぁ………私に人脈があれば、なんかすごい貴重な招待状として色々利益を生んだかもしれないのに)
いや、人脈などといわずとも、せめて一人くらい友人がいれば。きっと有益な何かを、引き寄せたのではないか。つい、貧乏性が顔を覗かせ、招待状を無価値にするのはもったいない、と訴えてくるが、ファランにはどうする事もできない。
結局。二枚の招待状を一人で持って、蹄鉄愛好家達が集うパーティへ向かう事になる。
「どうかした?」
準備を万端整え、馬車に乗り込むぞ、という段になっているのだが。ミモザが、じっとこちらを見ているのに気付き問いかけた。
「いえ、あの…本当にアクセサリーはなさらなくてよろしいんですか?」
「ああ。主目的は蹄鉄の鑑賞との事だから、いらないの」
髪だけは、ハーフアップのまとめた部分に銀製の髪飾りをつけてはいるが、それ以外の装身具は一切着けていない。
「基本的に、美術品や工芸品などの目に見える物を鑑賞する会の場合は、その目的物以外は控えめにするものだから」
自分も数日前にカトレアに教えてもらった知識を、訳知り顔で披露してみたファランは、感心顔のミモザに見つめられて内心で鼻を伸ばす。
「へぇ…」
「『はい』でしょう?」
「はいっ!」
思わずつぶやいてしまったミモザの返事とも言えないような返事を聞き咎め、いつの間にそこに居たのか、カトレアが背後に立っていた。
(あ、カトレアって、同僚部下への指導は結構厳しい感じなのかな…笑顔でスパスパ切れ味鋭い感じが垣間見えたぁ………いや、よく考えたら私に対しても笑顔だけど笑ってないって事はあるな。全部私のためだけど)
カトレアは、良い部下であると同時に良い上司でもあるんだな、と垣間見た侍女達の関係に微笑ましさを覚えたファランであった。
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